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『え~……の?き……わ…い!』
『で……~?ほん…む…!』
『『キャハハハハ!』』
「小鳥遊?お~い?どした?」
遠く聴こえた声と、近くから聴こえる和泉くんの声。それから目の前で振られる手。覗きこむ……キリンさん?
「うおっ!なに?ちょ、びっくりするじゃん!」
「うおって……急に小鳥遊が黙りこむからだろ。どーしたんだよ。」
「へ?」
どーもしないけど……
心配そうな和泉くん。なんか『孤高の王子様』のイメージがだだ崩れなんだけど。良い意味で。
「何でもないよ?あんがと。心配してくれて。」
「べ、つに。心配なんかしてねーし。」
しかもツンデレキャラか?意外と可愛いじゃん。
「あー、さっきの質問ね。背景が視えるってだけじゃその人の考えてることはわからないよ。背景って、その人が『見せたいもの』が一番に出るみたいだし。漫画でもよくあるでしょ?ぶりっ子が男の前でキラキラしてても、実際心の中では罵倒しまくりとかって場面。あれとおんなじ。必ずしも背景絵と感情は一致しないよ。まぁ思いっきり絵として出る人もいるけど、そういう人は往々にして顔にも出てるから背景絵なんていらないし。だからそんな便利でもないよ?普通の人はとくに絵とかも視えないしね。」
……語りすぎたかな。
「ふ~ん、そんなものか。まぁ確かに漫画でもそんなに感情を表す背景とかってないもんな。……待て、それじゃあおかしくないか?」
あ、気付いちゃった?
「その人が一番『見せたい』ものが絵として出るのなら、なんで俺は常にパンジーを背負ってるんだ?しかもキリン付きで。特に見せたいと思ってないぞ!」
「わかってるって~。だから不思議なんだよねぇ。今まで無表情でも花を咲かせてる人とかいなかったからさ。まぁイケメンならそういうこともあるかな?って思ったけど、何せパンジーだし。バラじゃなくてパンジー。私が受けたこの衝撃、わかるっ!?」
「わっかんねーよ!むしろこっちが聞きたいわっ!いくら母さんがパンジー好きだからって、なんで俺がパンジー背負ってなきゃいけないんだよ!おかしいだろ!」
可笑しいんだよ!だから笑いが堪えきれなかったんだよ!つまり私に非はないっ!
「しかもキリンとか……そこは肉食獣が良かった……」
そう言いながらまた肩を落とす和泉くん。ドンマイ!
「…………小鳥遊、何とかして。」
「無理!」
「即答!でもお前しか視えないんだから、頼るのもお前だけだろ!」
「和泉くん、私"しか"視えないんだよ?他の人に視えるわけでも、自分で視えるわけでもないんだよ?気にする必要ないよ!」
「そりゃそうだけど……でもやっぱ気になるだろ?後ろにキリンがいたら。」
「私はね、確かに気になるよ。視えるんだし。」
今もパンジーのお花畑の中でモッシャモッシャしてるキリンさんがね。ってか対比がおかしい。キリンさんが小さいのか、パンジーが大きいのか。普通にパンジーがキリンさんの顔近くにあるよ!?
「そんなことより和泉くん。私にはもっと気になることがあるよ。」
「そんなことって、小鳥遊が言い出したのに……。何が気になるんだ?」
「それはだね和泉くん。なんでキミがいつも独りでいるのかってことだよ。」
人差し指をビシッと立てて聞いてみる。和泉くんと話してて、気になっちゃったんだよね。
「……は?」
「だってさ、人嫌いとか女嫌いとかならわかるけど、今話してみてもそんな感じしないし、ましてやコミュ障でもないでしょ?なんで独りでいるのかなーって不思議に思ったんだよね。ただ単に独りが好きなの?」
「…………」
あれ?やっぱりあんまり触れられたくなかった?沈黙が、沈黙が……
重くなかった。和泉くんはうんうん唸ってるけど、パンジーがなぜか左右に揺れて楽しそう。え、キリンさん?あなたは揺れなくても、
「…………なんつったらいいのかな。別に独りが好きとかじゃなくてだな。う~ん……中学までは普通にバカやれる友達もいたんだ。でも、高校に上がる前にこっちへの転勤が決まって。そこまで遠くはないんだけど、」
「通学は出来ない距離?」
「そ。だからこっちの高校に入学したんだけど……忘れてたんだよな。」
「なにを?」
「癖。俺、考え込む癖があって。質問とかされても、答えを整理してから話すんだ。友達の前だとそれもあんま出ないけど、知らないやつだと癖が出る。一種の人見知りとも言う。入学して色んなやつに次から次へと質問されて、それにどう答えようか考えてる間に取っ付きにくいやつって見られて。まぁ別に不便があるわけじゃないからいっかなって。……ってか、普通は聞きにくいことをド直球で聞いたな小鳥遊。」
「素直が私の取り柄だからねっ!」
そっかー。そんな事情をお持ちだったのねぇ。でもですね。不便はあると思うよ。
「和泉くん忘れてない?多分そろそろ修学旅行の班決めがあるよ?」
ギクッとする和泉くん。これ、ぼっちにはキツイよね~。独りに慣れてる人とか、独りがいい人は大丈夫だろうけど和泉くんは違うと思うし。でも参加はしたいだろうし。
「……友達作りなよ。大体、質問してきたのって女子ばっかりでしょ?男子ならすぐ打ち解けられるんじゃない?」
「…………なんか、今さらって感じするだろ……。」
「いいじゃん別に。2年生になってまだ1ヵ月しか経ってないんだし、地のままでいけば案外するーって入れると思うよ?『孤高の王子様』ってイメージすっかりないし。」
私はただのぼっちだと思ってたけど。
「なんだよ『孤高の王子様』って。意外と気持ち悪いんだな、小鳥遊。」
え、イラッとしたのは私のせいじゃないよね?あんたの通り名だよ!
「……とにかく、高校の一大イベント、修学旅行を楽しく過ごしたいなら頑張って友達作りな。ファイト。」
「なんか心が籠ってねーんだけど。……まぁそうだな。小鳥遊って足掛かりも出来たし、頑張るか。」
「足掛かりってなに!?嫌だよ!話しかけないでね!」
和泉くんファンに睨まれる!
「ひどっ!小鳥遊ひどいな!いいじゃんか別に!」
「イ・ヤ!…………でもさ、和泉くんの癖、悪いものじゃないよね。」
「は?悪いだろ。そのせいでこんなことになってんのに。」
「そうじゃなくて。他愛もない質問に真剣に考えて言葉を選んで返してくれるんでしょ?なんか嬉しいじゃん。大事な言葉に思えて。」
あれ?私もしかしてすごいイイコト言った!?
って思ったのに肝心の和泉くんは無反応。一人感動してた私がバカみたいに映るじゃん!
「和泉くん?」
「…………んだよ、急にサムイこと言うなよ。照れんだろ。」
「なに?聞こえないけど。」
「なんでもないっ!」
なんだコノヤロー!逆ギレだ!
和泉くんについてわかったこと。
ツンデレで意外といい人。しかも単純。
なぜなら話題を変えられてることに気づいてないから。