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17話~呪いの武器~

本日2話目の投稿となります。

 ベルナールが放った【滅神覇断】という切り札は蟷螂を切り裂き、地面を割り、さらにその直線状にいたモンスターを何十頭も巻き添えにして収束した。

 そんな大技を放った本人は意外や意外、ピンピンしていて、まだまだ戦えるようだ。


「もう動けるのか?」


「当たり前だ。戦場で動けなくなるような危険な技を使うわけないだろう?

 それよか、お前の方はどうなんだ?

 魔力はまだ残ってるのか?」


 この男は俺よりも実戦経験が豊富だ。普段はどうであれ、見習うべき点は多い。自分も疲労しているであろう現状であっても他人の心配が出来るのだ。元騎士団の団長というのは伊達じゃない。


「ほとんど残っていない。だが、魔法が使えなくとも俺は強い。問題ない」


「まあ、そうだな。空だしな、体力的にも問題なさそうだ。そっちの嬢ちゃんもな」


 アヴェリーもまた先ほどの戦闘では囮役を引き受けていたが、今後の戦闘に支障が出るような状態ではない。それどころか、流れ出た血が固まり、鎧のように彼女を覆っている。平時よりも防御力が上がっていそうだ。これが【赤鎧】か、面白い。


「んじゃま、あいつらの手伝いに回るか」


「ああ、そうだな」


 まだ戦闘は終わっていない。近藤たちは周囲の敵相手に休むことなく動き回っている。あいつらこそ、休ませるべきなのだ。動ける俺たちが悠長にしている場合ではない。


 斬る、殴る、投げる。魔法を使わずに敵を駆逐していく。やはり、この戦いの最中に覚えた【心眼】の効果が大きい。

 敵の動き、弱点、そして、俺が動くべき最適解が目の前に示される。

 俺たちの担当である南側の敵をほぼ一掃し終えたところで、見渡した。

 北、東、西。そのどれからも戦果が上がっている。まだ終わっていない。


「俺はアヴェリーとともに東へ向かう。

 ベルナール、アンタはそいつらを率いて西に行け」

  

「おう、お前らも気を付けろよ」


 疑問の声などありはしない。迷う間もなく俺たちは走り出した。


 東部は獣系のモンスターが多く、初級職でも十分対応が可能なため、実力が付いていない若者が多い。そのため、俺たち主にアヴェリーが加勢に駆け付けても忌避感を感じる者は少ない。

 唯一顔を顰めたのがこの場での指揮を任されていた【剣豪】のクラスを持ちょっと剣を操る男。


「おい、テメエら南部はどうした? 全滅したんじゃねえだろうな?

 まさか、ベルナールさんに何かがあったらタダじゃおかねえぞ!」


怒声を遮り、出来るだけ冷静な口調で返した。


「南部は制圧終了した。

 これから、アンタたちの加勢をする。疲労した初級職の奴らは下がらせろ」


 忌々しそうに舌打ちをした。それでも疲労の色が濃い、若者を選んで下がらせることはしてくれている。


「アヴェリー、行くぞ。右をやれ」


「ワカッタ。イッテクル」


 さて、早く蹴散らさないと。あの爺さんが抑えている北部にもいかないといけないからな。


 左右を見渡せどモンスターだらけだ。【漆黒の群狼ナフィード・ウルフ】に【冠ハイエナクリニエナ】、その上位版である【漆黒の大狼ナフィード・ヴォルフ】と【王冠豹レオロヌ】で溢れ返っている。それどころか、共食いを始めている個体までいる。


「チッ! させるか」


 一直線に駆けたあれはおそらく【侵蝕】を行おうとしているのだろう。それが成功すれば、そいつを倒すために要する時間は一気に増える。

 身体強化術の併用で強化しているが、やはり、魔力を節約していては遅い。

 止むを得ず【瞬陣】を使う。一気に距離を詰めると、刀を振り下ろした。


 敵の真ん中に移動した俺は様々な方向から襲い掛かられる。


 個体での強さの違いは、連携をせずとも時間差をつけた波状攻撃へと繋がった。

 ナフィの突進を躱すと、間髪入れずにヴォルフの牙が迫る。ヴォルフの頭を殴りつけ、【衝波】で脳を揺らす。怯んだ敵は一旦放置して、他の敵を切り裂いた。この場では、一頭にかけられる時間は恐ろしく短い。

 かなりガタがきている刀は滑らせようにも、爪や牙が引っ掛かった。しかし、蟷螂男の刃とは違って、この鈍でも斬るのは容易い。

 【震脚】で周囲の4頭を纏めて揺らし、足を止めさせると、銀色の光を円状に煌めかせた。

 

「【一刀螺旋】」


 【回転斬り】と【飛閃】の組み合わせで、群がる敵に陣所ならざるダメージを与えた。

 何十頭切り伏せようと終わりの見えない戦場に、剣閃はさらに鋭さとその煌めきを増した。


「【剣舞】」


 まるでダンスをするかのように途切れる事のない剣戟に効果を及ぼし、その一撃の威力を上げるというもの。

 まずは、リズミカルに二度地面を蹴る。舞い降りながらも、斬る、斬る、斬る。

 次第に、手数が足りなくなる。収納袋から斧を取り出すと、両手に武器を持ち、不足分を補った。

 前に歩くような動きで真横に地面を滑る。その後には屍だけが積み上がる。

 両手を足のように使い、斧を軸に刀を振るい、次は刀を軸に斧を振るった。

 そして、体勢を戻しながら、勢いよく回転し再度【一刀螺旋】を放つ。

 着地をしながらも、ゆっくりと回転。回転に巻き込まれるのも恐れずに突進を繰り出す敵を斬る。しかし、それにより動きが鈍ってしまう。それを狙った攻撃を躱しながら、今度は縦に回転。空中で前転しながら武器を繰り出した。

 この一連の動きで相当数の敵を倒したが、その猛威が収まる様子はない。

 片足だけで右に左に、ステップを踏む。

 靴が地面を鳴らす度に複数の敵が地面に倒れる。

 まだ足りない。

 しかし、次第に息が切れ始める。


「はぁーっ、はぁーっ……」


 【剣舞】は体力の消費が著しい。一旦、動きを止めて、水の呼吸を使う時間を三度目の【一刀螺旋】で敵との距離を開け、作り出す。

 肉弾戦での攻撃手段しか持っていない奴らならば、これだけで数秒という短時間ではあるが、安全な空間を作り出した。

 その中で一度深く呼吸を行う。呼吸とともに身体に取り込むのは何も酸素だけではない。空気中に含まれる魔力の元であるマナも一緒に吸い込む。それを元に水属性魔法を身体中に浸透させ、急速な体力回復を図る。一度だけの深呼吸であったが、やるとやらないとでは、身体に漲る活力が違う。

 もう一度【剣舞】を発動させると、戦場を舞う。


 ステップで攻撃を躱しつつ、敵が食らいつく空間にスッと斧を向け、刃を立てる。

 それだけで敵は血を吹き出し倒れていく。

 最も体力を温存でき、殺傷力のある動きで次々と狩っていく。


 そして、この戦いで俺だけでなく、武器の進化を促した。

 【血染めの月】という銘の魔斧は血肉を存分に味わったのか、その姿を変えた。

 柄からは赤黒い鎖が生え、持ち主を離さないとばかりに巻き付いた。

 銀色の刃は俺の影響を受けて、黒く変色し、中央には黒い歯を生え揃えた口が現れた。口からは怨嗟の声が漏れ、辺りに絶叫を響かせた。

 しかし、不思議なことに俺には爆音の影響が出ない。耳を塞がずともいい。むしろ、高揚する音だ。

 身体の表面が黒く禍々しいオーラで覆われ、力がみなぎった。

 斧だけではなく、刀にも同様の反応が起こった。

 刀身、柄、全てが黒く染まる。

 そして、戦いで欠けてしまった刃を補うように啜った血を元に新たな牙を剥く。

それは赤黒い波を象る。元が血液であるため、刀身は光を通す。すると、黒い影に赤みを差した。

 黒と赤、禍々しくもあり、それでいて目が離せない。そんな倒錯的な美しさを手に入れたのだ。

 予期せぬ武器の強化に笑みを深めた。


 さらに速度を上げて東部の敵を倒している時、北の方で大きな物音が鳴ったのを耳にした。


「チッ! アヴェリー、ここは任せるぞ!」


「ワカッタ!」


 身体中を返り血で真っ赤になった彼女に一言、声をかけて、その場を後にする。


 魔力が少ないなんて事は関係ない。間に合わなければ、今までの戦闘が意味を為さないのだ。

 【瞬陣】を使って、最短距離でもって、北部に走った。

 そこで目にしたのは、海から上がって来たであろう、海竜を前に、地面に倒れる騎士達を後ろに盾を構える爺さんの姿。

 その爺さんも纏う鎧が所々破損し、生身の身体が剥き出しになっている。

血を流し、震える膝を叱咤し、立ち塞がるその姿はまさしく英雄である。

それでも、現実は非情だ。

 海竜がその大きな口を開き、力を溜めている。漏れ出した力は冷気となり、周囲を凍りつかせる。

 敵を凍らせるブレスを吐くつもりだ。そして、今の爺さんがそれに耐えられるほど、活力はなく、魔力もない。


 走った。

 誓ったのだ。この村を護ると。今、ここで護りきれなければ、子供たちは非情な現実を知るだろう。だが、それで良いのだろうか? 子供の間くらいは良い夢を見させてやりたい。願わくば、真っ直ぐ育ち、俺のようにはならないで欲しい。


 【瞬陣】を維持するための魔力が尽きる。

 まだ距離はある。

 俺の意思に答えたのは呪われた武器。

 斧が使えと囁く。

 爺さんのそばに勢いを付けて投げると、地面に深く突き刺した。それに応じて鎖も伸びる。そして、一気に身体が引き寄せられる。

 だが、それでも遅い。もっと速く!


 魔力がないからって、何だ。

 くだらない枠に俺を収めるな。


「らあぁっ!」


 【即神術】で痛覚を抑制していても身体中に激痛が奔る。黒い線が身体中に浮かび上がり、刀にも同じ様な模様が映る。

 肌が黒く、黒く、黒くなる。太い線、細い線の順で網羅されていく。

 視界が徐々に暗くなり、世界から色が奪われる。そして、黒と白の世界の中で海竜の下に辿り着いた。


 氷の息が全てを銀世界に変える前に、【飛閃】で押し返した。

 その場で跳躍。海竜の瞳は依然として爺さんを捉えている。

 動こうともしない海竜を一刀の元に断ち切った。


「ぐぅあっ……はっ……」


 着地と同時に何かを戻す様な感覚に襲われた。

 堪えきれずに、全てを吐き出すと口元を拭った。

 あの後、目が見えず、音も聞こえない。指先を動かすのでさえやっとだ。

 ただ周囲に漂う血の香りに武器が壊せ、斬れ、と囁く。

 その言葉に誘われる様に立ち上がる。倦怠感が重くのし掛かるが、不思議と身体は動く。

 とうに限界は超えているのに動かせるとは不思議な感覚だ。

 いや、それどころか俺の意思に関係なく動こうとさえしている。

 体力が底をついているせいか、抵抗出来ないが、早くこの状態から脱しないと、何かが起こるという不吉な予感が過った。

 幾度となく、肉を斬り、骨を断つ感覚が手のひらから脳へとを伝った。

 そんな状況でも、身を任せているからか次第に集中力が戻ってくる。そのなけなしの精神で口を開く。

 そして、一呼吸。指先の感覚を取り戻した。

 もう一呼吸。音が聞こえてきた。ぼんやりとだが、聞き覚えのある声がする。

もう一度。重い瞼をこじ開けた。そこには額に汗をかきながら、必死の形相をしているベルナールがいた。

 顔から血の気が引いた。だが、すぐに自分が取るべき行動を移る。

 自分の腕に、足に止めろと、武器を手放せと信号を送る。そうすることでやっと体の自由を取り戻すことが出来た。


「やっと正気になったか。

 待ちくたびれたぜ、我らが英雄さんよ」


「……うるさい。英雄ではない」


 何事もなかったかのように大剣を納める彼に合わせて、武器を仕舞う。また乗っ取られるかもしれないと手が震えたが、体力の戻った状態であれば、触れても問題はないようだ。


 日が沈みかけていたが、すでに傭兵たちは撤収し、宴の準備を始めているそうだ。

 村には明かりが灯り、ここまで笑い声やガヤガヤとした声が届いた。

 どうやら待ちきれずに酒でも飲み始めている奴がいるのだろう。


「仕方ねえ奴らだな。おい、乗り遅れる前に急ごうぜ」


 そう言って駆け足で帰っていくベルナールの後を追った。

 村の周りには血にまみれていない場所などないくらいに真っ赤に染まり、モンスターの亡骸が積み重なっている。

 依然の美しく、和やかだった風景はそこに無い。だが、屍を取り込み、緩やかではあるが成長している黒い大木の周りには早くも花々が咲き乱れている。

 俺がそこに何かを感じようが感じまいが、関係なく復興の芽が咲き始めていた。



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