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私と岸さんの話し合いに割り込んできたのは、もちろん和泉くん。おっかしーなぁ。ちゃんとバイバイして昇降口まで見送ったのに。なぜバレた。でもまぁそれよりも、
「和泉くん!回れー右っ!」
「は?いや、なんで?」
「なんでじゃないわいっ!これは私と岸さんの問題なの!和泉くんは関係ないんだから、割り込んでこないで」
ゴンッ
あ、和泉くんの頭の上に岩が落ちてきた。すごいダメージを与えちゃったみたい。なんかゴメン。
「…………関係なくないだろ。さっきから聞いてれば、俺のせいで」
「和泉くんのせいじゃないよ」
「え?」
なんであれを聞いて自分のせいだと思えるのさ。
「もちろん私のせいでもない。全部、岸さんのせいだよ」
「なっ!なんで私のせいなのよ!小鳥遊さんがっ!」
「私が何したって言うのさ。私は和泉くんと話して好きになったから友達になっただけ。それを自分の良いように拗らせたのは、岸さん自身でしょ」
というかですね?
「岸さんは和泉くんに何を求めてるの?『孤高の王子』?それって自分と同じ立ち位置ってだけだよね?それとも仲良くなりたかったの?ならこんなことする必要なくない?」
「私は、私は……!こんな、檻のような学校生活で、馬鹿みたいな人達と笑い合うなんてごめんよ!でも!和泉くんは、そんな人達に染まりもせずに、自分の世界を確立してた!私の憧れだった!私だけの王子様だったのに……!」
「あ~、遮っちゃうけどごめんね?和泉くんはさ、そんなかっこいいもんじゃないよ。変な人見知りだし、イケメンでもツンデレヘタレだし。漫画に出てくるような、完璧イケメンじゃないんだよ?」
あ、また和泉くんに岩が落ちた。しかも今度は胸に矢まで刺さって。ほんとごめんね?
「……………………そこまで言わなくても」
いやいやいや、なんで岸さんが同情しちゃうのさ。おかしいでしょ!
「だからさ、岸さんの妄想を和泉くんに投影しないで欲しいんだ。ちゃんと中身を見てあげてよ。完璧イケメンじゃないけど、めっちゃ良い人だと思うから」
友達の、こんな些細なことにまで心配して戻ってきちゃうぐらいにはさ。
「………………完璧王子様じゃないんならいらない。私が探しているのは、絵に描いたような王子様だもの。勘違いしてごめんなさい。小鳥遊さんも。気付かせてくれてありがとう。私、もっと人を見る目を鍛える。理想の王子様に逢えるまで!」
そう言って、岸さんは憑き物を落としたかのように爽やかに去っていった。意外と電波な人だったとは。ある意味面白かったな。友達にはなれそうにないけど。
「じゃ、帰ろっか!」
「……あんなんでいいのか?」
ん?謝ってくれたし、多分もう何もされないからいいんじゃない?大した被害もないんだし。
「……はぁ~~~」
幸せ逃げるよ!
※※
「ところで、なんでわかっちゃったの?」
私が犯人を突き止めようとしてたこと。
「小鳥遊はわかりやすいんだよ。めんどくさがりなくせに、俺のためにわざわざ昇降口まで見送りとか、絶対なんかあるって思うだろ」
まさか!日頃の行いが仇となるとは!
「…………ってか、言ったよな?頼れって」
「でも切羽詰まってなかったし。むしろ穏便解決だし?」
「もしあいつ一人だけじゃなかったらどうするつもりだったんだよ」
「でも目星はつけてたから。岸さん、仲良さそうな人いなかったし。あんなせせこましい嫌がらせ、仲間がいたら絶対やらないでしょ」
「そうかもだけど!そんなの結果論だろ!俺は頼って欲しかった……っ!」
あれ?なんかご機嫌ナナメ?
「…………小鳥遊って、あんまり人を信用しないよな。俺だけじゃなくて、高橋とかも。一線を引いてる気がする」
「……………………そうかもね。でもごめん。これが私だから」
これが私。変わることなんて、そうそうない。
って、うぉ!?
「…………謝んな。俺、信用されるようになるから。小鳥遊が全部預けてもいいって思えるようなやつに、なるから」
参った。壁ドンの次は胸ドンですか。いや、抱き締められてるだけだけど。
岸さんごめん、嘘ついたかも。和泉くんは立派な『漫画に出てくるような王子様』だったかも。だってこんなに、
「や~~~っと見つけましたわ、ヒナタ!ワタシを弄ぶだけ弄んで!もう逃げられませんわよ!」
……あ、信用が地に落ちる音が聞こえそうです。