もし割とめんどくさい人が異世界転生したなら
考えてみて欲しい。
もし第二の人生があり、そこはよくある剣と魔法の世界だったと仮定しよう。そして既にたくさんの人間が、不慮の事故等で亡くなり、その世界に転生している。
妖精のような小虫に、そのような説明を受けたあと、職業の選択に迫られている。
「途中からの職業の変更はできません。
どれになりますか?
剣士。
魔法使い。
神官。
商人。
盗賊」
あなたはどの職業を選ぶだろうか?
どうして俺がこのような事を聞いているかというと、今、リアルでそういう状況下にいるのだ。そして俺は何度もこのように回答している。
「王がいい」
「残念ながら、王様にはなれません」
「この世界には職業選択の自由がないのか?」
「はい、ありません」
「ではお前はどうやって、今やっているナビゲートの仕事を手に入れたのだ?」
「え、え?」
「それって随分と楽な仕事ではないか。無知な初心者に適当なことをほざいて、冒険に連れ出して一丁あがりってやつだろ?
市役所の職員並みにルーチンワークな安定職だ。どうやったらその職業になれるのだ。賄賂か?」
「え? え? あたしはそんなことをしていません」
「とにかく俺も初心者ナビの妖精がやりたい。どうやったらなれる?」
「む、無理です」
「やっぱりな。お前はそうやって新規参入を未然に防ぎ、甘い汁を吸い続けたのだろう」
「ど、どうしてそのような事を言うのですか?」
フェアリーは泣き出したが、ここで手を緩めては駄目だ。
今までこいつは、楽な仕事にあぐらを組んできたのだ。
「お前の仕事を奪われたくなければ、俺を王にしろ」
「だからそれは無理なのです」
「嘘をつくなと言いたかったが、これ以上言及はやめよう。話が前に進まないからな」
「はい、お気遣いありがとうございます」
「先程お前が言った職業だが、一番人気が高いのはどれだ?」
「剣士と魔法使いです」
「それぞれ何パーセントだ? 小数点第二位以下切り捨てで教えろ」
「え? 分かりません」
「お前は初心者ナビのプロなんだろ? そんなことも知らんのか」
「あ、はい。誰も聞いたことがないから……」
フェアリーはしゅんとしているが、容赦はしない。
こいつは長年、この安定的な職で食いつないでいる公務員だ。
俺が世間の厳しさをたっぷり教えてやる。
「これから冒険を始めようとしている者にとって情報とは、つまり命ともいえる。それを的確にアドバイスできない奴は失格だ。俺がお前の無能さを露呈してやる。それが嫌なら、王にしろ」
「ちょっと上に話をしてきます」
しばらくしてフェアリーが帰ってきた。
「あのですね。ボーナスポイントを2倍お出しするので、勘弁してくれませんか?」
「駄目だ。5倍出せ。そしてレベルも限りなくあげろ!」
「え、さすがにそれは……」
「じゃぁ上を連れてこい。直接話をつけるから」
こうして俺は、レベル9999の最強剣士として冒険をスタートさせることに成功した。