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魔法少女☆ソルシエ  作者: Rio.K
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10.5話 (前編) ー救いの街「秋葉原」ー

「、ひっく、、、ぅああ、、次いくぞつぎぃぃ!」



「ちょっとティターニア!飲み過ぎです!もう帰りましょう!」



神田のとある居酒屋を出た西園寺と付き人マルシェ。

大酒飲みで路上で寝てしまうことが多々ある西園寺をにリミッターをかけるべく付き添うのは毎度のことだ。



「マルシェ!ぅ、ぉこ、ここはどこだ!」



「神田です!もうすぐ秋葉原になっちゃいますよ!家は逆ですよ!」



「ぁぁ?あきはばらぁ?ぃくぅ!いく!」



西園寺に肩を貸し歩いているとやがて万世橋が見えてきた。

家とは逆方向に歩いてしまっている。

夕方から飲み歩いてもう何軒目だろう。

西園寺は少なくとも赤ワイン5本、白ワイン5本、ウイスキー10本以上を一人で空けている。

通常ありえないが念のため言っておこう。彼女は人間ではない。



「行きませんよ!明日もお仕事なんですから!もう帰らないと!」



「ぅ、ぅぉ、おまえが、、か、帰れぇ!バーカ!」



「バカとはなんですか!ひとがせっかく、、、。もう知りません!勝手にしてください!」




マルシェに突き放され一人万世橋を渡る西園寺。

泥酔で揺れる街灯、水面に溶け込む光は天の川を思わせるほどきらきらと美しく見えた。

どこか見覚えのある街の風景を尻目に、ただただ足を前へ前へと進めていく。



ーマッチ、、いりませんか、、?ー



突然少女が話掛けてきた。

小柄で質素なワンピース姿。赤い頭巾をかぶっている。

どこからどう見てもマッチ売りの少女だ。

しかしなぜ現代のしかもこんな都会に、、、。


「ぅ、ぅえ、、、ま、、、まっち売りの、、、しょ、、しょうじょ、、、?」


「はい。マッチ、、いりませんか、、?」






<おかえりなさいませー!お嬢様ー!>





「ぅ、、な、なんだここ??」



「なにってお嬢様、赤ずきんカフェですよー。さっき言ったじゃないですかぁ。」



「さっきって、、、、あ!あのマッチ売り!」




そう。まんまと客引きに連れられ来店してしまった西園寺。

この街にいつからか乱立したメイドカフェはあらゆるジャンルが誕生。ついにはこのような赤ずきんカフェというまさになんでもありなところまで到達していた。



「あー、、じゃあとりあえず炭酸飲みたいからスパークリングワイン」



「きゃーお嬢様シャンパンですか!ありがとうございますー!私も一杯頂いてもいいですか?てへ☆」



<バタン!>




「クッソ!なにが赤ずきんだ!ただのガールズバーじゃねーか!

 ぅ、、ぅぁぁ、ラ、ラッパ一気したらまた、よ、、酔いが、、、」




酔いが回ってきたというが、神田の時点に比べればいくらかさめている様子。

しかし帰る様子を見せず、ひたすらフラフラと街を間歩する。

人は誰しも、宛てもなく無意識に歩いて行動する時がある。でもそれは、知らず知らずの間に意図的にどこかへと向かっている場合が多い。

『無意識』、つまり意識をしない時ほど人は本能的にありのままに行動をするからだ。

人生という長い旅の中で、人は本能的で正直な自分をついつい忘れていってしまう。

本能を忘れることが大人になるということなのなら、大切なことを忘れることが大人になるということなのなら、、、




「ぅ、、ぅ、、ぅお、大人になんか、、なぁらないぞぉぉ、、、、!ぅあ、あたしは死ぬまで、、ま、、魔法少女、だぁあ!」




<フッフッフ、まさかこんなところで同じ魔法少女に出会うとは。だけどダメよ。そんなに大きな声で正体を明かしては。>



「ぁ、、ぁ??な、なぁんだおまえ!だぁれにけ、けんか売ってんのかこらぁぁ」



突如目の前に現れた魔法少女に一瞬戸惑う西園寺だったが、

かつては世界中を震撼させた天才魔女だ。争ったとしても秒殺の自信ありだった。

しかし現れた少女はひるむことなく西園寺に切り返した。



「随分自信がおありなのね魔法少女のお姉さん。ここで戦っては一般人に迷惑をかけるわ。場所を変えましょう。」



「ぉ、ぉう!じょおとうだぁぁ!」




<おかえりなさいませー!お嬢様ー!!>




「な、なんだぁぁ?ここは?」



「なにってー、お嬢様、魔法少女カフェですよー。さっき言ったじゃないですかぁー!」



魔法少女カフェに本物の魔女が来店した。

当然だがそれに気づいている者は誰一人いない。

それどころか、かなりノリのいいお客が来たと店員たちはテンションが上がっていた。



「魔法少女のお姉さーん、飲み物なににしますかー?」



「ぁー、、、むぁー、、、マグナムのシャぁンパン!マぁグナムだったら、、ぁー、、、なぁんでもいい!」



「かしこまりましたー!ところでお姉さん、属性はあるんですかー?」



「ぅあ、ぁー、、ぁたし? あたしわぁ、、、別に無いし。攻撃も防御もーいける。」



「わー!すごーい!弱点無しのオールマイティじゃないですかぁ!」




ある意味噛み合ってるしある意味噛み合っていない。

方や仕事、方や本気だ。

5分ぐらい喋ってオチさえあればアンジャッシュも真っ青なコントの完成だ。



「おまえわぁぁ−、なぁああ、なんなんだよ、、、、得意なぁぁのとか、ぁあんのか?」



もはや相手が偽物かそうじゃないのかさえわかっていない。

自分を忘れているのだろうか。はたまた自分以外を忘れているのだろうか。


秋葉原という街は実に不思議な街だ。

エンターテイメントで溢れている街だ。優しい街だ。

だからこそ優しい人が集まって、優しいオーラで溢れていた。




「私ですかぁ?私は攻撃は全然まるっきりぜーんぜんだめでぇ、防御とか回復系が得意なんですぅ。

でー、ニックネームはバンシーちゃんですー。

だから巷では<癒しのバンシー>なんて呼ばれてるんですよぉ。」




そう。とても優しくて。

訪れる人々を包み込むような、

そんな街だった。







「ぅぁ、??バンシー?おまえ、いまバンシーって言ったか?、、、、」



<、、、、バリーンッ!!!バシャーンッ!!!>







それが、いつからだろう、

その優しさを土足で踏みにじる者が現れ、

街は光を失っていった。








「ぇ?ぇ?お姉様?どうしたんですか?ちょ、ちょっと、、キャッ!」


<ガターンッ!ガガッ!バサッ、、、、ギューーーーググッ、、、、、>



「ちょ、、ちょっと、、、、苦しいぃ、、、、」



「おめえあたしが誰だか知ってっか?」



「ぅぅ、、、、、、、、だ、だれか、、、、、」



「誰に断ってバンシー名乗ってんだ、ぁぁ?癒しだぁ?バンシーはなぁ、防御なんてしねぇんだよ。」





誰のせいでもない。

強いて言えば時代がそうさせたのであろう。

優しすぎるが故に。





「ちょ、ちょっと!お客様!落ち着いてください!私が店長です!一旦外にでましょう!」




「ぅおい!離せ!!!!偽バンシーこらぁぁ!!!バンシーは攻撃に命かけてたんだ!次見つけたらぶっ殺すかんな!!!!!」




<バサッ!>



路上につき倒される西園寺。

かなり酔っているのか、もう抵抗する素振りすら見せない。



「お客様困りますよー。ボトル割ってメイドに突きつけるなんてぇ。

 でも僕は優しいですから、女性に対しては。

 今日のところは見逃してさしあげましょう。

 お代も僕が出しましょう。お客様美人ですから。あぁ、なんて優しい僕!イケメン!

 ミスターパーフェクトゥー!!

 でーも、もう二度とうちのお店には来ないでくださいね。

 来たらすぐに、おまわりさんですからね。アディオス。」




西園寺は地面に倒れながらも下向きの親指を突き出した。



そしてしばらくすると仰向けになり、夜空をじっと見つめる。

ビルとビルの間、そんなに空なんて見えないのに、

ずっと空を見ていた。限りある空が、限られた自由に感じる。

人間という生き物は、高いところにある自由へ手を伸ばすように高い建物を建てる。

でもその自由はいつだってだれかの自由を邪魔している。それを繰り返している。

大人なんてそんなものだ。



「ぅぁ、、そうだぁ、、思い出した。秋葉原、、、、。ここだったかぁ、、、。」




大人になればなんでもできる。子どもの頃はそう思っていた。

だけどそんなことはない。

ほんとになんでもできたのはあの頃で、




<ほら!早くしないと非常階段の鍵がかかっちゃうよ!早く!>



「ぅ、、?この声は、、、」




その「あの頃」は一瞬しかないことを、

彼女たちはわかっていたのかもしれない。




「国望、武藤、桐島、東山。あいつら、、。何時だと思ってんだ。こんな状態じゃなかったらいますぐに。。。明日みっちり説教だ。」






ー30分後ー




「あ、こんなとこでお姉さん大丈夫ですかぁ?今なら飲み放題1000円です☆めいどかふぇキラポワです☆てへ♪」



「ふ、、ふざけんなーーーーーー!!!!」





続く

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