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『ウェストミンスターの鐘』の音がする。つまりは学校のチャイム。
やったー!今日も無事に学生の本分終了です!さーて、今日は部活もないし、(ちなみに吹奏楽部に入ってますよ。でも弱小というより、趣味の延長みたいな集まりだからそこまで熱血じゃない。今日も部長が休みだからないってだけだし。楽器はトランペットと最近コントラバスをやり始めました!)用事もない!本屋にでも寄って最新刊チェックしよーっと。
「小鳥遊」
いそいそとカバンに持って帰るものだけをしまい込んで、ニーと他の友達にバイバイして教室から出る。ニーは美術部で、こちらは吹奏楽部と違ってそれなりに名の通った大会で優勝とかしてるから結構真面目にやってる。ニーもすっごい上手いんだ!食べ物のデッサンだけ!
「小鳥遊」
今日は17日でしょー?何か出てたっけ?あ、有栖川シリーズの新刊……ダメだ。あれ単行本だから高いや。今度お母さんと出掛けた時にでもおねだりしよう。
「小鳥遊!」
あとは文庫かコミックか。まぁぷらぷら見てればなんかいいもの見つかるかも。よし!ハシゴしよっと。
「たかなし……」
ん?メールだ。サランラップ買ってきてって……。ちゃんと後で請求しなくっちゃ。
「小鳥遊さんお願いします無視しないでください」
「和泉くんいい加減しつこいよ?諦めて。」
私は色々予定が詰まってるの。忙しいんだから。
「アイツに一人で対峙するのは嫌だ。ってか無理。なんか本能がダメだって言ってる気がする!」
「だからってなんで私が付いていかなきゃなんないのさ。ヤスか他の男子に頼みなよ。」
女子でも喜んで付いてってくれると思うよ?イケメン対イケメンだし。
「いや、小鳥遊じゃなきゃ……ってか視えてるんだろ?アイツの『ナニカ』が」
チッ。バレてたか。でも私はしらばっくれますよ。
「なんのおはな」
「見つけたぞ!和泉日向!敵前逃亡とは、男のかざか」
「「うるっさいわ!ちょっと黙っとれ!」」
おや、気が合いましたね。
「じゃあ和泉くん。また明日ね!」
私は関係ない私は関係ない私は関係ない!なのに……
「小鳥遊、頼むよ……」
「っ!」
い、いけめんの懇願力半端ないっす……。
和泉くんの中身がそこら辺の男子と変わらないから忘れてたけど、この人イケメンなんだよね。学校でも注目されてるぐらいの。そんな人から覗き込まれて頼まれてみなよ。無碍には出来ないよね……。
「…………私に何しろって言うのさ。」
だから!パッて顔を輝かせないで!パンジー一斉に咲いたじゃん!
「一緒にいてくれるだけで心強い!」
「何それ。私ってばどんだけよ。」
「おい!ボクを無視するな!」
さっきからうるさいなぁー。いくら和泉くんに負けないイケメンでも、私はこいつが苦手です。
こいつ――影永泡沫。泡沫って書いてうた。正真正銘の男。名前に謝ってって思うぐらい、儚いイメージがない。去年同じクラスで、ちょーが付くほどの自分大好きナルシスト。そんでもってこいつの後ろ……
『ぷしゅーーー』
象がいるんだよね。パオーンとは言わないけど、たまに繰り出す鼻息?がうるさい。和泉くんの(感情表現は激しいけど)おとなしいきりんさんを見習えってのよ。
ちなみにこいつの時は笑わなかった。というか、笑えなかった。ドン引いちゃったから。こいつへのあまりの嫌悪感に。
「あれ?君は確か……」
「なんだ、知り合いか?」
「イイエ。ワタシシリマセン。」
「ボクと同じクラスだっただろ!確か、高橋さんの前にいた……たかさきさん?」
誰!誰なのさたかさきって!
こいつ、あんだけ人のこと馬鹿にしておいて、名前も覚えてないって……本当に腹立つ!
この、影永泡沫は、世間一般で言えばイケメンの部類に入る。和泉くんが切れ長イケメンなら、影永は可愛い小動物イケメンだろう。そして本人もそのことはよくわかっている。でもってそれに伴うようにして背が低い。私よりも。それがコンプレックスなのか、去年はそれでしょっちゅう絡んできた。曰く、『巨神兵が歩いてる……』とか『ボクより大きくて、恥ずかしくないの?』とか『高橋さんの身長を見習った方がいいよ』とか。こっちだって女子にしては高い身長を気にしているのに、刺激しまくるしまくる。途中から無視してやったけど。
しかもニーが好きだそうで、そのニーが私にベッタリなのも気に食わなかったらしい。最後の方はただの悪口になっていた。あんたは女子か!って突っ込みをしたかったよ。
そんな影永。一番のライバルは和泉日向だ!って勝手に豪語してたけど、今までは特に接触しなかったのに、なんで今さら勝負なんか申し込んでるの?バカなの?バカなんでしょ?正直に『ボクはバカです』って言ってごらん?
「ボクはバカじゃない!」
あ、口に出してたみたい。大丈夫。気にしてないから。
長くなりそうだったので切りました。