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16話~獣将軍の実力~

本日は3話投稿予定です。

2話目は12:00

最終話となる3話目は21:00投稿予定です。

よろしければ、最後までお付き合いいただければ幸いです。

 黒い大木の成長が止まり、俺の合図で次々と傭兵たちが降りてくる。

 今回の戦闘時間は30分。それで全てを片づけなければならない。

 この戦闘には全戦力を投入している。それは村の守りに充てる戦力もこの場に出てきているということに他ならない。魔導師がかけた土の壁がモンスターの攻撃に晒され続け、その形を保てるのは約40分。

 時間になれば、あの村長が音と狼煙で知らせる手筈となっている。

 背水の陣、俺たちが全滅すれば村の命運もそこまでだ。


 まあ、そんなことは起きさせやしないがな。


 俺のすぐ右隣を炎が燃え上がっているのかと思えば、それはアヴェリーだ。烈火の如く苛烈な攻撃で敵を蹴散らしていく。彼女の顔はすでに返り血で真っ赤だ。

 左には『剛剣』の二つ名に相応しい働きを見せるベルナールがいる。俺の身長ほどある大きな剣を軽々と振りまわす。一振りで2から4頭を屠っている。


 俺が創り出した大木のおかげで、限定的ではあるが敵を二手に分断出来ている。

 アヴェリーにはアイコンタクトで右側から回るように指揮を取る。彼女に対して抵抗のない若者が3人その後ろに続く。

 俺はベルナール、近藤そして、少年という顔見知りだけで構成されたメンバーを率いて左側に回る。


 大木という壁があるおかけで、右側からの攻撃を気にしなくて良い分楽に殲滅することに成功する。

 そこで、アヴェリーたちと合流すると次の獲物を狙う。

 今までは相手にしてきた奴らは下っ端も良いところだ。

 やはり、強いモンスターはそれに応じて知能が高いものが多く。破壊出来そうもない木の周囲で戦うことはせずに、俺たちが来るのをじっと待っていた。

 その中でも異様な存在感を放つのが、3頭。

 三つの頭をもつケルベロスのような狼、沢山の人を喰らったのだろう、男の上半身に蟷螂の下半身をもつ四刃蟷螂カトラム・マント、大人の一人分位の長く太い両腕を持ち、背には蝙蝠のような二対の大翼という、より竜に近い姿をし始めている竜鱗人ドラコ・ペルセレだ。

 そのどれもが並々ならぬ姿と力を備えている。おそらく、ベルナールの話しにも出てきたがあれらが他の生物を取り込み、自らの血肉へと変えるという、【侵蝕しんしょく】を行った複合魔獣キメラと呼ばれる生き物だろう。

 そして、ここで仕留めなければさらに凶悪に進化する事が目に見えている。手強そうな相手だ。


「ベルナールは中央の蟷螂、アヴェリーは左の狼、近藤は右の竜人を狙え! 残りの奴らは近藤の補助に付け!」


 俺たちの中でも主要メンバーに指示を出す。この世界に来て、日も浅いであろう近藤が選ばれているのは、それは彼の素質によるところが大きい。

 彼はその軽い態度とは裏腹に、絶えず周囲の仲間に対して気を配っている。そんな彼を向かわせれば、他のメンバーも万が一のことが起きても大事には至らないだろう。それに、そうさせないだけの実力が彼にあった。

 さすがはその学校の生徒といったところ。体の動かし方、慣れない武器の使い方、それに何となくではあるが魔法の扱いにも何かをつかみ始めている様子。

 ベルナールに比べれば、まだまだ指揮を執りつつ戦うには経験と実力が不足しているが、あの敵の中でも最弱とみられる敵だからな。この程度、熟してもらわなければ、この先生き残ることは出来ない。

 それにベルナールには手ごわい敵を抑えてもらわなければならない。他の事に気を配っている余裕はないだろう。

 ベルナールが不敵な笑みを浮かべてこちらを向いた。


「空、お前はどうするんだっ?」


「俺はこの場全ての敵を狙う。邪魔をするなよ?」


 俺も笑みを浮かべてそう返したのであった。




 指示の後、すぐさま戦闘に入った。この戦闘で最も負担が大きく、尚且つ僅かなミスも許されないのは俺だろう。特にアヴェリーとベルナールは単独で敵を相手取ってもらうため、敵の意識を彼らに手中挿せないように絶えず動き回る必要がある。

 この戦闘中は常に【瞬陣】を発動させなければならないだろう。目標の周りには俺を吸い寄せる黒い球体がいくつも浮かんでいる。これにより、敵への道が確保された。

 一気に距離を詰める。

 まだ誰一人として接敵していない。この状態なら、俺がどのように動いても許される。

 まずは、一度ずつ攻撃を仕掛けて強さを測った。

 

 狼にはすれ違いざまに一閃、一つの頭が刀を牙で受け、一つが噛み付き、最後の一つが炎を吐く準備をしている。噛み付きを躱すついでに、頭を蹴り炎を逸らさせ、竜人へと跳んだ。

 叩き潰すかのような大きな腕の一振りを受け流しつつ、腕の切断を試みるも予想以上に鱗が固く、刃が通らない。目くらましに顔面に斬撃を飛ばして蟷螂を狙う。

 蟷螂はぎりぎりまで動かなかった。しかし、俺が攻撃範囲内に足を踏み入れると音だけを残して、刀を持つ手に二度大きな衝撃を与えた。


 なるほど、やはり見立て通りか。


 一旦、後方に下がると一連の流れで得られた情報とともに指示を出す。


「近藤たちは敵の両脇に二人ずつ構えて、腕を押さえろ。予想以上に固いから、腕を落とせると思うな! 最後の一人が止めを差せ!

 アヴェリーは正面から敵に向かうな。敵に動きを封じられないように気をつけろ!

 ベルナールは鎌の攻撃範囲に気を配れ。背後を取ろうがなんだろうが、決して気を抜くな!」


『応っ!』


 仲間たちは竜人のすぐ傍まで迫っていた。俺は最も戦力が不安な近藤たちのもとへと向かった。

 盾と剣を持った男とあの少年が顔を真っ赤にして敵の右腕を抑え込む。必死の努力虚しく彼らの武器は少しも通っていない。

 斧と槍を持った二人組もまた、腕を迎撃するが斧を持った男の攻撃がわずかに鱗に罅を入れたくらいで、竜人の戦力を削るには至らない。

 しかし、仲間が紡いだ数秒を使い、近藤が正面から切り込んだ。

 近藤の得物は槍だ。その武器を選んだ判断は合理的で正しい。元いた国では兵役があったが、義務期間で習うのは銃の扱いやサバイバル術などのみ。そして、その対象は学生でない22歳以上の男性のみだった。

 つまり、近藤は何の訓練も受けていないのだ。そのため、戦闘術は身に付けていないズブの素人だ。

 しかし、その才覚のみで武器の扱いを覚え、さらにはスキルを放っている。

 この世界を短い期間ではあるが、旅をしてきた今なら分かる。それが出来ることがどれだけ稀有なことか。


 気合いとともに放たれるそれは【鎧通し】だ。

 その技ならば、鱗を透過してダメージを与えられる。

 その判断の通りに竜人が一瞬怯む。だが、息の根を止めるには至らない。

 それどころか、その痛みは竜人の怒りに火を付けた。

 青かった目が赤く変わり、血管が浮かび上がる。さらに、緑色の鱗がカタカタと音を鳴らして震える。

 敵が大きく息を吸う。

 耳を劈く鳴き声とともに吐き出されたのは巨大な空気の塊。

 耳を抑えてうずくまる近藤たちは動くこともままならない。


 しかし、【絶衣】という防音手段を持っていたため、俺だけは動くことができた。

 さらに、この術は遠距離攻撃に対しての防御力は俺の持てる術の中でも随一だ。

 すかさず、間に割り込むと身に纏う黒いマントを脱ぎ捨て眼前に大きく広げる。

マントは壁となり気弾から身を護る。

 安全を確認すると防御はそのまま放置し、手を離して、さらには地面からも離れた。

 暴風を防ぐ黒壁を跳び越えるように、大きく上に跳んだ。そして、空中で二度三度と宙を蹴る。

 黒い足跡を残しながら敵へと向かう。

 気弾を吐き出し続ける敵は両手を前に着き、首を伸ばしきっている。

 無防備な敵に向けて、黒い球体で作られた細い道が架けられる。

 球体一つ一つが引力を持ち、敵に向かって加速する。しかし、その球体に触れるたびに身体は痺れ、黒く染まる。自分を傷付け、肉を切りながらも、骨を断たんと迷うことなく突っ走る。


 そして、振り落とされるは大きな刃を持った斧。

 【重撃】と【衝波】を組み合わせ、高速で震わせて鱗の隙間に食い込ませ、その破壊力でもって振り抜いた。


 地面が割れ、地鳴りを起こす。

 超高速で落とされた刃とは対照的にゆっくりと崩れ落ちる竜の首。

 しかし、それを悠長に眺めている余裕はない。


 先ほどの竜人の咆哮はベルナールとアヴェリーにも影響を出していた。

 ベルナールはその経験から裏打ちされた勘で顔をしかめながらも、なんとか大剣を振り上げ鎌を防ぐが、アヴェリーはその本能に従い腕の機能を備えた前足で耳を塞ぐ。

 それにより完全に動きが止まってしまう。

 それを好機と彼女に迫る三つ首の狼。


 俺は首と胴体を払いのけると一直線に彼女へ駆けた。

 身体が重い。隙をつくための超加速は大きな負担を強いる。

 流れ出る血が黒い。呼吸音が耳元で五月蝿く騒ぐ。


 それでも、足を止められない。

 疲労が思考を鈍らせ、力の配分を間違える。

 そのせいで、足地中深くまで突き刺してしまった。

 力ずくで引き抜き、膝から下を血だらけにしながらも走る。


 そして、不可能を可能にした。


 突如真横に現れた俺に反応することが出来ずに防御を疎かにしている左の首を斬り落とす。

 返す刀で中央の顔を縦に一閃。


 ここでようやく狼に痛みが奔る。

 叫び声をあげて、暴れ出す。動きに規則性はなく、何のスキルも使えていない攻撃ではあったが、その巨体ゆえにまだまだ油断出来ない破壊力を秘めている。


 それを後ろに跳ぶことで距離を取り、躱すと、サッと状況の確認を行う。

 ベルナールはまだ余力がある。

 近藤たちは風が収まったため、加勢しようと駆けだしたところ。

 現状、問題はない。俺の後ろにいるアヴェリーとともに突っ込んだ。


 怒り狂う狼は炎を吐きながら、暴れまわる。俺を視界に入れると更にその激しさを増した。

 振り下ろされる右前脚を刀で火花を散らしつつも受け流し、懐に飛び込んだ。

 狼の真下に入ると、無防備な腹が露わとなる。そこへ剣を掲げる様に下から突き上げた。

 刀を伝い滴り落ちるどす黒い血。

 その赤黒い血は熱く、堪らず手を放してその場から離れる。


 出ると、アヴェリーが前傾姿勢を保ちながら、勢いよく敵の背中に飛び乗った。

 そのまま、【連爪】を使い、爪で二連撃。浅く皮を切り裂いたのか、背中からは高温の血が流れ、彼女の周囲には湯気が立ち昇った。


 背中と腹部、両方に気を取られる狼の防御は既にがたがただ。

 それでもその猛威は厄介極まりないが【見切り】の上位版である【心眼】を使い、冷静に対処すると斧を片手に一回転。

 その回転に合わせ風が吹き荒れる。炎を巻き込み【嵐斧らんぶ】を使った。

 遠心力と風での加速と炎を纏う事により得た破壊力で強振。斧の通った後には地面が焦土と化し、空気を燃やした。

 

 その攻撃力は中央の首を斬り落としてもなお止まらず、左の首を深くまで食い込ませ、地面に押し倒したところで止まる。

 完全に動きの止まった狼の横でほっと息をついた。

 少し全力を出し過ぎた。正直、長期戦となると厳しい。

 休憩しつつも、ベルナールの戦いぶりを見て、情報を集める。だが、相手もベルナールもまだまだ本気を出していないようで、互いに測りかねている様子だ。

 ということは俺たちがあっちに行ってからが本番か。


「よく聞け、アヴェリーはこのまま俺とともにベルナールに加勢をする。

 近藤たちは周りの雑魚を蹴散らせ」


『応っ!』


 続けて、近藤たちの方を見て二、三注意を促す。


「分かっているとは思うが、今のアンタたちではあの敵に決して勝てない。だから、絶対に巻き込まれるな。

 そして、必ず二人以上で行動を共にしろ。決して無理をするな。いいな!」


『応っ!』


 威勢のいい返事を聞くと散開させ、どこで狩りを行うかを指を指して示すとそちらに向かわせる。


 俺は狼から刀を抜くとアヴェリーを引きつれ、彼女と同じ速度でベルナールのすぐそばまで駆け寄った。

 つかの間の休息は体力の回復を促したが、失った魔力は戻らない。


「ベルナール」


「おう、ようやくか。待ってたぜ」


 一度俺たちの元まで下がると油断なく構えながらも、耳を傾けた。


「奴の戦力は確認できたか?」


「いいや、何度か手を出しては見たがそこが見えねえ。ありゃちっと厳しいかもな。

 それより、お前のはどうだ? かなり飛ばしてただろ。あと、どのくらい動ける?」


 いくら平静を装ってもベルナールには隠し通せなかったか。俺は正直に告げる。


「体力はそこそこ残っているが、魔力はほぼ尽きかけてるな。

 長期戦は分が悪い。二撃あたりで決めたい」


「そうか……じゃあ、どうする? 作戦は?」


 まだベルナールの本気を見た事が無いから、何とも言えないがまだ切り札は切っていないように思える。

 しかし、蟷螂の人の部分の顔が醜く笑った。それどころか、鎌を手前に引き、挑発をしている様に見える。

 すぅっと精神が凍っていくのを感じた。

 この行動は蟷螂が持つ様な知性じゃない。人を喰らって、知識を得たようだ。


「ベルナール、おそらく俺たちの会話は敵に筒抜けで作戦もばれている」


「なっ! いや、モンスターだぜ、いくら人間の上半身が生えているからって……」


「それだよ。文字通り人を喰らい、吸収しているんだよ。知識と一緒にな。

 そうだろ? 蟷螂野郎」


 瞬間、刃を合わせてカタカタと笑い出した。


「クカカカ、あははは、ハハハッ! よクきヅいたな。

 よこセ、ワタしニヨコせ! そのちシキをよこセ!」


 それを皮切りに大きな鎌が振り落される。

 

 蟷螂男に合わせて、前へと跳んだ。

 同時に叫ぶ。


「俺が抑えに回る。アヴェリーは撹乱、ベルナールが決めろ!」


 その指示に黙って、後ろの二人が散った。

 そして、答えたのは仲間ではなく敵である蟷螂男。


「いイのカ? カんガエガつつヌケだゾ?」


「ああ、構わない。分かってても決めてやるさ」


「おモシろい!」


 正面の刃を弾き返し、下と左右から迫る三つの刃を【絶衣】で一瞬だけ抑え、回避のための時間を作り出す。

 さらに、足元にも発動させて立体的な戦闘を可能にした。


 ひたすら、受け流し続ける。刃と刃がぶつかり合う度に火花が散る。そして、獲物の差が出る。徐々にではあるが、刀が削られていった。

 さすがに複合魔獣であり他のモンスターとはその存在の格が違う相手の攻撃を受け止めるには名刀如きでは荷が重かったか。

 

 だが、着実に時間は紡がれていく。

 

 その時間は覇王の一撃を生み出した。


 ベルナールが大上段に大剣を構える。その存在感たるや巨大なモンスターを前にしても、押しも押されぬ迫力を放っている。

 ベルナールからは魔力は感じない。つまり、今から繰り出そうとしている大技をその身一つで為そうというのだ。戦士としての格の差を感じた。

 気迫、殺気、目に見えるほど活力に満ち溢れている。

 俺が以前殺気をぶつけた時、驚いてはいたが、これを前にするとどうだろう?

 俺は本当に強いと言えるのか? こんな大きな男になれるのだろうかと不安が胸の中で渦巻く。

 それをベルナールへの攻撃を庇い続ける事による、わずかな優越感で霧散させる。

 迷っている時間などないのだ。


「決めろ、ベルナール」


 その掛け声と同時に大剣が振り落された。


「【滅神覇断】」


 それは神をも切り裂く一撃。

 覇王が振るうに相応しい一撃だ。

 

 慌てて防御に回るが、俺はその手段を封じる。それでも肉を切らせても骨を守るという選択は正しく、俺の攻撃を無視してベルナールに刃を向けるが、刃と刃がぶつかり合った瞬間。


 ――パリン。


 鎌は音を立てて呆気なく割れる。

 断末魔を上げ、身をよじるが、そのどれも結果を変えることは出来ない。

 ついに、その身に大きな刃を受け、息絶えたのだ。

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