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魔法探偵  作者: Rewrite
3/3

魔術結社編 前編

月島遊子を『幽玄』が引き取って1週間。

遊子は魔法を失うため、カウンセリングを通じて気持ちを慰めることで少しずつ緩和しているようだ。

何度か龍騎は様子を見に行って励ましたりしている一方で、奈々華は不服だった。

「別の女なんて、どうだっていいじゃん」

「奈々華、そんなこと言うなよ。俺たちが調べた事件の終わりぐらい見届けたいだろ?」

「ふーんだ」

相変わらず奈々華は他人には興味がない。

兄として龍騎も何とかしたい気持ちはあるが、なかなか一筋縄ではいかないようだ。

部屋の掃除をしていると、一本の電話がきた。

「意霧か? いつもなら携帯にかけてくるのに」

違和感を感じながらも、家に電話をかけてくる人間など意霧しかいないので、龍騎は気にせず電話に出た。

「もしもし、意霧か? 今日はどうした?」

「『呪われし兄妹』だな」

「!」

明らかに意霧の声ではない。

「お前、誰だ」

「お兄、どうしたの?」

龍騎の様子がおかしいので、奈々華が傍による。

「俺は『魔術結社』頭首のクラーゲン。お前たちを探していた」

「探していた・・・?」

「先日の火災事件を調べていたのをたまたま見つけたのだ。お前たちに用がある」

「用って、何だよ」

「それは会って話そう。『魔術結社』に来い」

「来いって、どこへだ?」

電話口でクラーゲンは嘲笑う。

「お前たちは探偵なんだろう? 推理して来てみろ」

(こいつ、俺たちのことを本当に知っているな・・・)

知ったかぶりで揺すりをかけている可能性も考えていたが、それはなさそうだった。

「推理しろって言っても、何も情報がないだろ」

少しでも情報を聞き出そうと会話を続ける。

「それもそうだな。ならヒントを一つ、『いばらよ、王女を守っておくれ。そして終わりで会おう』。では待っている」

そして一方的に電話は切られた。

受話器を置いた龍騎を見て、奈々華は話しかけた。

「今の、誰だったの?」

「分からない。ただ、俺たちのことを知っているみたいだった」

「どういうこと?」

奈々華も事情が呑み込めていないようだ。

二人が『呪われし兄妹』であることは『幽玄』関係者しか知らない。

研究者の中の誰かを疑うべきだろうと感じていた。

「ただ、何か用があるみたいだった」

「そんなの、ほっとけばいいんじゃない?」

「そうはいかない。もしも世間に公表されれば、俺たちのようやく得たこの生活さえも失われる」

魔法は受け入れられていない。

もし龍騎たちのことを知られてしまえば、世間の目は厳しく冷酷に向けられ、完全に研究所の外へ出られなくなる。

龍騎は自身の心配よりも、奈々華のことを守らなければと思っていた。

「それもそっか・・・」

奈々華もようやくリスクを理解した。

「とりあえず、『幽玄』に行く」

「私も行く」

「おとなしく待ってろって言っても、聞かないんだよな?」

「当たり前でしょ?」

二人はすぐに家を出て、幽玄を目指した。


「意霧!」

「おう、自分から来るなんて珍しいな」

「ちょっと来い」

研究者の中にクラーゲンがいる可能性があるのを考慮して、意霧だけを連れて奥の部屋へと入った。

「おいおい、何だってんだよ?」

「実は・・・」

家での電話のことを話した。

「それはまずいな」

意霧も腕を組んでため息をついた。

「そこは俺も感じている。だからクラーゲンの要求が何なのか聞いてこようと思う」

「止めはしないが、気を付けろよ。こっちは研究所内に怪しい人間がいないか調べてみる」

意霧の『探究探知』ならすぐに分かるだろう。

奈々華を連れて、すぐに幽玄を後にした。


「会いに行くって言っても、場所分かるの?」

「ヒントを考えよう」

「あ、まだ分かってないんだね・・・」

奈々華ががくっと肩を落とした。

「仕方ないだろ、プロの探偵じゃないんだから。奈々華も一緒に考えろよ」

「はーい」

普段から推理しない奈々華はやる気がなさそうだ。

「まず、電話で言ってた『いばらよ、王女を守っておくれ。そして終わりで会おう』って言葉だな」

「どういうことなんだろ?」

「前半の『いばらよ、王女を守っておくれ』ってのは、確か『眠れる森の美女』の一文だったと思う」

「グリム童話だね」

「けど、後半の『そして終わりで会おう』ってのは、『眠れる森の美女』にはない文章なんだ」

「んー・・・」

考えるが、答えは簡単に出てこない。

しばらく悩んでいると、ふと奈々華が電話のことを聞いてきた。

「他にヒントになりそうなことは言ってなかった?」

「電話の主がクラーゲンって名乗ってたのと、『魔術結社』頭首ってことぐらいかな」

「『クラーゲン』? 変な名前」

「そう言われたら確かにな」

電話が来た時は混乱していたため、そこまで頭が回っていなかった。

龍騎はおもむろに携帯を取り出し、調べてみる。

「ドイツ語で『嘆き』って意味らしい」

「ドイツ語だったんだ。本名ではないね」

「そういえば、『眠れる森の美女』もドイツのグリム童話だったな」

「それもドイツなんだ」

少しつながりが見えてきた。

他にヒントにならないか考えていると、奈々華が口を開いた。

「『眠れる森の美女』って『いばら姫』とも言うよね」

「はっ、それだ!」

龍騎は改めて携帯を取り出し、ドイツの国の地図を調べた。

「ドイツには『いばら姫』ルートっていう、グリム童話にちなんだ観光ルートで『ドイツ・メルヘン街道』ってのがあるんだ。その街道の終着点が『ブレーメンの音楽隊』のゆかりの地である『ブレーメン』。電話のヒントの『そして終わりで会おう』ってのは、ブレーメンのことだな」

「それって・・・」

二人にとってブレーメンと言われると思い当たる場所があった。


「ここだ」

龍騎たちが住む地区のはずれに『喫茶ブレーメン』という名前の喫茶店がある。

二人がまだ小さかった頃、意霧に連れられて来た。

「ブレーメンに何かあるのかな?」

「分からないけど、行ってみよう」

何年振りかに入店した。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「は?」

「へ?」

龍騎たちは唖然とした。

数年前に来たきりだから、店の雰囲気が変わっているのは多少あるだろう。

ただ目の前にいるのはまぎれもなくメイドさん。

「な・・・、いつからここはメイド喫茶になったんだ・・・」

予想外の光景にしばし固まる。

すると、奈々華が顔を赤らめて龍騎を見た

「お兄、見ちゃダメ!」

奈々華の指がストレートに龍騎の目を狙い、龍騎はそれを間一髪でかわす。

「うぉぉ、危ねぇ! 何するんだよ!」

「こんな破廉恥なの、お兄にはまだ早い!」

「お前の方が俺より年下だろうが!」

「何よ!」

二人のやり取りを見かねたメイドさんが声をかけてきた。

「落ち着いてください。メイド喫茶じゃないですよ」

「ああ、やっぱり違うのか」

ふぅ、と安堵する。

「ここはいい雰囲気の喫茶店だったもんな。まさかそんなことないよな」

「もちろんです。これは私の趣味です」

龍騎は床にうなだれた。

「どうなってんだよ、この店は・・・」

「お兄、出よ!」

龍騎を引きずって外に行こうとする奈々華の前に、メイドさんが素早く立ちふさがる。

「何のつもり?」

「マスターにお二人を帰さないように言われているので」

「マスターって店長さん?」

「いえいえ。我らが『魔術結社』頭首様のことですよ」

「何だって・・・?」

伏していた龍騎が起き上がる。

「何でその名前を知ってるんだ?」

「それはもちろん、この私が『魔術結社』秘書の浅倉三雪あさくらみゆきだからです」

反射的に龍騎は奈々華を庇うように三雪と向き合った。

「お前のマスターの要件は何だ」

「それは直接会って聞いてください。さぁ、案内しますよ」

三雪はカウンターの奥にある扉を開け、手招きした。

「行くか」

奈々華がこくんと頷き、意を決して三雪の後に続いた。


奥の部屋、一人の男がソファーに座っていた。

「よう、来たか」

龍騎たちはその男がクラーゲンだと確信した。

聞きたいことは多くあったが、単刀直入に聞くことにした。

「要件は何だ?」

「ストレートに来たな。要件は『呪われし兄妹』、お前ら『魔術結社』に入れ」

「は?」

言っている意味が理解できなかった。

「まぁ話は長い。とりあえず座れ」

男は警戒する二人を無視し、あくまで自分のペースを貫いている。

龍騎はひとまず指さされた向かいのソファーに座った。

隣に座った奈々華は少し怯えているのか、龍騎の片腕を抱いて黙ってる。

「まず俺の本名は玖珂真守くがまもる。なぞなぞで推理させたのはほんの気まぐれだから気にするな。クラーゲンは仕事上の名前として使っている。そんで、俺たち『魔術結社』の仕事は政府から直接指示される任務をこなすこと」

「任務?」

龍騎は眉をひそめる。

「お前たちのようにどこかのラボに所属して、その所長を介して政府から指示を受けて任務をこなすやつらは多いだろう。ただ俺たちは直接任務を受けている」

「なぜラボを介さない?」

「介せない内容の任務だからだ」

真守は立ち上がり、部屋の一番奥に置かれた本棚からファイルを取り出してきた。

それを龍騎は受け取り、開いてみた。

「これは?」

そこにはとある人物のデータと思われる個人情報が載ったプリントが収納されていた。

「そのデータの一番下、見てみろ」

ゆっくり目線をおろすと、そこには『任務内容』と記されており、書いてあったのは。

「殺害、だと・・・?」

簡潔に一文だけ、殺害せよと書かれていた。

「それが政府から直接送られてくる任務資料と内容ってことだ。研究所の役目は魔法が理由の事件を調べて魔法を使った人物を割り出して確保、喪失を手助けすること。だが俺たちはそんな生易しい任務じゃない。そこに入ってる資料は全部、俺たちが今までに遂行してきた任務だ」

ざっと数えただけで、50枚は越えているだろう。

奈々華の龍騎にしがみつく力が、一層強くなった。

「さっき、俺たちに『魔術結社』に入るように言ったな。それはこの任務とやらを手伝えってことなのか?」

「さすが『魔法探偵』。話が早くて助かる」

「なら簡潔に答えるが、断る」

立ち上がり、すぐさま部屋から出ていこうとする龍騎を真守は制した。

「待て待て、話は終わってないぞ」

「殺人者と話すことなんてない」

「そうか、なら仕方ないか・・・」

真守がため息をつくと同時に、三雪は魔法名を名乗った。

「『絶体絶命ダイホールド』」

「こんなとこで魔法を使うのか!?」

相手の魔法の詳細が分からないので、龍騎はとっさに三雪から距離を取り、奈々華を背中に庇う。

そんな龍騎の態度を見て、三雪はくすりと笑った。

「大丈夫ですよ。私の魔法は攻撃性はほとんどありませんから」

実際、何か被害があったわけじゃない。

あえてほとんど、と表現したことに引っ掛かりを覚えつつ動きに注目していると、真守が右手を構えた。

「さて。よく見ておけよ、俺の魔法は『氷結の嘆き(フーリレンクラーゲン)』!」

刹那、真守の手から大量のつららが放たれた。

「きゃ!」

後ろで奈々華の悲鳴が上がる。

「くそ!」

相殺するために、龍騎も手のひらを向け、炎の壁を作った。

つららは突き抜けることなくすべて溶けて蒸発した。

「ほう、魔法名を名乗らず手振りだけでここまでの力が出るのか」

真守は感心していた。

次に攻撃が来ないと分かり、龍騎は一度炎を消してから真守を睨んだ。

「どういうつもりだ!」

「怒るなよ、落ち着け。口で言うより実践した方が分かりやすいと思ったんだよ」

言っている意味が分からず、相変わらず警戒心むき出しの龍騎を見て、真守はふたたびため息をついた。

「もう攻撃はしない。落ち着いて座れ。三雪、もう魔法解いていいぞ」

「はい、分かりました」

特に何かが変わったわけではない。

「私の魔法はこの部屋をいかなる衝撃からでも守るものです。だから龍騎様が炎を出しても、部屋には一切の焼跡がないでしょう?」

「確かに・・・」

床、天井、壁、すべてが最初に入った時のままを維持している。

「さて、話は戻すが、なぜ俺たちは魔法名を名乗るか知ってるか?」

「そんなの考えたこともないな」

そっけなく答える。

「だろうな、お前たちの魔法の教え親は幽玄意霧だろう。なら知らなくても無理はない。そもそもだ、研究所が調べて分かっていることをお前たちがどの程度知らされていると思う?」

「魔法の基本的な性質や法則は説明された」

「そう、所詮はその程度だ。けどな、政府が握ってる魔法の情報はもっと多い。例えば今言った魔法名がそうだ。魔法名は名乗らずとも魔法を発動できる。ただ、名乗った方が威力は強くなる」

(思い返せば、そんな気がする・・・)

龍騎も素直に肯定する。

「そして魔法を放つときに無意識で手のひらを相手に向けるだろ? お前は幽玄意霧の真似をして覚えたんだろうが、あれも魔法の威力を上げている。つまり、そういった身振りの動作をうまく魔法と連携させられれば威力は上がる」

「何となくは分かった。なぜそれをお前が知ってるんだ?」

「それこそが『魔術結社』が政府直属の組織だからだ。政府は魔法に関して分かっていることを研究所に最小限しか教えない。なぜだか分かるか?」

「・・・」

龍騎は黙り、そして奈々華も首を横にふった。

「兵器を生まないためだ」

「兵器?」

「魔法を使えるだけで、もはやそいつは人間の限界を凌駕する。そしてそんな奴が魔法の威力を上げてみろ、国家の軍さえも潰せてしまうかもしれないだろ。そしたら日本は、あるいは世界が秩序を失い、世界規模の魔法戦争になる」

理屈は通っているも、あまりに大きな話のため、龍騎たちにはそこまで明確なイメージが持てなかった。

「政府からの任務のほとんどは、そういった兵器となりえる人間が魔法を使いこなしてしまう前に殺害することだ。そして現状、もっともその危険性があると政府が睨んでいるのは、お前たち『呪われし兄妹』なんだ」

「俺たちを殺すつもりか・・・?」

「そんな身構えるな。殺すならもうとっくにやってる。俺はお前たちの魔法の力を見込んでるんだ。事実、さっき魔法名を名乗った俺の魔法を、名乗らずに弾いて見せただろ? しかもお前はもう一つの魔法を隠し持ってるとくれば、そりゃ国もビビるってもんだ」

「お兄はそんな、誰かを傷つけるような魔法の使い方をしない!」

今まで黙っていた奈々華が、立ち上がり強く否定した。

「もちろん、奈々華もな」

いつものように、頭を撫でると、奈々華はおとなしく座りなおした。

そのやり取りには真守は興味なく、話を続けた。

「お前らの魔法の強さを見込んで、一つ手伝ってほしい」

「手伝うって、何を?」

「次の任務として送られてきた資料がこれだ」

龍騎は手渡された資料を見た。

奈々華も覗き込んだ。

「名前は来須秋羅くるすあきら、17歳の男で魔法名は『罪の断罪クライムダウン』。内容は殺害」

「殺すのは賛同できない」

龍騎はすぐに拒否する。

『魔法探偵』をしているのは、龍騎にとって人助けだからこそであり、傷つけることは絶対にしない。

意霧もそれは知っているからこそ、そういった任務を託したことがない。

「もしそいつが魔法の使い方を覚えて、裏で残虐行為をしているとしたら、どうだ?」

「なっ・・・!」

「それでもお前は野放しにできるのか!」

龍騎はどこかで思い違いをしていたことに気付いた。

真守を単なる殺人者として見ていたが、実はそういうわけではなかった。

「俺たちは何としても奴を止める。ただ、実際相当強い魔法持ちで、俺たちだけで完全に勝てるか正直なところ分からない。そこで」

続きを言う前に、龍騎が切り返した。

「俺たちに協力しろ、ってことか。要件は分かった。けど、それに応えるメリットが俺たちにはあるのか?」

意霧の任務に従っているのは、生活費の援助という明確な報酬があるからこそだ。

「二人の魔法の強化を手伝う」

「強化?」

「三雪がいれば、この部屋で何しようが壊れないから、存分に魔法の練習ができる。『魔法探偵』なんてのをやってるんだ、魔法の戦闘になったことがないわけじゃないだろ?」

「それは、確かに・・・」

すべての捜査対象者が素直にうなずいてラボに同行してくれるわけじゃない。

「なら、ラボが知らない政府の知識、欲しいんじゃないか?」

悪くはないが、真守の任務を手伝うのにかなり危険もある。

返答に悩んでいると、部屋のドアが開いた。

「面白い話だね、それ」

突如現れた人物に、その場が凍り付く。

「なぜ・・・!」

「お前は!」

そこにいたのはまぎれもなく、龍騎の手に握られた任務の資料に載っている、今回のターゲットたる来須秋羅本人だった。

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