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願いの扉~another sky~  作者: こう茶
最初の村~シャ・フルール~
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3話~チュートリアル? その2~

 武器・防具屋を出て道を渡ると、そこに様々なギルドの本部だ。いや、こんな場所に本部があるはずがないから支部だろうな。


 外観はあまり他の場所と変わらず、木造二階建ての建物だ。ただ、他とは違ってかなり大きい。道にはみ出すことは無いから、奥行きがあるのだろうが、この小さな村の面積の何割をこの建物が占めているのだろうかと気になるところだ。


 建物に入ると、驚くほど活気にあふれていた。まるでこの村の全員がここに集まっているのではないかと思ってしまうほどだ。

 建物は長方形に広がっており、出入り口脇、右側の壁には雑多に紙が貼られている。反対の左側にも同様に多くの紙が貼られているが、理路整然と整理されていて見易い。この差はいったい何なんだろうかと考えてみると、記載されている内容が違った。


 右の汚らしい方は依頼書、モンスター退治や素材集め、雑用、手伝いなどが多く、左の綺麗な方は何かの統計やグラフ、誰かの予定、それもかなり詳しく書かれている。グラフはどうやらある物の価格の変遷が示されているようだ。数は少ないが、ナフィの牙70キュイなどと見やすく示されている物もある。この違いはおそらくだが、見せる対象者が異なるためだと考えられる。スーパーの広告の様にでかでかと値段だけが書かれていれば嫌でもそれに気づくだろう。この違いに気づかない奴は余程……いや、これ以上言うのは止めとくか。

 

 さて、話しを戻すと建物の中は出入り口側の壁には紙が貼られているだけだが、書面、右、左にはカウンターがある。それに囲まれるようにテーブルとイスが置いてあり、人々が思い思いにここで昼食を取っている。

 支部といっても食事処を兼ねているのかもしれない。

 

 ここに来た目的は働き口を探す事だったな。まだ、あちらでは就職活動を行っていなかったから、これが初めての事になるな。ふむ、あまり緊張感は無いな。環境が違いすぎるから、比べる事は出来ないが。

 まあ、確かに俺が何をやるかによって変わるだろう。正面は対面式のキッチンの様に奥は厨房になっておりせわしなく料理人たちが働いている。つまり、ここでの食事はあそこで作られるという事になる。

 次に左、カウンターには清潔で華美過ぎない青と黒、赤と黒の衣装を着た女性が四人、微笑みを浮かべて立っている。その前のテーブルには真剣な顔つきをした人たちが話し合っている。壁に貼られている紙の内容と見た感じの様子から考えると、何かしらの商談をしているのだろう。おそらく、商人ギルドだ。

 最後に右。カウンターはバーの様になっていて、綺麗な顔立ちをした女性が一人と、強面の男性が二人椅子に座って対応をしている。ここの客層は人の良さそうな者もいるが、大半は強面で屈強な男たちが多い。そして、皆武器や防具を身につけている。ここから判断するに、おそらくこちらのカウンターが俺の目的の場所になるだろう。荒事の一つや二つ覚悟しておいた方がいいかもしれないな。名古屋かというよりも豪快に笑ったり、話している姿を見る限り険悪な感じは受けないので大丈夫だとは思うが、真昼間だというのに酒を飲み、顔を赤くしている者もいるので油断ならない。


「こんにちは」


 意を決して笑みを浮かべ、話しかけた。もちろん、相手は女性だ。交渉をするなら経験上、女性の方が上手くいくからだ。


「こんにちは」


 ニコリともせずに返すその姿は、怜悧な美貌と相まって他人に不快感を与えかねないのでは、と思う。俺は自分も同じようの事をする時もあるので、気に留める事は無いがこの対応は直した方がいい。まあ、指摘はしない。面倒事にでも巻き込まれでもしたら厄介だからな。


「ここで働きたいなと思うんですが、何かする事ってありますか?」

「……? ああ、貴方も傭兵になりたいのね?」


 傭兵だと。なかなか物騒な言葉が出てきたもんだ。だが、言葉から察するにモンスター退治なんかはここで請け負う事が出来そうだ。


「そうですね。傭兵になりたいです。なれば、モンスター退治など出来るのでしょう?」

「出来るわ。その口ぶりだと傭兵の身分を証明するカードは持っていないという事で良い?」


 身分証なる物があるようだ。ここで嘘をつく必要は……ないよな。


「その通りです。作って頂けるという事でよろしいですか?」

「分かった。この用紙に書く事書いて提出して」


 そう言って渡される一枚の紙と羽ペン。

 名前、年齢、クラス、出身国か。まずいな。クラス、これは何だ?

 こんなところで情報不足が仇になるとはな。仕方ない。多少不審に思われても、聞くしかないか。


「書けましたよ。あと、これなんですけど……」

「ああ。貴方、戦闘系のクラスをまだ持ってないのね? 技能系、生活系のクラスは書かなくていいから、大丈夫よ」


 ん? 一気に知らない単語が出てきたな。だが、書かなくても良いというのは有り難い、無駄な質問をせずに済みそうだ。


「そうなんですか」

「そうなの。じゃあ、お金。カードを作るから80キュイ出して」


 まずい。持ち合わせでは到底足りない。


「無いの? じゃあ、いいわ。その代わり、傭兵稼業で稼げるようになったら1アルの提出をお願い」


 なるほど。ただにする事も出来るが、その場合、元々の価格よりも高くなると。これはこれで上手い稼ぎ方だ。

 当然、頷いて答える。


「じゃあ、これ」


 そう言って差し出されたのは手の平サイズの薄く無機質な長方形の電子機器の様なものだ。見ると、そこには先程俺が書いた内容がそのまま映し出されている。

 驚きを隠す事が出来なかった。

 これがどういう仕組みで映し出しているのか?

 文明レベルで言えばあちらの世界に確実に劣っているはずなのに、高性能の電子機器の様な物体がなぜここにあるのか?

 そして、俺のような見ず知らずの物に渡せる、つまり、雑多の者にも配給出来るだけありふれているという事実。

 俄かには信じる事は出来ないが、実物がここにあり、今まで見てきた事実を覆す要因がない以上認めざるを得ない。


「傭兵初心者の貴方はそこにある本を読んでおいた方がいいわ。じゃあ、これで手続きは終わり。ようこそ、我ら戦に生きる者、新たな仲間となる貴方を歓迎します」


 大仰な歓迎を受けたが曖昧な返事を返しておく。

 それよりも指で示された本棚の方が気になった。

 カウンターの横には数十冊の本が置いてある棚があった。

 

 本の種類はというと、

 『入門編、地理・歴史』

 『入門編、クラスとは』

 『入門編、傭兵で必要な技術の数々』

 『魔法・初級編。初心者に優しく、読めば必ず分かる!』

 『モンスター図鑑、あ行』等々。


 気になる文字もいくつか見つけたが、焦っても仕方ないので一冊ずつ読みこんでいく。

 持てるだけ持って近くのイスに腰かけた。

 すぐに周りの喧騒は気にならなくなった。






「なるほどね」


 久々に興味の惹かれる新たな知識を得た喜びに浸っていた。 

 そのおかげで今からやるべき事は決まった。


「と、その前に軽く食事を取るか」


 考えてもみればあちらは夜だったのだから、普段なら寝ているか朝食を取るべき時間だ。

 手持ちも少ない、節約もしたいところだが傭兵というのは身体が資本の職業のようだし、栄養を取る必要がある。

 

 思いのほかこちらでの料理が美味く手持ちの金を使いきるまで食べると、シャ・フルール支部のギルドを後にした。


 真っ先に向かったのは神殿だ。


 本によると、ここでは無料で成りたいクラスに成れるそうだ。むろん、個人の素質や才能、その時々の達成済みの条件によって成れるものは変わるが、今の俺は何のクラスも保有していない。戦闘系クラスに成っておいて損は無いだろう。

 というのもクラスを保有する事で様々な恩恵を得られるようだ。

 魔法やスキルの源である魔力や身体能力の強化など、神が人間に与えた恩恵は多岐にわたる。

 俺は無宗教・無信者であるが利用できるものは利用しておきたい。


 最初に通った時に見た神殿の一室に足を入れた。


「こんにちは。今日も貴方にご加護がありますように」


 そこには黒い燕尾服を着た執事のような男性と女性がこちらに向かって優雅に礼をしていた。

 その姿は俺のイメージする聖職者とは異なっているが、どこか神聖な雰囲気が醸し出されていた。


「本日は礼拝ですか?」

「それともクラスチェンジですか?」


 交互に繰り出される高い声と低い声は一種の音楽の様な響きを持つ。


「今日はクラスチェンジに来ました」

「では、こちらに」


 そう言って女性が歩き出したので、それに付いて行く。

 部屋の中は案外広く、この村の様に花々で綺麗に彩られている。


「ここに来るのは初めてですか? ここは綺麗でしょう?」

 

 綺麗な光景に目を奪われていると傍を歩く女性に話しかけられた。


「ええ、そうですね。このような静かな場所に響く水の音も耳に心地いいですね」

「私もそう思います。こちらはクラスチェンジを行う神聖な場所である関係上、貴方の様な男性はなかなか見かけません。私は戦の神、デュー・バタイム様に仕えるルシア・バティムと申します。差し支えが無ければお名前をお聞かせ願えませんか?」


 そう言ってニッコリとほほ笑む彼女には後光が差している様な気になった。

 異世界に来て、浮かれているのか? あまり油断するなよ、と自分に言い聞かせそれに答えた。


「神谷空。こちらの言い方で言うならば、ソラ・カミヤです。どうぞお見知りおきを。麗しきシスター」

「あらまぁ。お上手ですね。では、この先にあるデュー・バタイム様の像の前で祈りをささげて、願ってください。さすれば貴方の願いはかなえられる事でしょう」


 俺はクスリと笑って一礼し、その像へと向かって歩を進めた。

 それにしても面白いものが見れた。歯が浮くような褒め言葉に純情にもあの女性は顔を真っ赤にして神に仕える者として業務を全うしようとしていたからだ。


 像の前まで歩いて行くと、鎧を身に着け、剣と盾を端正な顔立ちをした青年の像が祀られていた。その像は作られたものとは思えない位リアリティのある物だった。筋肉の筋一つ一つにも手が抜かれておらず、その瞳に宿る光はまるで生ある者の様。その表情は戦の神と言うにはあまりにも優しく、そして、どこか物憂げなものが浮かんでいた。


「神様にしてはあまり強そうに見えないな。とまあ、これはルシアさんの前で言ったら怒られそうだ」


 馬鹿な事を言ってないで用を済ませよう。

 祈るといってもどうすればいいのだろうか?

 生まれてこの方何かに祈りをささげたり、縋ったりしたことが無いから分からないな。

 とりあえず、膝をつき両手を合わせてみる。

 すると、どうだろう辺りが輝きだし、世界が白くなり何も見えなくなった。

 その白の世界に浮かび上がる黒い文字。

 剣士、見習い騎士、戦士、魔法使い。

 様々なクラスが現れた。


 ちなみに、このクラスというは神殿や特殊な条件を満たした時にのみ取得できるそうだ。

 クラスは初級、中級、上級、最上級、特級という四つに分類されている。

 最初はほとんどの者が初級が提示されるらしい。かくいう俺も目の前に浮かび上がっているのは『入門編、クラスとは』、に記載されていた初級クラスの一例の中のいくつかが提示されている。

 文字通り等級順に恩恵の効果が上がっていくのだが、特級はその例に含まれず、特殊な位置づけにあるクラスの総称らしい。その恩恵は初級よりも低いものから、最上級よりも高いものまであるようだ。


 本を読み得た情報から言うと、クラスはいくつでも取得でき、取得したクラスに応じて恩恵を得ることが出来るため、一見多くのクラスを得た方がいいように見える。だが、これには二つの問題がある。

 クラスには人によって適正があるらしい。適正は値によって示され、順にA,B,C,D,Eの五つ。Aに近ければ近いほどより多くの恩恵を得ることが出来る。この恩恵はクラスの熟練度を上げる事でその効果を高める事が可能だ。だが、ここで多くのクラスを取得してしまうとその熟練度を上げるための経験値が多く必要になるようだ。経験値を得る方法については後で述べるとして、簡単にこれを説明すると、二つのクラスを取得していた場合、熟練度を上げるための経験値は二倍になる。三つなら、三倍といった具合に増えていくのだ。また、適性が低いクラスを選んだ場合、その経験値は多くのものが必要となるようだ。

 そして、この熟練度はそのクラスに見合った行動をしないと減少するようだ。

 だが、クラスを極めた場合は、そのクラスには経験値が必要なくなり、恩恵の効果によって極めた状態で維持されるそうなので、そうなったら二つ目のクラスを取得するのがお勧めのようだ。また、極めたかどうかは適正によっても上限が異なり、各々の体感によるようなのでどの程度の経験値が必要なのかは判明しておらず、どのような行動がより多くの経験値が必要なのかもわかっていないので、調べようもない事である。


 俺はお勧めには従わず、いくつかクラスを取得しようと思う。

 なぜなら、元々この世界の住人ではない俺は初期能力が低いだろう。ならば、最初にいくつか取得して底上げをしておきたい。


 という事で選んだのが、剣士と魔法使い。剣を持っているので、これを活かせるクラスと、魔力を取得できるクラスを選んだ。無論、誰でも魔法使いの様な魔力が得られるクラスに就けるわけではないので、俺は運が良かったのだろう。さらに適性も高い値を示していたのも、この判断を後押しした。


「さて、あとはどうやってここから出るかだが……」

 

 最悪、ここで暴れて無理やりにでも出てやろうかと考えていると、段々と光が小さくなり、元の像が見え始めた。

 それはあたかも俺の思考を読んだかのようで面白かった。


「戻るか」




「お疲れ様です。無事クラスチェンジを行うことが出来ましたか?」


 俺がクラスチェンジを行っている間ずっとここに居たのだろうか? それなりの時間がかかったはずだが。


「はい、終わりましたよ。今日はありがとうございました」


 そう言って頭を下げた。


「いえ、これも神に仕える者の務めですので。それでは、貴方に神のご加護が有らんことを」


 信心深いな。この時代は宗教や神などが重要な位置を示すのだろうか? 面倒なことに巻き込まれなければいいが。目を閉じて祈るルシアにそんな失礼な事を考えながら俺はもう一度ギルドに向かった。


 二度手間になってしまったが、依頼を受けるためだ。


 依頼には大きく分けて三種類、討伐、納品、雑務だ。


 討伐依頼は対象となっているモンスターを退治するというものだ。成功したかの証明はモンスターそれぞれに証明部位が設定されているのでそれを提出すれば報酬を得ることが出来る。もちろん、そのほかの部位を渡しても達成の証明にはならずとも、武器や防具の素材や加工、食材として、装飾品として、という様に様々な使い道があるのであまり無駄にはならない。全部剥ぎ取ろうとすればそれ相応の労力はかかるがな。


 次に納品依頼はモンスターの素材や薬の元となる薬草や草花など、何らかの武器や防具の回収などといった具合に様々だ。


 最後に雑務依頼。これには引越しの手伝いや、買い物、配達などといった内容があり、その中でも一番の花形が王侯貴族などの重要人物や積み荷などの護衛が含まれる。


 討伐依頼が比較的報酬が多いが、依頼によっては納品、雑務依頼の方が多くなる場合もある。


 依頼にはランク付けがされており、傭兵たちが依頼を選ぶ一種の指標となっている。

 上からSSS,SS,S,A,B,C,D,E,F,Gだ。

 このランクは依頼主とギルドの役員が、内容について検討し合い決めているようだ。

 基本的に傭兵はどのランクの依頼でも受けることが出来るが、上のランクになればなるほど受注できる傭兵が指名されていたり、上位のランクの成功実績が無いと受注できないように条件が設定されているものが多い。

 つまり、条件の設定はそれほど厳しいものではない、要は自分の力量を鑑みて、判断しろというも事だ。

 失敗すれば違約金が発生し、目には見えないが信頼度も落ちる。こうなると次の依頼が受けづらくなるだろう。それに、最悪命を落とすことだってあり得る。


 結局選んだのは納品依頼を2つ、討伐依頼を1つ。納品依頼が最低ランクのGランクで、討伐依頼がEランクだ。

 この様に依頼を同時に受けることが出来るのは助かる。

 そして、下位ランクという事もあり、内容は単純でそれでいて前金も必要ない。上位ランクになるとこうはいかない。内容は複雑になり、ターゲットも強力なモンスターに、そして、報酬の約四分の一が前金として支払わなければならない。全部が全部そうではないが、上位のランクを受けるには金を必要と事だ。今の手持ちでは手が届かない。


 依頼の説明を受けた後、この村に入ってきた門とは逆の南門から出る。北門は花畑があり、手入れもさえているらしく、あまりモンスターがおらず、こっち方面への討伐依頼は少ない。

 

 というわけで門を出て探す事、数十分、ようやく一つ目と二つ目の依頼のターゲットを見つけた。

 緑牡鹿ヴェーオセルフ緑女鹿ヴェーファセルフだ。

 どちらも緑色の体毛に覆われ、オスの方がわずかに大きいものの、俺の腰のあたりまで位しかない。

 この二頭は群れを成し、番となって行動するため、どちらか一方を見つけることが出来ればもう一方も見つけられるだろうという事で受注したのだ。

 納品する物はオスは立派に伸びる角、メスの方はこじんまりしてお飾り程度に小さく突起した角である。

 オスの角は頑丈なため、武器などに使われたりし、メスの角は柔らかく小さいので武器には向かないが、栄養価が高くすり潰して粉状にし、薬の材料になったりするようだ。

 

 注意すべきはオスの方だ。武器になるほどの頑丈な角を持つのだ、突かれでもしたら怪我を負うことは間違いない。また、群れでいるため、全員で襲いかかられたら非情に脅威だ。しかし、幸いな事にこの鹿は臆病な性格らしく襲い掛かられることはめったにないとの事、それよりもすぐに逃げ出してしまうため、速攻で仕留めなければならない。

 

 鹿の生息地であるこの場所もシャ・フルール近辺という事もあり、豊かな草原が広がっている。

 草むらの影に身を隠し、風下から近づいた。

 本来、この鹿たちはその体色を利用し、草影に身を隠す事で身を守るのだが、俺の方が索敵能力は高かったようだ。

 俺はクラスを得てからというもの身体が軽く感じられ、今なら何でもできそうな万能感に満ち溢れていた。その身体能力をもってすれば、気付かれる前に発見し、奴らの警戒網に引っかからないように隠れる事など容易かった。

 この容易さがGランクという事なのだろう。自分の能力が高いのではない、依頼が簡単なのだと、自分に言い聞かせ、更に剣を抜き放った俺を戒めた。

 

 ここでクラスの恩恵について話しておこう。

 この世界には魔法とスキルというものがあるらしい。

 そして、俺の身分証代わりであるカードに自分の血を一滴たらす事で、原理は分からないがリンクし、自分の状態、つまりステータスを表示する便利な道具に様変わりするのだ。

 そのステータスにはギルドで登録した内容に加えて、クラスの適正値、保有スキルの二種類が表示されている。


 ちなみにこのような感じだ。


 神谷空 20歳 男

 クラス:剣士A 魔法使いB

 スキル:【身体強化術/神】【火属性魔法・初級】【成長促進】


 スキルはカードに現れた部分に触れると詳細を見ることが出来た。


 【身体強化術・神】

 身体強化術の一種【即神術そくしんじゅつ】を使える。体力を消費して、五感が鋭くなる。


 【火属性魔法・初級】

 魔力を消費して、初級の火属性の魔法を使うことができるようになる。使用の際に呪文が必要だが、適切なものでないと発動はしない。その際、魔法に関することを強くイメージをすると威力が上がる。


 【成長促進】

 クラスの熟練度上昇の必要経験値が少なくなる。



 人間はモンスターと比べるとその体の小ささから生命力、体力が少なく、また内在している魔力も少ない。しかし、人の強固な意志により、魔法やスキルの元となる魔力や体力をある程度肩代わりすることが出来るようだ。


 とまあ、切れるカードは魔法と剣だ。これも本によるが、初級の火属性魔法だと威力の高さは期待できず、せいぜい軽い火傷を負わせるくらいだという。

 【即神術】が含まれる身体強化術は使い方次第でかなり有効な手段となるらしい。

 こういった有効なスキルだが、これを取得するにはクラスの熟練度上げのほかに、鍛錬などで身に付く場合もあるという。


 それならばと俺はいくつか試してみたくなった。

 スキルの使用のミソはイメージと書かれていた。なら、他にも記載されていた身体強化術を試してみたくなった。


 皮膚が硬くなるようなイメージをして、防御力を上げる【硬化術】、成功。


 筋肉量が増えるようなイメージをして、攻撃力を上げ、副次的に走る速度も上げたりする【鬼動術きどうじゅつ】、成功。


 身体を羽のように軽くなるようなイメージをして、素早さを上げる【軽身術けいしんじゅつ】、成功。


 確認のためにも、即神術を使ってみるが成功した。他にも早治術そうちじゅつのように怪我を治す術もあるのだが、どこも怪我していないので試していない。今度怪我した時に使ってみたい。

 だが、やってみると案外呆気なく使えるようになるものだな。

 まあ、便利だからいいが。

 そして、無駄にスキルを使った事で身体が重い。

 これから、戦闘に入るのだ、これほど明確に体力を使う事は避けたい。

 しかし、試した価値はあった。

 なぜなら、この術のメリット、デメリットが分かったからだ。

 硬化術で体全体を覆ってしまうと、本当に硬くなり動きづらくなる。

 鬼動術は使った時に、体力が持っていかれるのを感じた。つまり、攻撃に用いるのはともかく、移動のように長時間使うのには向いていない。短期決戦用という事になる。

 軽身術は身体から力が抜けるため、攻撃には向かない。移動専用といったところだ。

 即神術はあらゆる感覚が強化されてしまうため、長時間使いたくない。詰まる所、これを使うと入ってくる情報量が多すぎる。

 

 とは言え、これらに対する対処は考えてある。

 それをこの戦闘で試してみよう。


 さて、行くか。


 俺は身を低くして、足に力を込め、思いっ切り地面を蹴った。


 

次回は空のチートっぷりの片鱗を垣間見ることが出来ます。

そして、自分の初期ステータス値が高い事に気づいていません。

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