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12話〜仮面の英雄〜

次話は本日の12:00投稿予定です。

よろしければそちらもどうぞ。

 シャ・ヴァーグでやれることはほとんどやりつくしたと言っても良い。

 この町には三日間滞在したが、その間依頼を受け、元手を作ると武装の充実、アヴェリー用の子供向けの本、日用品、食料品を買い揃えた。

 この中だと子供向けの本を買うことが出来たのが一番いい買い物だったと言って良いだろう。

 これを使い、彼女は言語の習得を行っている。しかし、その習得速度が異常に速い。それは【即神術】を使ったというブーストもあるのだろうが、偏に彼女の才覚による部分が大きく、そこに彼女にとっては初の町中、俺以外の他人との接触はそれを加速させた。まあ、この部分に関しては想定済みだ。彼女ほど知性を備えた女性ならば、この程度苦でもないだろう。一ヶ月もしないうちに読み書き、流暢に話せるようになるだろう。

 

「さあ、行くぞ」


 朝食を取り終えると、先に食べ終えていた彼女に声をかけた。

 俺に続いて席を立つ。これもここ最近の成長の一つだ。彼女はどんどん人間らしくなっている。しかし、俺としては彼女の素直で実直な部分だけは変わらないでいて欲しい所だ。

 さて、今日はこの町から出る前に、この辺りで一番の強さを持つと知られているモンスターの狩猟に出かけるためだ。

 生息地は【竜鱗人(ドラコ・ペルセレ)】がいたこの町西南にある砂浜を南下していくと、岩場がある。濡れて足場の悪い岩場を乗り越えた先に岬が見える。その下には洞窟があるという。そこが敵の住処だ。

 そして、俺たちが岬を視界に入れた時には太陽が高く昇っていた。かなりの速度を保って移動してきたが、12時を過ぎてしまったようだ。

 この町のギルドで顔を合わせていた受付嬢が「今日は泊りがけの依頼を受託なさるのですね」と言っていたから、急いできたが正解だったようだ。

 とは言え、道中少なくない数のモンスターとの戦闘を行い、魔力の消費はもちろんの事、疲労も溜まってきている。ここは一度休息を取るべきだろう。

 波がかからない大きな岩の上に登ると、宿でもらった弁当を取り出した。

 内容はシンプルかつ栄養を考えられたもので、色とりどりの野菜とジューシーな肉が挟まれた大きなバーガーだ。

 この世界の食べ物は面白い。挟まれている野菜の一つに炭酸のように口の中でシュワシュワとするものもあれば、メインの肉のように軟骨を噛み砕くとピリッとした味が口の中に広がるものもある。つまり、香辛料のようなものを体内で生成する生き物がいるということだ。

 向かいに座る彼女も両手で持つと一心不乱に喰らい付いている。元々食欲が旺盛な彼女は野菜嫌いを克服し、このように野菜が肉を引き立てることにも気付き、食事の楽しさを知った。食事のマナーという点では目を瞑らなければならない部分もあるが、それが彼女の愛嬌と言っても過言でもないので、そこまで目くじらを立てて矯正すべき事でもないだろう。

 食べ終えた彼女がこちらに追加の食べ物を強請ってくるので、収納袋から道中で狩ったモンスターの肉を与える。今思えば、ベルナールからこの袋を貰っておいて本当に正解だっただろう。

 まあ、そんな彼女に対して俺が思う所はただ一つ。食事の楽しさを知った彼女は好みが出来た。つまり、肉を生、何の処理もしていないものを食べなくなったのだ。これが少々面倒。早急に改善しなければならない問題だ。


 そんなこんなで食事後の腹休めも終えると、目的地に向かって歩き出す。

 もはや、洞窟までは目と鼻の距離だ。警戒しながら移動するのは当然である。

 洞窟の中に入ると海が陽の光を反射して、青く照らし出していた。波音も洞窟中に反響して、幻想的な雰囲気を醸し出す。

 モンスターさえいなければ、とてもいい場所ではあるな。

 そんな感想を抱きながらも奥へと進んでいくと、段々と暗くなっていき、辺りが見えなくなってしまった。

 アヴェリーはまだまだ目が利くようだが、俺の場合は厳しい。こんな所で戦闘は出来なくはないが、ハンデを背負ったものとなってしまう。仕方なく、魔法を使って補助をする。

 暗闇の中でも見えるようになるというイメージで闇属性魔法を使って作り出された黒いサングラスだ。

 防犯カメラの様な白黒の世界が目に映る。

 さらに、奥へと進む。天井が低くなったり、道幅が狭くなったりと歩き難いことこの上ないが、敵が見つからない以上進むしかない。

 途中で彼女にも魔法をかけ、探索していると開けた広い空間に出た。

 上の方が少しだけ明るくなっている。どうやら、ここから登ることが出来れば、外に出られるようだ。

 だが、見上げて確認したが、飛べないと最初の取っ掛かりにも手が届きそうにない。つまり、俺たちがここから出るには来た道を辿って出るしかないというわけだ。


「見つけた」


 天助を見上げる途中で赤く輝く二つの光。豚のような鼻に、顔の大半を占める大きく裂けた口には鋭く尖る牙を覗かせ、額には鬼のような二本角が生えている。そして、悪魔の様なギザギザの四対の大きな翼。その姿こそがこの近隣に住む者に対して恐怖を与える。このモンスターは夜な夜なあらわれては家畜だけでなく、人を特に子供を好んで攫っていく。

 それこそが【音魔蝙蝠ヴュルイ】と呼ばれるモンスターである。奴の最大の特徴はその大きな口から発せられる爆音である。その音は空気を震わせ、家屋すらも吹き飛ばしてしまう。ある有名な話として、こいつの爆音により冬山の雪が崩れ落ち雪崩が起きたという。

 だから、俺たちがすべきことは見つけたら、即座に奴の喉を潰さなければならない。

 ナイフを取りだし、斬れ味を上げる魔法をかけ、投擲した。両手の全ての指の合間から放たれたそれは一直線に敵に向かう。

 だが、それを阻むように音の壁が立ちふさがる。

 咄嗟に耳元を覆う様に黒い靄を生み出して鼓膜が破られるのだけは防いでみせた。だが、肌を伝い体を揺らされる。さらに、押し出された空気が風となり、ナイフを弾き返す。足元がおぼつかないが、【即神術】で操り、その場から離れた。

 彼女にも同様の魔法をかけ耳だけは守ったが、動けずにいる。回復するまでは俺が相手をするしかない。

 部分的な防御よりも、面で防御した方が良いと判断し、靄をさらに発生させ壁にする。そして、それを操りマントの様に羽織ると新しい技が完成する。闇と風を合わせて作った。


「【絶衣】」


 音も空気も通さない遠距離攻撃に対しては絶対の防御力を誇る真っ黒なマントを頼りに、敵に向かって飛び上がる。

 天井に張り付く、蝙蝠目掛けて駆け上がる。足場にも同じく【絶衣】が使われている。風属性魔法で空気を押し出し、その空いた空間に闇を詰めているので、その過程で発生した風を使って、一段、二段と駆け上った。

 剣の攻撃範囲に届くか否かという至近距離で口が開けれた。

 【瞬陣】を使った超加速で、敵の顔を切り裂いた。そして、【絶衣】で体を包むと、何とか最後の絶叫も防ぎきることが出来た。

 亡骸を袋に入れ、相変わらず目を回している彼女を背負うと天井を目指した。

 俺たちが外に出ると同じくして地面の一部が崩れ、先ほどまでいたあの広い空間が埋まってしまった。


「ギリギリだったな」


 彼女を地面に下ろして、一息つくと回復するのを待って町へと戻ったのであった。


 街のギルドに戻ると騒がれた。非常に煩かった。なんでも「Aランクの依頼を二人で達成したうえに、目立った怪我もないなんて有りえない」だそう。だが、現に目の前にそれをした者がいるのだ。信用してもらうほかない。そのことを指摘すると更に顔を赤くして、声を荒げてきたので、諦めて愚痴だか、説教だかよく分からない怒声を聞き流すと、報酬を貰って後にした。

 しかし、最後の最後で目立ち過ぎた。それにこの町でやる事が済んだ以上、ここに入る必要はない。

 その日のうちに出発した。予定では目的地は北都だが、そこに行くには一旦前に立ち寄った町、シャ・ブランを通る必要がありそうだ。あの後、どうなったか気になる所ではあるし、悪くない。




 シャ・ブランに到着したのは出発してから3日目の昼ごろ、つまり、丸2日かかったことになる。だが、行きは丸4日を要したのだ。それと比べればどうということはない。今回はアヴェリーに首輪を付けたおかげで整備された道を進むことが出来、大幅に時間を短縮することが出来た。

 それにしても道中はよく商人たちとすれ違った。皆一様に同じ方角を目指して歩いていたから、とても気になった。それをこの町で調べることが出来ればと思う。


 街の様子は以前と比べて驚くほど活気に満ちていた。多くの商人たちが訪れるようになり、壊された建物も立て直されているようだ。

 そんな町の様子を眺めていると、不意に声を掛けられる。


「あ、英雄様だぁ」


 道を歩く女の子が俺を指さして言うのだ。


「人違いじゃないかな?」


 それをぶんぶんと首を横に振り、別の物を指さして言った。


「だって、あれ!」


 そこには俺によく似た男が剣を片手に立っていた。つまり、俺に似せられた像が作られていたのだ。

 俺は現状を理解するのに数十秒という時を要した。

 そして、恐ろしいほどに頭が回り出すの感じた。

 真っ先に思い付いたのが、このまま他の者にバレると必ず面倒な事態になるということ。

 幸いにしてこの少女以外には気づかれていない。そう信じたい。

 少女の口をふさぐと、俺の全能力を使って空を駆け、目当ての店を探した。


「わーすごいすごい!」


 腕の中で少女が燥ぐので、落とさないようにするのが大変だったが、仕方ない。あと少しの辛抱である。ついにその店を見つける。少女にお金を渡して目当ての物を買ってくるように頼んだ。

 そして、物陰に隠れること数分少女がお菓子やら何やらを両手に抱えて戻ってきた。俺はその中にあった頼んだ物だけを受け取ると顔に付ける。

 それは仮面。この町で祀られている右半分が鬼の顔をした神様の仮面。これなら、そこまで恥ずかしい物ではない。

 少女と目線を合わせると頭を撫でた。


「ありがとな。じゃあ、そのお菓子も君にあげるから、一つだけ約束。ここで君と俺があったのは俺たちだけ・・の秘密だ。守ってくれるかな?」


「あたしと英雄様だけ・・の秘密?」


 何かを期待するような眼。やはり、女の子は若かろうが老いていようが女の子なのだと実感する。そして、一抹の罪悪感。


「ああ、そうだ。俺たちだけ・・の約束だ」


「分かった! あたしたちだけの約束! あ、じゃあ、あれも買って!」


 弱みに付け込んで、もう一押ししてくるこの少女の将来が末恐ろしいなと思いながらも強請られた物を買ってあげた。

 安いが、可愛らしいデザインの髪留めだ。


「これ、欲しかったの! ありがとう、英雄様!」


 そこにはすでに俺はいない。少女が髪留めに気を取られている隙に空へと飛び上がった。

 大声で探し回っているが、直収まるだろう。

 置いて来てしまった彼女と合流するとギルドに向かった。

 やはり、ギルドの中も賑やかで、湿気た顔をした者はもういない。その様子に満足しながらも、以前対応してもらった女性の元へと近づいた。


「少し聞きたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「え、あ、構いませんよ」


 俺の仮面を見て一瞬戸惑った様子だったが、気にせず続ける。


「シャ・ヴァーグからここまで来たんですけど、道中やけに商人が多くて。それに皆さん同じ方角を目指されている様子。その方向となるとシャ・フルールしかなかったと思うのですが、何かあるのですか?」


「ええ、そうですよ。この時期となるとこの辺りは毎年賑わいますよ! 何と言っても狩猟祭がありますから!」


「狩猟祭、ですか?」


 机の引き出しから、一枚の依頼書を取り出すと、説明を始めた。


「蟷螂の月は、狩猟祭が語源となっているように、この狩猟祭は虫系のモンスターが大量発生するんです!」


 モンスターの大量発生? それは大変な出来事なんじゃないだろうか?


「ええと、それは大丈夫なんですか? 危険はないんですか?」


「そうですね、危険が無いわけじゃないんですが危険度はかなり低いですね。例年発生するモンスターたちは大半がF~Eランクのものばかりですし、それに引き換え回収できる素材からは武器や防具、薬剤が作られます。それにその時に流れ出たモンスターたちの体液は大地に栄養を与えて肥沃なものへと変えてくれるんです!」


 なるほど、ローリスク、ハイリターンというわけか。


「それにこの辺りの傭兵さんたちはそこに稼ぎに行きますから、安全、むしろ稼ぎを取られないようにしないといけませんね! どうします? 貴方も受けてみませんか?」


 一年に一度の機会か。参加してみるのも良いかもしれないな。


「では、俺と彼女の二名で参加します」


「え、あ分かりました。では、この用紙を持って、現地で受理するようにお願いいたします」


 こうして、俺は狩猟祭に参加する事になった。宿に入る時も仮面のせいで不審がられたが、我慢だ。

 依頼書は何かの広告のように華やかで、楽しげな様子が描かれていた。


「『目指せ、一攫千金!』か。金はあるに越したことはないしな」


 袋に放り入れると目を閉じた。


 しかし、翌朝、この町に血まみれの男がやってきて、祭りの様相が変貌したことを知るのである。

 神谷空 20歳 男

 クラス:剣豪A 魔導師B 拳士A 戦士B 黒魔導師S

 スキル:【身体強化術/神/治/力/速/硬】【見切り】【瞬陣】【三連斬】【十字斬り】【一閃】【飛斬】【剣逝】【初級魔法/火/風/水/土/金/雷】【中級魔法/闇】【無詠唱発動可/闇】【耐性/火/風】【魔力増加】【魔力探知】【衝波】【震脚】【手刀】【重撃】【鉄拳】【挑発】【威圧】【絶衣ぜつい】【水の呼吸】【成長促進】

 依頼履歴:成功『B,1』『C,8』『D,12』『E,16』『F,18』『G,15』失敗


【絶衣】魔力を消費して発動。風属性で空気の膜を張り、その内側に闇属性の壁を作る。そのため、遠距離攻撃に対して絶対の防御力を誇る。


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