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フレンド②

 フレンが俺の携帯電話に居座ってから5日が経った。初めはなんだかんだ言っても自分の携帯電話にかわいい女性がいるのは嬉しかったが、次第にその気持ちは薄れていった。

「勇人、今日はもう火曜日だよ! 引きこもっていないで学校に行こうよ!!」

 フレンは指をこちらに立てながら言ってくる。

 フレンの言葉はえらく正論で俺にはとてつもなく耳が痛い。それはもう、鼓膜に響き渡るぐらいだ。と、俺は無言で携帯の音声をミュートにした。

 さらに数分後、またフレンの声が聞こえた。どうやら俺の携帯にいるだけあった、携帯の操作などもできるようだ。

「そうやって嫌なことから目を背けるようじゃあ、この先生きていけないよ!?」

 まったくこいつは、人の気を知らないで・・・・。

 今度は電源を消そうと思い、携帯のパワーボタンに手を掛けた。銀色の塗装を施されたボタンに手を掛けたとき、まるで悪魔のような囁きが聞こえてきた。

「勇人がもし、もしも携帯の電源を消したならば、私は次に携帯の電源が入った瞬間に、勇人の携帯の検索履歴をネットの海に流す」

「なっ!?」

 俺は動揺から手に握り締めていた青色のスマホを床にすべり落とした。再び自分の手に掛けようとした刹那、またもフレンの悪魔の囁きが耳に入る。

「そうだ、どうせ流れるなら閲覧数も上位に食い込むようなものにしたいな-。『みんな俺の性癖どうもう?』って題名か、『あの美少女アイドルの携帯の履歴発覚!? 思わず服を脱いだ』とかの釣りスレとかでもいいかな-」

 悪魔かこいつは!!

 俺の携帯履歴には正直そこまで危ないものは入っていない。ちゃんと思春期男子の範囲を守っている。繰り返すが、危ないものは入っていない。法に触れるようなものは!!

 さて・・・、正直どこまでこいつが本気かはわからないが、俺の携帯の履歴と学校に登校する苦しみ・・・。天秤に掛けたら履歴を晒されたほうがマシだった。しかし、これ以上両親を苦しめるのも嫌だ。それに、一度こいつに俺の学校での立場を見せ付ければ、もう学校に行こうなんている最悪な暴言は吐いてこないだろう。

「わかった、今から準備するから待ってろ」

 俺は自分のスマートフォンを無造作にベットの上に放り投げた。

 久しぶりにあけるクローゼット。いつもは3種類の服をローテーションして着るので開けることがなかった。クローゼットを開けると、少し埃とカビのような独特の臭いがした。

 俺は少し感慨深い気持ちになったが、フレンがいることを思い出し、制服に手を掛けようとした。

「なんでお前なんかがいるんだよ」

 !!?

 俺は思わず制服を放しあたりを見渡した。しかし、そこには俺以外誰もいない。いるはずがない。

 俺はまだ怖がっているのだろうか。自分自身の心の傷はそれだけ深かったのだろうか。

 自分にもわからない自分の心。もう平気だと思いながらずっと目を背けていた心。

 だが、俺は前に進みたい。

 意を決して制服を乱暴に掴む。

「・・・・」

 今度は聞こえなかった。

「どうかしたの?」

 フレンは俺の気持ちなんて知らないから、俺が変なことをしているようにしか見えないだろう。だが、俺は確かに前に進むことが出来た。

「いや、なんでもない」

 制服に腕を掛け、ズボンを穿いた。それらはまるで新品のようだった。きっとお母さんが綺麗に洗濯してアイロンを掛けてくれたのだろう。

 ベットの枕元においてある、ペンギン型の時計を見るともう9時を回っており、どうあがいても一時間目の授業には間に合いそうになかった。元より教室に行く気はなく保健室登校するつもりだったが、何か気がひけた。

 一通り準備を済ませるのに10分かかった。というのも、何を持っていけばいいか思い出すのに苦労したからだ。

 カバンの中には財布と定期券、そしてやるつもりはないけど今日の授業の教科書一式を持ち、ポケットには携帯電話を忍ばせた。

 誰もいないリビングを抜け、玄関に向かう。俺の登校用の靴は長らく使っていなかったためか下駄箱の奥底のほうに置いてあり少し探すのに苦労した。

「それでは行って来ます」

 誰に聞こえるわけでもなく、俺はロスタイムのある学校登校へと勤しんだ。



「うっ・・・・」

 玄関を出た瞬間、久しぶりになる太陽様の直射日光というとても農業的にはありがたいプレゼントを強制的にもらうことになった俺は、その時点でやる気の半分を持っていかれた。

 太陽の熱は道路のアスファルトに当たり、それをさらに俺に反射させてくる。上からも下からもくる熱の攻撃に思わずうなだれる。

 コレは人を殺せる・・・

 俺は近くにあった自動販売機に駆け寄り、冷えたコーラの買った。

「まだ家を出て5分も経っていないのに、糖類たっぷりのコーラに手を出すとは・・・・。女性の敵ですよ?」

 フレンがこちらを煽ってくる。うるさい、倒れてガリッガリの状態で点滴を打たれるよりもマシだ!!

 っと、俺がコーラを飲んでいると警官の制服を着ている男性が現れた。

「君たち、ここで何をしている」

「!!」

 警官から見た俺の今の状況は、学校をサボってコーラを購入し、この後遊びにでも出かけるんだろう、という感じだろう。印象は最悪だ。

「いえ、実は体調が悪くてここ最近登校していなくて・・・、それで久しぶりに外に出るとこの暑さで・・・」

 俺の見苦しい言い訳をどうやら警官は信じる気はなく、それどころか素直に謝らないだめな奴という目をしている。半分以上本当のことなんだけどなー。

「まったく・・・、一応学校に連絡しとくから学校教えて。もしサボったらばれるからね」

 俺は警察官に促されるがまま学校名を伝えるとすぐに電話を掛けられ、逃げるという選択肢を排除させられた。途中何度か警察官がこちらをチラ見した。きっと、不登校ということがバレたのだろう。

 電話を終えた警察官はこちらを見てため息をした。

「はぁ、君学校いってなかったんだね。まったく、いくら学校で嫌なことがあったからって、逃げているだけじゃあ解決しないよ。このままだと駄目な引きこもりになって人様の迷惑になるゴミに成り下がるんだよ。だから我慢してでも学校に行きなさい」

「・・・・・」

 何だこの警察官は。初めからそこまで印象は良くなかったが、今ので自分の嫌いな人間であることがわかった。

 この警察官の人間性は、世の中の正しいことを相手の理由などを一切考慮せずに、あまつさえそれを『正しいこと』だと思い込んでいるタイプの人間だ。もちろん理由に関わらず悪いことだってある。しかしそれでも相手の理由を尋ねて判断してほしいと俺は考えている。コナン君レベルで犯罪を犯しても仕方ないと思えることもあるいかもしてない・・・・。犯罪は犯罪だが。

 これ以上こんな人間と関わりたくないと思った俺は、適当に相手の言葉を正当化してその場を離れることにした。背中からは警察官の「ゴミにはゴミが付くのか・・・」という意味のわからないけどこちらへの誹謗中傷だと受け取れる言葉が聞こえたので、今日の2chの投稿記事にしようと決意した。

 それにしても警察といるときにフレンがしゃべらなかったのは助かった。もし不登校者が携帯電話に美少女としゃべることの出来るアプリなんて入れていたら、かなりメンドクサイことを言われていたに違いなかった。

「ありがとうな」

 フレンの気遣いに俺は素直に感謝を述べた。

 正直からかわれると思っていたが、しかしフレンの反応は違った。

「・・・・」

「ん!?」

 フレンはこちらに何を言うわけでもなかった。

 人目を気にしながら携帯の画面を覗き込む。するとフレンの表情は明らかに悪く、肌の色は青白くなっていたのだ。

「大丈夫かフレン!!」

 一体何が・・・・・

「勇人・・・・・・・」

 フレンはまるで病人かのような声を発した。ただごとではない。

 俺が警察と話しているときに何があったんだ。警察官が見えないところでなにかしたのか!?

 必死に考える俺をよそに、フレンはおぼろげに口を開いた。

「勇人・・・外気温が高すぎるのと、ずっと稼動しているから、携帯がオーバーヒートしそう・・・・」

「・・・・・・」

 俺は無言で携帯電話の電源を落とした。

 










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