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遅くなってすみません。先週の分になるので、今日は2話投稿してます。ご注意を。
パンジーとキリンさんを抱えている人こと和泉くんと意外なほど打ち解けた次の日。朝から私の顔はニマニマしてた。
別に怪しい人じゃありませんよぉ~。ただ、『和泉くんに友達を作ってあげよう大作戦!』を思い付いたもんだからね、楽しみで。
おせっかいと言われればそうなんだけど、本人も望んでるみたいだし、何より今まで不快な思いをさせたことに対するお詫びのつもりでもある。
和泉くんはきっかけさえあればすぐにクラスに馴染めると思う。顔と頭の良さ(全国模試10位以内らしい)と運動神経の良さ(オールマイティーに出来るんだとか)を除けばそこらにいる男子高校生と変わらない。漫画の中の年不相応の落ち着いた雰囲気とか、話してみると皆無だしね。だからこそなんも考えずに話せたんだけど。
な・の・で!私がそのきっかけを作ってあげようではないか!という簡単な作戦。うん、作戦と言うほどのものでもなかったね。
でもクラスに馴染むと多分、漏れなく女の子の質問攻めか猛攻防が再開されると思う。まぁそこはほら、和泉くん本人にがんばってもらうとして。
…………あれ?なんだろうこの感じ。和泉くんと女の子たちの攻防……え、すっごく見た
「イチーー!おはよー!」
そう言って後ろから抱きつき私の思考を止めたのは、
「おはー、ニー」
高橋仁果。私の一番の友達。仁果、通称ニーとは高校からの友達だけど、似ている名前とか数字繋がりの観点からすぐに仲良くなった。なんかずっと前から知ってるような気がして、まだ知り合って1年ちょっとだとは思えないぐらい。
「うう~ん、今日もイチのお胸は寂しい感じですな~。見晴らしが素晴らしいですよ~?」
「殴ってもいいんだよね?正当防衛で許されるんだよね?」
私とニーは名前は似てるけど容姿は全くと言っていいほど似てない。ニーは小柄な童顔巨乳のロリ体型。対する私は背高のっぽの老け顔貧乳体型。いや老け顔でもいいもん!年取った時に若く見られるはずなんだもん!胸はこれから成長するかもだし!
「イヤだな~イチさんってば。真実を述べたまでのことよ!そんなことより、」
「人の胸事情をそんなことより呼ばわりしないでよ!」
これだから巨乳は!
「朝から濃厚な会話してるねぇ。セクハラで訴えられちゃうよ?」
「ヤス!とってもいいところに!」
ぽわぽわしたシャボン玉と、ピヨピヨ鳴いてる小鳥を常に背景に背負ってるこのクラス一癒し系の男子、安井礼人が話しかけてきた。ヤスとニーは中学校の頃からの友達なんだって。
「なに?イチってばわたしよりヤスの方がいいって言うの?この浮気者っ!」
「ヤスにぜひ頼みたいことがあってね、」
「無視しないで!仁果泣いちゃう!」
ニーはいつもこんな感じだからスルーが正しい反応です。
「僕に頼み?なぁに?」
「実は…………和泉くんにちょこっと話しかけて欲しいの。」
「「和泉くん??」」
ニーとヤスが見事にハモって聞き返してきた。そんなに驚くことだろうか?
「うん。いつもぼっ……『孤高の王子様』和泉くん。昨日ちょっと話す機会があってね?話してみたら意外と気さく(?)な人で、クラスにもちゃんと馴染みたいって言ってたからさ。ヤスなら和泉くんも人見知りしないんじゃないかなって。私が口出すことじゃないのはわかってるんだけど、聞いちゃったら何とかしたくなるじゃん?ヤス、頼める?」
ちょっと脚色はしたけど、概ね嘘はついてない。ヤスならその癒し系オーラで誰とでもすぐ仲良くなれるから、和泉くんにもいいと思ったんだ。中身は普通の男子高校生だし。
「いっちゃんの頼みだし、別にいいけど……なに話せばいいんだろうね?」
それは確かに。初会話ってきっかけがなかなか難しいもんね。
「「「う~~ん」」」
ニーまで巻き込んで3人で考え込んでると、
ガラッ
いつものように無言で和泉くんが教室に入ってくる。今日もその麗しい顔の後ろにはパンジーを咲かせて……ってあれ?キリンさんもいる?今まで視えなかったから、昨日の『壁ドン』効果で現れただけだと思ったのに、今度からデフォルトになったの?困るよ!笑いが堪えられなくなっちゃう!
しかも、いつもは真っ直ぐ自分の机に向かうのに、今日は教室をぐるっと見渡して……
あ、目が合った。
え?こっちに来るの?いやいやいや、いいよ来なくて!自分の机にお座りなさいな。そしたらヤスが私のミッションを遂行しに行くから。そこからは和泉くん次第だけど、ちゃんときっかけは作るから!だからお願い!話しかけ
「おはよう、小鳥遊。」
ちゃった。遅かった……。
突然だけど、ここでこの学校について説明します。
この学校は、普通科の中でも特進クラスというものがある。その名の通り進学に特化したクラスで、成績上位者が集うクラス。もちろん、他のクラスの人たちも進学出来るけど、国立大を目指すのなら特進クラスの方が有利。その分勉強量は半端ないけど。しかもそれは2年に進級するときに決められる。希望と成績を擦り合わせて。
今私がいるクラスは特進クラス。この隣にあるクラスも。つまりは私は勉強が出来る女子な訳ですよ。ふふん。
……じゃなくて、今このクラスは割りと穏健派というか、和泉くんに対してご執心な人は少ない。でも、特進クラスではない普通クラス、1年の時に和泉くんと一緒だったちょっとケバい中西さんと中嶋さんという二人は別。かーなーり和泉くんにご執心。クラスが違うにも関わらず、和泉くんが話さない(真実は分からないけど)にも関わらず定期的に会いに来る。この二人に良い噂はなくて、和泉くんに告白した女子が嫌がらせにあったとか、和泉くんに話しかけた子が忠告を受けたとか。とにかく彼女たちに目をつけられるのは面倒な事態にかならない。
なのに、なのにだ!和泉くんが自ら話しかけたと知られたら何されるか!昨日は放課後でほとんど人がいなかったからまだ良かったけど、今はヤバイ。大変ピンチ。彼女の友達はこのクラスにいなさそうだけど、どこから話が漏れるかわかったもんじゃない。だから話しかけないで!って言ったのに。
閑話休題
まさか挨拶されて無視する訳にも行かないから、だいぶ引き攣っていると自覚がある顔で
「お、はよう。和泉くん。」
と返しておいた。
「小鳥遊、昨日は……」
「あーー!和泉くん!この!ヤスがね!和泉くんに話したいことがあるんだって!」
何を話すか分からないけど、昨日の大部分は人に聴かせる話じゃない。私の秘密が含まれてるし。だからヤスに降ってしまった。ごめんね、ヤス……
「え?僕?あぁ、うーんと…………和泉くん、良い天気だね?」
「??夕方から雨になるそうだけど。」
「え、そうなの!?僕傘持ってくるの忘れちゃった~」
「わたしも忘れた~イチ入れて帰ってねっ。」
「……ニーとは逆方向だけど」
「ねっ!」
「……わかった。」
別に忙しい訳じゃないしね。
「……俺で良ければ傘持ってるけど。」
「ほんと!?じゃあお言葉に甘えようかな~」
ここでも纏まったらしい。でも続ける会話が!
「僕ね、今世界を救う旅に出てるからさぁ、一刻も早く家に帰りたかったんだよね~」
???何の話?
私とニーが首を傾げてるけど、どうやら和泉くんにはピンと来たらしい。
「……狩りはしてないのか?」
「してるよ~和泉くんもするなら、一狩りどう?」
「よし、やろう!」
あれ?二人して机に座って鞄から携帯ゲーム機を出して急に遊び始めた。もしかして、
「作戦成功?」
「何の作戦かは分からないけど、ヤスと和泉くんは打ち解けたみたいだね。」
男子の友情ってよくわからない。でもヤスも和泉くんも楽しそうに一狩りしてるらしい。
その光景に目を瞠ってた他のクラスメイトも、一狩りするためなのか見たいのか、和泉くんとヤスの周りに集まって二人を覗き込んでは何やら話しかけてる。
なんか拍子抜けするぐらい私の作戦は成功したらしい。
その証拠に、和泉くんは見えなくてもキリンさんは視えてる。……なぜかは知らないけど、首をぶんぶん回して楽しそう。あ、パンジーも揺れ加減すごっ!ってか本物のキリンさん絶対そんなこと出来ないよね!?笑いを通り越して感嘆のため息が出そうだよ!?
こうして、呆気なく『和泉くんに友達を作ってあげよう大作戦!』は終わりを告げたのでした。
知らなかった。その光景を、真っ黒なオーラに包まれた人が見ていること。