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15話~異世界人~

本日二話目の投稿となります。

 熱い。身が焼けるほどの熱さだ。


 轟々と音を立てて燃え上がる民家。悲鳴を上げて逃げ惑う村人。


 死から逃れようと必死に抗い続ける戦士たち。


 アンナが泣いている。


 ミアがあやす様にギュッと抱きしめるが、彼女自身もまた身体を震わせている。

 

 アリアナが強張った顔で棒切れを片手に立っている。


 彼女たちに襲い掛かる狼の群れ。


 やめろ、止めてくれ!


 声が出ない。身体が動かない。

 

 俺は一体どうしてしまったのだろう?



 俺の身体は炎に包まれていた。



 ああ、そうか。


 これが……


 怒りか。




 ◆ ◆ ◆




 ガヤガヤとした、いや、怒鳴り声で目を覚ます。


「だから、何度も言ってんだろうが! あの獣人はこいつの味方だって。なら、俺たちの味方も当然だろうが!」


「こぉんの、軟弱者がぁっ! あのような憎き者が味方だと?

 笑わせるなっ!

 貴様の腕とて奴らに奪われたのだろうが!」


「そうだ。けど奴らとそいつは違えだろうが!

 歳とって、頭まで固くなったのかよ!」


「ガァァァッ! 黙れぇっ!」


 鎧を着た爺さんが槍を手に彼女、アヴェリーに突き立てようとしている場面が目に飛び込んできた。

 

 こちらは寝起きだというのに、面倒な。


「五月蝿いぞ、爺さん」


 放たれた一撃は予想以上に鋭く速いものだった。

 寝起きで動くの億劫だったが対処できないほどではない。


「【絶衣】」


 彼女を覆うように闇の膜が現れる。強化された風の力によりこの程度の直接攻撃ならば、容易く跳ね除けることが出来た。


「うぬぅっ!」


 慌てて、距離をとる。後ろに跳んだというのに、その距離は優に2mを越えている。

 こいつ本当に老人か?


「空、悪いな。爺さんを止めきれなかった」


 ベルナールは頭を掻きながら、申し訳そうに謝った。


「気にしなくて良い。大体の事情は把握した。それに俺にも非があるしな」


「おお、空が謝った! めずら――」


 ベルナールを叩くと、老人とアヴェリーの間に割り込む。


「アンタらの事情は分かっているつもりだ。しかし、彼女は俺の仲間なんだ矛を収めてくれないか?」


「退けぇっ! 死にたいのか、貴様!」


 聞く耳持たずか……仕方ない。


「断る。退かせたくば、力ずくでやってみるんだな」


「オオオォォゥッ! 【雷突らいとつ】!」


「おい、爺さん。それはまずい!」


 先ほどまでとは段違いの速度に、雷を纏った槍が迫る。

 魔闘技か。

 俺諸共彼女を殺そうというのか。やはり、これは根の深い問題だな。おれではどうにか出来そうもないが……その技を振るうんだ、覚悟は出来ているんだろうな? 恨むなよ?


「【絶火ぜっか】」


 黒炎を纏った手のひらで受ける。

 黒い火花を散らしながら、俺の手のひらに当たった槍が面白いように溶け、裂けていく。


「こ、これは」


 後に残ったのは根元を残して燃え尽きてしまった槍のみ。


「爺さん、怒りを納めてくれ。頼む。今この状況でアンタを失うわけにはいかないんだ」


 殺気付きで睨み付けた。これで少しは大人しくなるだろう。

 さて、次は彼女だ。


「アヴェリー、怪我はないか?」


 見たところ怪我もないし、怖がっている様子もない。


「ウン! ダイジョウブ。ソラモゲンキ?」


 答える代わりに撫で回してやる。

 問題ないようだな。


「ベルナール、すぐに戦力になる奴らを集めろ。打って出るぞ」


「ああ。お前が起きるの待ってたら、元気が有り余ってるからな。思い切り暴れてやるぜ」




 場所は変わって傭兵ギルド。職員たちはこれから戦う者たちに飲み物を注ぎまわっている。

 皆が慌しく動き回っているというのに、一人だけコップを片手に椅子から立ち上がろうとしない者がいた。

 俺がここに来た時に対応してもらった職員だ。サボり魔という噂は本当のようだ。

 あ、別の職員に拳骨を落とされた。渋々動き出したようだ。


「作戦会議始めんぞぉっ!」


『おおー!』


 ぼやぼやしている内に始まったようだ。全く、集まってから始まるまで何分かけてるんだよ。


「まず、心強い助っ人が来てくれたぞ! 神谷空だ!」


 ベルナールが手招きをしている。士気を上げるためだ、少しだけ協力してやるか。

 静かに立ち上がり、ゆっくりとした歩調で壇上に立った。


「神谷空だ。無駄口をたたくな。はいか、イエスで答えろ。

 俺に付いて来る限り誰も死なせない。

 恐れるな、あの程度の奴らどうにでもなる」


『おおぉー!』


 【威圧】を発動させ黙らせると、その場をベルナールに譲った。


「おいおい、脅してどうする。脅して。

 まあ、いいか。後、そこにいる赤い獣人はアヴェリーだ。彼女も仲間だ」


 俺の隣で寝転んでいた彼女だったが、何かを感じ取ったのだろう。二本足で立ち上がると、胸に手を当てて礼をした。

 やはり、立てるのだな。


「ワタシハ、アヴェリーデス。ヨロシク」


 たどたどしい口調ながらも自己紹介をする彼女の姿はどこか微笑ましい。

 それを受け傭兵たちは渋い顔をした者と、拍手で迎えると者に別れたが、数としては1:3といったところ。

 渋い顔をした者たちは年配の者が多く、戦争に参加したことがあるのだろう。

 やはり、彼女の正体は……いや、それよりも今は目の前のことを解決すべきだな。


「まあ、昔のことを水に流せとは言わん。

 だが、足を引っ張り合うようなことをするなよ?

 俺も含めて、空なら全員を相手にしても勝てるんだからな」


 実質彼らのトップに立つベルナールがそう言うと、俺に視線が集中する。不安、疑心、期待、それに、恋慕が透けて見える。

 とりあえず、はっきりしているのは俺が無事なら彼女の安全も保たれるということ。

 ならば、勝てばいいのだ。単純で簡単なことだ。


 最初に行われたのは、現状での戦力の確認。己を知れば百戦危うからずというやつだ。

 魔術師3名、魔導師1名、神官2名、剣士7名、剣豪1名、大剣士1名、槍士6名、騎士5名、魔導騎士1名、斧士1名、盾士6名、弓術士8名、そして、俺たちの獣戦士1人と黒魔導師1人を加えて、総勢44名である。

 この中での中級職以上が12名。戦闘には向かない職も含まれているとはいえ、これだけいれば、四方に同時展開できるか? 


 次に敵だが、海に面している北部には水棲系のモンスターが多くひしめき、東部は獣系、西部は昆虫系、北部は川が流れているとの事もあり、獣系、水棲系、そこに昆虫系も加わるという混沌とした戦場になっている。

 俺が村に入る際にいくらか蹴散らしたが、その空間はすぐに別のモンスターによって埋められている。


 昆虫系のモンスターは主に火に弱く、西部には魔術師が送られるだろう。

 水棲系のモンスターは火や雷に弱い。そのため、北部はあの老人が率いる騎士部隊が当たられる。

 獣系は個体によって弱点が異なるが、出現しているモンスターの多くは初級職でも十分可能だ。そのため、東部は質ではなく数を送り込み、負けない戦いをしてもらう。

 最後に激戦区である南部は俺たちやベルナールと言った少数精鋭で切りこむ予定だ。

 配分としては東西南北に14:12:8:10となっている。


 そんなわけで会議の後、各班に分かれて顔合わせを兼ねた衝会議が行われているのだが、そこで面白い奴を見つけた。


 それは向こうからやってきた。


「神谷先輩っすよね? よろしくおなしゃっす!」


 この場にいる傭兵たちとは明らかに異質な存在。平和ボケした暢気な雰囲気を纏った少年。

 この少年は両肩に『皇』の文字が象られたワッペンが付いた靴から上着まで黒で統一された服を着ている。何も知らない者が見れば、どこか軍服のように見えるかもしれないが、俺は知っている。

 俺の母校である『皇都第一学園高校』の制服だ。文武両立を地で行く学校である。日本屈指の最難関大学である『皇立一条大学』通称皇大への進学率№1という実績を誇りながらも、野球、サッカー、柔道等のスポーツ、吹奏楽、囲碁、将棋等の文化的な面でも、全国大会の常勝高校として認められている学校である。さらに、3年次は受験勉強への専念のため、部活動を禁じられていながらのこの実績なのだから、どれほどの化け物が集まっているかが分かるだろう。


 少年が母校の生徒であり、後輩であるということは分かった。だが、俺はこいつを知らないのに知られているのはなぜだ?


「ん? 空の知り合いか? 同じ和人だし、そう言う事もあるか」


「確かに関係がある事は確かだが、俺はこいつを知らん」


 疑問に答えるように喋り出した。語られるは美化された俺の過去。


「まあ、そうっすよね。俺が入学したのも先輩が卒業したあとっすから。

 で、でも、話は聞いた事あるっす。

 何でも、入学以来すべての定期試験で全科目満点を取り続け、部活動には入部しなかったものの、体育祭参加種目では負けなし、それに以前先輩が授業で描かれた絵が応接室に飾られているらしいっす」


「おい、待てよ」


 つい、突っ込んでしまったが、無断で使用されているようだ。いや、思い返せば教科担任に『あまりにも出来がいいので飾っても良いだろうか』、と聞かれたことがあったが、一定期間美術室に飾られたのち撤去されていたので、処分されたものだと思っていたが、ともやそんな所で使われているとは……そこまで許可した覚えはない。


「まあ、いい。それよりも話したいことがある。付いて来い。

 ベルナールはそのまま準備を進めておいてくれ」


「おう、分かった。

 開始時効まであんまし時間はねえんだから、長話はするなよ?」


 要らぬお節介を焼くベルナールをあとに建物の陰に少年を連れ込む。


「何すか、先輩?」


 現状をキョトンとした顔で不思議がっているようだ。まったくこいつは何もわかっていない。


「まずは、アンタの名前と学年を言え」


「あ、そうっすね。言ってなかったですね。

 自分は近藤勇人こんどうはやとっす! 学年は2年、彼女募集中っす!」


「そこまで聞いてない。余計な事を言うな。

 いいか、今から俺が言う事を黙って聞け。

 ここは地球とは違うのは分かるな?」


「うっす!」


 どっちだが、分からない返事だな。まあいい。


「この世界にはさっき見たように獣人たちが多く存在しているが、俺たちとよく似た外見を持つ和人と呼ばれる種族もいる。

 とりあえず、地球から来たということは隠し、聞かれたら和人だということで通せ。

 なぜかは分かるな?」


「うっす!

 自分と先輩の立場が悪くならない為っすね」


 あの高校の生徒だけあって、頭の回転は速いようだ。この注意は必要なかったかもしれないが、念のためだな。


「そうだ。あとは相手に警戒を抱かせず、素早く馴染むという目的もある。

 後で、細かい設定を伝える」


「うっす!

 それにしても後で……っすか」


 そう言って、表情を陰らせた。何か問題があるだろうか?


「何だ?」


「フラグにならなければ良いんすけどね」


 大規模な戦闘を前に弱気になっているようだ。仕方ない、ここは先輩がありがたい言葉を授けてやるとしよう。


「その時は、アンタが死ぬ時だ。気にするな」


「そうっすよね。死ぬ時は死にますもんね。

 って、ちょっと! ひどいじゃないっすか先輩!

 まだ、彼女も出来た事も無くて、ミアちゃんにもこの熱い思いを伝えていないのに!」


 煩く喚いたので拳骨を落として、持ち場に引きずっていく。

 近藤を横目で見ながら、ため息を吐いた。

 

 近藤自身、決して見た目が悪いわけではない。

 髪を金に染めてはいるが、良く笑い目つきもきつくない事から、ヤンキーというよりも、ただやんちゃな少年という印象を受ける。さらに、短く刈り上げられたツンツン頭はどこか清潔感を与え、180cmに迫ろうかというすらっとした長身。性格も、明るく元気がいい。

 これで今まで彼女がいないということは……どこか重大な欠陥があり、残念な部類の人間ということだろう。

 それにミア、か。アンナの姉で長い白い髪の美少女だったが、人気があるようだな。確か、俺が連れてきた少年もミアを護るだなんだと言っていたな。

 俺に火の粉が掛からないところで争ってくれれば、面白いかもしれないな。

 

 噂をすれば、ベルナールが件の少年を配置しているところだった。足だけは引っ張るなよ? 色々な意味で。


「お、来たか。作戦通りだとお前が先陣切るんだろ?

 時間も時間だし、頼むわ」


 近藤のつま先を踏み起こすと、俺も持ち場に着く。

 外壁の上、南部担当の8人の中央だ。

 すぐ左にはベルナールが、右にはアヴェリーが今か今かと待っている。

 俺は刀ではなく、盗賊の頭から奪った魔斧【血染めの月】を構え、宙を歩く。


 一歩一歩確かめるように踏み出した。

 村中の戦士の視線が集まるのを感じる。

 斧を振り上げ、叫ぶ。


「聞け、戦士たち!

 俺たちが歩く先に待っているのは『勝利』の二文字だ!

 疑うな、恐れるな、腕を振るい、頭を使え!

 迷わず付いて来い!」


『おおー!!』


 歓声と同時に飛び降りた。


 魔力を込める、それに呼応し煩いくらい脈を打つ。

 血をよこせ、肉を喰らい、骨を断てと囃し立てる。


 しかし、それを俺の黒い魔力で覆い尽くす事で強制的に黙らせる。

 

 黒と茶色、そして緑の魔力が混じり合う。


 【重撃】を使い、さらに加重し、加速した斧はモンスターを巻き込みながら、地面へと到達する。

 

 ――爆発。


 それに乗じて、斧に込められていた魔力が一気に広がった。

 俺を中心に半径100m、ギリギリ村は範囲外という近接武器が叩き出すにしては常識はずれの射程距離。

 円の中にいるモンスターの命を奪い、それを糧に地面が隆起した。

 そして、日の目を見るは黒い葉を持つ一本の花。

 その花は恐るべき速度で幹を太くし、その太さはその半径30mといったころ。想定外の成長に、急いでその場から離れなければ、俺も巻き込まれていただろう。天辺は既に見上げなければ見えない。それでもまだ成長を続けている。


 円の中にいる生物の命を糧に花開くさまはまさしく、呪いの花。

 突如として現れた大木。

 これこそが、


「【黒樹こくじゅ】」


 これにより、ぽっかりと穴が開いたかのようにモンスターは倒れ、骨すらも残すことなく取り込まれていく。

 

 成長が止まったところで刀を振り上げた。


 さあ、闘争の始まりだ。



 神谷空 20歳 男

 クラス:剣豪A 魔導師B 拳士A 戦士B 黒魔導師S

 スキル:【身体強化術/神/治/力/速/硬】【見切り】【瞬陣しゅんじん】【三連斬】【十字斬り】【一閃】【飛閃ひせん】【剣逝けんせい】【中級魔法/火/風/水/土/木/金/雷】【上級魔法/闇】【無詠唱発動可/闇】【耐性/火/風】【魔力増加】【魔力探知】【衝波】【震脚】【手刀】【重撃】【鉄拳】【挑発】【威圧】【絶衣ぜつい】【墨伝ぼくでん】【紫雷しでん】【黒樹こくじゅ】【水の呼吸】【成長促進】

 依頼履歴:成功『B,1』『C,8』『D,12』『E,16』『F,18』『G,15』失敗


【黒樹】魔力を消費して発動。地面に闇属性の魔力を流し、地面に接する存在から養分を吸い取る。それを土属性で仲介・増幅、木属性で養分を消費して、それに応じた草木を生やす。その後、養分は術の効果が薄れるにつれ、大地に還元される。

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