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いつもより長めです。せ、先週の分まで合わさっていると思ってくれれば……(汗)

「大丈夫か?」

「…………ハイ、ダイジョウブデス」


見事に宣言通り(?)顔面ディフェンスをした私は、なんとまぁ和泉くんに……だ、抱き上げられて……お姫様むにゃむにゃされて!保健室のベッドまで運ばれたのでした。うぅ~、あれを色んな人に見られたかと思うと、去年の黒歴史なんて比じゃないぐらい恥ずかしい~~っ!穴を自ら掘って埋まりたい!

顔面を色んな意味で真っ赤にさせてる私に気付かず、和泉くんは保健の先生と真剣に話している。当事者である私よりも熱心に。


「病院、行かなくていいんですか?」

「だ~いじょうぶよ、このくらい。コンタクトなら眼の心配もするけど、小鳥遊さんは裸眼だし、なんていったって常連だものね!」

「小鳥遊が常連……?俺、保健室に行ったの見たことないですけど」

「そーねぇ、小鳥遊さんは体育の時間ほぼどっかしらに怪我をするからすーぐ覚えちゃったわよ~。まぁ男子とは別でやることが多いから、気付かないのも無理ないわ」


あんまり彼氏に心配かけさせちゃダメよ!と言って先生はさっさと保健室を出ていってしまった。午後からは外のテントで救護班をするらしい。待って、和泉くんは彼氏じゃありません。


「……何で今まで言わなかったんだよ」

「何を?」

「体育で怪我してたこと。言ってくれればもっと気を付けてやれたのに」

「和泉くんが気を付けても私は怪我をするよ!なんてったってどんくさいからね!……でも、ありがと」

「……珍しく素直」

「う、嬉しかったわけじゃないんだからね!」

「ツンデレかっ!」


そんな馬鹿みたいな、いつも通りのやり取りをしていれば時間は過ぎるわけで。


「和泉くん!テニス!テニスの時間!」

「ん?あぁ。小鳥遊を運ぶとき棄権するって言ってきたから、誰か他の奴がやってるんじゃないか。心配すんな」

「でも影永との勝負が!」

「ま、仕方ないわな。今度個人的に対戦するよ。……別にしなくてもいいんだけどな」

「和泉くん……ごめんね、私が顔面ディフェンスなんかするから」

「そこはありがとうで良いんだよ。役得だったし」

「?」

「何でもない」


そう言って私の髪をくしゃくしゃにする。その顔は、今までにないぐらい穏やかな笑い顔で。

何かが、私の心に芽生え――



ガラッ



「せんせー、あたしたち足をすんごいひねったので休ませてくださーい」


……ものすごいアホっぽくてものすごい下手くそな言い訳と共に言いながら現れたのは、いつぞやの中島さんと中西さん。お互い顔を合わせて『あっ』と固まってしまった。


「……先生なら、外のテントだよ。私たちは鍵閉めて先生のところに行かなきゃならないから、休みたいなら先生に許可取ってからにしてね」


鍵閉めを任されてしまった以上、この人たちを無断で休ませる訳にはいかない。すんごく信用出来ないし。


「はぁ?何あんた。えっらそーに」

「あ、いずみく~ん!すごい偶然!保健委員なのぉ?」


返事をする気もないのか、椅子から立ち上がって私に手を差し出す。和泉くんの手を借りてベッドから出てもなんともなかった。軽い脳震盪のようなものだし、あれから時間も経ってるからふらつきもしなかったんだけど、和泉くんの手が離されることはなかった。


「俺たちもう行くから、早く出て」


冷たくそう言い放たれてもこの二人には効かないようで。


「え~~手当てしてくれないのぉ?すごく痛いのにぃ」

「……俺保健委員じゃないから、ちゃんと先生に看てもらって」

「じゃあそこまで連れていって?」

「小鳥遊送ってくから無理。友達いんだから、肩貸してもらえば」


ほ、ほんとに冷たいね……。前までの人見知りいずみんはどこいったの?


「…………ってかさ、そーいえばあんた小鳥遊一香なんだよね?」


今まで中島さんとのやり取りをただ見ていただけの中西さんがそう私に問いかけてきた。まさか私の名前を知ってるとは思わなかったからちょっとびっくりして頷けば。


「ふ~ん、やっぱり。ねぇ、あたしこのみの友達なんだ~……昔のあんたの話、聞いたよ?あの噂、本当なの?」

「!」


このみ……私が知ってる中でこのみと名のつく人は一人しかいない。しかも中西さんの嘲笑うような表情。彼女が何を聞いたのかは明らかだった。


「このみ?って一体……」


和泉くんの言葉は聞かず、二人を追い出して保健室の鍵を閉めてテントにいる先生の元へ向かった。後ろから中西さんが何か言ったような気がしたけど、私の耳には入ってこなかった。



※※


外に出て先生の元に行くと、ちょうど影永が決勝戦をするところだった。

――私が怪我なんかしなければ、和泉くんは向こうにいた。そしたらあの二人に会うこともなかったのに。


「もう大丈夫なの?」

「え?あ、もう大丈夫です。ありがとうございました。あと、足捻ったって言ってた人たちがいたんですが」

「あらそうなの?まぁ本当なら呼びに来るでしょう。先生はここで待ってわ~」


先生はそう言ってテニスコートの方に視線を戻してしまった。……流石です。

私も体育館に戻って皆のところに行こう。そう思ってたのに、


「和泉くん、まだいたんだ……」

「ずっといたし、離すつもりもない」


未だに繋がれている手が更に力強くなる。

熱い、とても。


「体育館、戻ろ」


そのまま引っ張るように和泉くんを連れていこうとするも、


「さっきの、なんだ?」


動いてくれなかった。高校生男子を女子の腕一本で動かすなんて無理なんだからね!


「なぁ、小鳥遊。このみって」

「和泉くんには関係ない」

「関係ないって、確かにそうだけど……小鳥遊が」


私が何さ。


「小鳥遊が、……辛そうにするから」


意味わかんない。

私は手を振り払って体育館まで走った。何も考えないように。考えなくても済むように。





その日から、私は和泉くんを避け始めた。

繋がれていた手の熱さは、もう思い出せない――

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