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11話〜魔闘技〜

本日二話目の投稿になります。

 一度町の外に出て、アヴェリーと合流をする。彼女の口元には暇つぶしに狩りをした名残があるので、魔法で洗い流してやる。


「さて、アヴェリーこれを首に付ければ、町に入ることは出来るがどうする?」


 首をひねって、考えているが今の状況を理解していないように見える。


「要は、俺と一緒に来るか? ということだ。その代わり少し窮屈な事も我慢しなければならないし、俺の言う事をよく聞き、従わなければならない。

 それが嫌なら、今まで通り外で待っているんだ」


 アヴェリーは間を置かずに答えた。


「イッショニ、イク!」


「そうか、なら付けてやるからちょっと待っていろ」


 袋から首輪を取り出す。これは隷属の首輪と呼ぶらしく何らかの魔法がかけられているのが分かる。こうして、市場に出回っている以上はそこまで危険な魔法がかけられているとは考え難いが、念には念だ。俺の魔法で適当に上書きをしてしまおう。

 だが、その様な呪文を俺を知らない。そんな時に役立つのは闇属性魔法だ。これならば【無詠唱】で発動が出来る。後は俺の想像力次第。

 いつも通り、黒い靄が意志に反応して首輪を包み込む。

 まずは、浸透ないし、浸食し、調査を行う。

 手の延長として黒い靄が首輪の内部を動き回る。

 見えてくるのはある属性の魔法。そして、なるほど巧い使い方をしているなと感心した。

 解説すると、使われているのは雷属性の魔法だ。おそらく、これで神経に刺激を送り行動を誘導しているのだ。

 それでいったい何が巧いのかというと、これは抑制・統制ではなく、刺激・促進の方に作用させている点だ。

 前に、身体強化術の一種で主に神経系を強化する【即神術】を使い、無理やり体を動かしたことがあったが、あれは恐ろしく燃費が悪い。利点はあるが、燃費の悪さと反動を無視した体の酷使は大きな難点だ。

 しかし、ただ刺激・促進という使い方ならば、通常通りのコストで行動を誘導できる。そして、この魔法が刺激しているのは本能的な部分、つまり、睡眠欲、食欲、性欲といったものに代表される欲求である。

 ある行動を抑えたければ、他の欲求を強く刺激して、行動を誘導する。同じようにある行動をさえたければ、それに準る欲求を刺激してあげればいいのだ。


「なるほど、面白い。だが、この程度の道具に好き勝手させるわけにはいかないな」


 この道具はおそらく、人には効果があまりないだろう。それは人は理性で本能を抑える事が可能だから。だからこそ、従魔用として出回り普及しているのだろう。

 巧いやり方であり、安全性もある程度考慮されている。だが、それでも俺の仲間に好き勝手やられるのは気に食わない。


 改変だ。

 この雷属性の魔法を無効化するのは簡単だが、首輪から何の魔力が感じられなくなってしまうと、弄ったことがばれてしまうだろう。

 ならば、お守り代わりになるような魔法を掛けさせてもらう。もっとも、あまり強力なものは施せない。偏に首輪が脆すぎるせいだ。まあ、だからこそ普及出来たのだろうが。


 魔法をかけ直すのならば、負担を掛けないように一気にやらねばならないだろう。さて、どんな魔法にするかな。闇属性でそれでいてあまり強力でなく、それでいて彼女にとって役立つもの……あれがいいか。


 先程と同じく靄が首輪中に染み渡る。これで隷属、誘導の魔法は解けた。俺が新たにかけたのは解毒の魔法だ。

 もっとも、闇属性の魔法は本来治療に向いた属性ではない為、体に毒となるものの排除をするように設定しただけだ。耐久性の問題もあるし、あまり魔力を込められなかったので、効果はそこそこと言ったところ。まあ、無いよりはましだ。


「じっとしていろよ」


 屈んで、彼女の首元に黒くなってしまった首輪を取り付けた。


「付け心地はどうだ?」


「モンダイナイ」


 これで彼女も町の中に入れるようになったわけだが、何をしようか。


「ニク! ニク!」


 さっき一人で食ったはずではと思ったが、特にやる事が無いしそれに従うか。まともな食事を取らせてないしな。問題は1アルで足りるのかという事だ。




「ありがとうございました!」


 食事をつつがなく終えた。奇異の視線に晒されたり、品のない輩に絡まれたりしたが、丁寧な交渉と衆人に隠れて速やかに武力を持って排除した結果、何の問題も起きていない。そのはずだ。

 とは言え、アヴェリーの食欲のおかげで、懐が心許ない。今晩の宿を探したら、依頼を受ける事にしよう。


 宿の予約を取り、ギルドで依頼を受けると町の外へとやってきていた。

 近場での依頼を出来るだけ受けてきた。討伐が3つに、採集が4つだ。

 アヴェリーのおかげで採集物の場所は臭いで判明し、討伐もこの近辺で出るモンスターならば、手に余るような存在はいない。


 今まさに討伐依頼Bランクの対象モンスターを眼下に捉えたところだ。

 対象は全身砂色の鱗で覆われた歩くワニだ。よくゲームなどで出てくるリザードマンだが、この世界では【竜鱗人ドラコ・ペルセレ】と呼ぶらしい。

 というのも、歩くワニと言ったが、身体はそのような姿をしているが顔は竜のような出で立ちをしているのだ。もちろん、口からは炎を吐き、手には武器を持っている。火を吐けるために、ある程度金属を加工し武器を作る事が出来る。しかし、竜としての本能ゆえか群れを成さない為、危険度は低めであり、Bランクが妥当とされている。


 【竜鱗人ドラコ・ペルセレ】は基本の身体能力が高い。その能力に絶対の自信を持っているため、奇襲がしやすく危機察知能力が低いと言われている。だが、俺が一歩近づいただけで寝転んでいた砂浜から体を起こして、臨戦態勢に入ったのはどういう事だろう? 事前情報と違うのだが。とりわけこの個体が優秀なのだろう。

 まあいい、このドラコが手にする得物は波打つ刃を持った片手剣だ。フランベルジュと言って差し支えないだろう。その刀身には魔力が感じられる。闘ってみなければ詳しい能力は分からないが、火属性の魔法がかけられているようだ。もう一方の手には太い木から荒削りしただけの盾が握られている。あまり手先は器用ではないのかもしれない。となると、フランベルジュのような形体に成ったのも偶々だったというのも考えられるが俺は生物学者じゃないんだ、この先の研究は誰かに任せるとしよう。

 

「アヴェリー、アンタは周囲の警戒を頼む」


「ケイカイ? スル!」


 元気よく、それでいてドラコを刺激しないように離れていくアヴェリーを見送ると、俺も刀を抜いて臨戦態勢に入る。


「色々と試したいこともある、少々付き合ってもらうぞ!」


 一直線に駆ける。俺を迎撃するように高熱の炎が吐き出される。水属性魔法を纏いつつ、躱す。しかし、どうやら噴射しながら向きを変えれるようだ。

 一度距離を取った。


 砂浜に手を突っ込み手ごろな石を掴むと呪文を唱えた。 


「【硬化せよ、メタル】」


 砂浜に含まれる鉄分が石の表面を覆う。


「【変形せよ、モディフィケイト】」


 そして、小さな突起物へと変化させると、敵に向かって投げつけた。

 強化された肉体から放たれたそれは恐るべき速度を叩きだす。それを脅威と感じたドラコは炎の膜で防がんとするが、突起物は溶けてその大きさを縮小させながらも突破する。そして、鱗を貫き体に食い込んだ。


「金属性魔法は大方問題ないか。後は試し切りと洒落込むか」


 今までのモンスターでも新しく買った剣の斬れ味は試してきたのだが、あまりにも呆気なかったので比べようがないというのが現状だ。まあ、それだけ鋭いという証明に他ならないのだが、素の状態での上限を知っておきたい。その点、この敵ならば、そこそこの強度を持っていそうだし、十分試せるだろう。


「行くぞ」


 すでに炎の射程距離は見切った。後はどの程度奴が剣を使えるかだ。

 俺が手強いと断定するまでさほど時間がかからなかった。

 最初の一太刀を二つにブレた刀身で迎え撃ってきた。

 スキルだ。おそらく【二連斬】。

 高速で振るわれる剣を強化術の出力を上げて防ぐ。

 その直後を狙い突きを放とうとするも、炎が眼前に吐き出され、再度仕切り直しとなる。


「面白い」


 頬が自然と緩む。

 これなら、少しなら本気を出しても良さそうだ。

 駆ける。それは先程投擲した石以上の速度。瞬きすらも許さない素早さだ。

 しかし、敵は反応して、反撃してくる。さらに加速する。

 すると、次第に反応が遅れ始める。奇しくもそれは俺自身が反動無しで使用できる強化術の上限と一致していた。

 惜しい。あと少しで思いっ切り本気を出せるのにと思う一方で、さらに地力を上げなければいつかは対応できない敵が現れるのではないかと不安を抱かせた。


 完全には俺を捉えきれないながらも、致命傷は避け続ける。

 地面に蹴飛ばされようと、片腕を斬りおとされようと貪欲に生にしがみつく。その瞳からは戦意は失われることはない。

 だが、これ以上戦いを引き延ばすのは限界だった。すでに足の裏から激痛が発せられている。靴を脱いだらひどい事になっているのでないだろうか。

 まあ、なんにせよこれで幕引きだ。


「面白かったが、残念だ」


 俺が出せる速度の天井を突き抜ける。痛みを【即神術】で抑え込むと、異常な世界で独りスキルを使用した。


「【瞬陣】」


 このスキルを発動すると新たな世界の扉が開かれる。空気抵抗を無効化し、俺の進行方向に重力が発生する。

 音すらも置き去りにする世界に居続けるには、多大な魔力と体力を必要とし、そして、重力の増加により体中の骨が悲鳴を上げ、心臓が締め付けられる。

 だが、その世界で振るわれる一太刀は他者の追随を許さない。

 まさしく、一閃。刃が光を反射したならば、それは死の合図。


「【剣逝けんせい】」

 

 文字通りこの剣からは逃れられない、そして、掠っただけでも死に至る猛毒に比肩する高密度の闇が纏わりついている。その先は死。それ以上でもそれ以下でもない。


 俺の後ろには真っ二つに分かれたドラコの亡骸が横たわっていた。


 その傍らに腰を下ろした。身体は既に限界を超え、休息を求めていた。


「アヴェリー、俺は少し休む。しばらく頼む」


「ワカッタ。ニクハ――」


 俺は瞼を静かに閉じた。




 目を覚ますと日が傾きかけ、夜の訪れを知らせていた。

 頭の下には彼女が寝そべっており、いつ間にか枕代わりにしていたようだ。


「アヴェリー、悪いな。さて帰るか」


「ニク! ニク!」


 宿に行くことよりも肉の方が彼女にとっては重要なようだ。

 苦笑してから、依頼で狩った鹿肉の余剰分を取り出すと手ごろなサイズに切り分け、適当に火で炙った。脂が滴り落ち、辺りに良い匂いを振りまいたところで、彼女に手渡した。


 ドラコの亡骸は既にない。だが、存在したと思われる場所は一面黒く染まっていた。黒く汚染された石を掴むとボロボロと砂へと変わった。


「威力はこれ程か……それにこれだと依頼達成にはならないな。つい、やってしまったが反省だな」


 威力は高いが使いどころを選ぶ技だな。

 【瞬陣】と【剣逝】はどちらもスキルと魔法を組み合わせた、所謂、【奥義】と呼ばれる技の一種だ。依然読んだ本でそう言うものがあると触れられていたので、使ってみたが出来てしまったな。詳しく調べれば、スキルや魔法のように一般的なものも出てくるだろう。

 だが、俺が使ったものは世間一般の中に含まれるのだろうか。

 【瞬陣】は【即神術】【鬼動術】【風属性魔法】【土属性魔法】【闇属性魔法】を、【剣逝】は【一閃】【闇属性魔法】を組み合わせて出来た技だ。

 自分で言うのもなんだが、他の奴らが使えるとは思えない。特に【瞬陣】は扱う魔法が多すぎる気がする。人の目がある場所では控えた方が良いだろう。

 もっと情報を集めねばと、考えを纏めている内に彼女の食事が終わったようだ。満足げな顔で近づいて来たので、水を浴びせ口周りについていた脂を落とした。

 町に戻る頃には日が暮れていたさっさとギルドで報酬を受け取り、彼女の分のギルドカードを作ると宿へと向かった。

 これで明日以降の滞在費と食事代は稼ぐことが出来た。今日は早めに休んで、また明日ドラコを狩りに行くとしよう。

 ちなみに宿で出た食事に野菜が含まれており、彼女が嫌がったので無理やり口の中に入れたのは、些細な事だ。




 起床し、朝食の席で再び彼女の口の中に野菜を放り込むと、人の流れが少ない内に教会へと向かった。

 やはり、どの町にも教会はあるようで、そこで行われる行為もクラスチェンジと礼拝と特に変わらない。だが、祀っている神は違うようだ。

 中にいる神官も変わらない、美男美女だ。だというのにアヴェリーはそこから一歩も動かなかった。その姿は神官たちの奥にある神像に見惚れているよう。


「おい、どうした?」


 やはり、彼女は答えない。代わりに神官が口を開いた。


「極稀にこのような現象が起こるのです。これは感応現象と呼ばれ、自らを守護してくださる神様を見つけた時に起こるのです。

 その獣もまた親愛なる神様を見つけたのでしょう。

 ふむ、しかし不思議ですね。人ではないものにこのような事が起こるとは……いや、獣神様ならば、起こり得るのか?」


 彼の疑惑の目を笑って受け流す。

 やはり、彼女はただの獣ではない、人であることが証明されたと思っていい。


「自分を守護してくださる神様を見つけると何が起こるのですか?」


「特別な加護を授かり、対話をする事が出来るのです。もちろん、我々も獣御加護を授かり、啓示を受けております」


 もしかしたら、祀る神は教会によって違い、また、その場にいる神官は加護を受けた者のみで構成されると。まだ、確証は持てないが、有力な仮説として良いだろう。

 さて、この現象が起こるとしばらくはこのままの様なので、俺の用事、つまり、クラスチェンジを済ませることにする。

 今回は新たに取得ジョブを増やす事にしている。そのクラスは【黒魔導師】だ。俺はどうやら闇属性に特に向いているようなので、それに特化したクラスを取得しておきたかったのだ。

 神像は獅子の顔をした屈強な男だった。名はビーティリオンと彫られている。今から、彼女がどんな加護を受け取るのか楽しみだ。

 いつも通りのクラスチェンジの空間。予定通り【黒魔導師】を選択するがその横に表示される適正値を見て、一瞬指が止まる。

 適正値S。今までに見た事との無い数値だ。これは予想以上に闇属性の素質を持っているのかもしれない。まあ、才能はあって悪い事じゃない。ただうまく隠せるか、そして、如何に発揮するかだ。

 

 外に出るとようやく彼女が立ち直ったようだ。

 彼女が外に出てくるまで魔力を循環させつつ、身体強化術を使って活性化させるという暇つぶしを行った。

 そして、時間が経過し、彼女が顔を出した。そして、カードを確認すると面白い物が映っていた。まだまだこの世界には面白い物がたくさんあるようだ。

 神谷空 20歳 男

 クラス:剣豪A 魔導師B 拳士A 戦士B 黒魔導師S

 スキル:【身体強化術/神/治/力/速/硬】【見切り】【瞬陣】【三連斬】【十字斬り】【一閃】【飛斬】【剣逝】【初級魔法/火/風/水/土/金/雷】【中級魔法/闇】【無詠唱発動可/闇】【耐性/火/風】【魔力増加】【魔力探知】【衝波】【震脚】【手刀】【重撃】【鉄拳】【挑発】【威圧】【水の呼吸】【成長促進】

 依頼履歴:成功『B,1』『C,8』『D,12』『E,16』『F,18』『G,15』失敗


 アヴェリー 25歳 女

 クラス:獣戦士B

 スキル:【身体強化術/神/治/力/速/硬】【咆哮】【突進】【連爪れんそう】【赤鎧】【耐性/火/水】【獣神の加護】

 依頼履歴:成功 失敗


【瞬陣】魔力と体力を消費し、身体能力を強化。また、空気抵抗の無効化、そして、指定した対象付近に重力を発生させる。


【剣逝】魔力と体力を消費し、行為者が持つ刀剣類に闇属性を付与し、身体能力の強化を行う。


【咆哮】体力を少量消費し、吼える。周囲にいる者の注意を引き付けたり、硬直させたりする。しかし、行為者よりも上位の存在には効果が無い。


【連爪】体力を消費し、高速で爪での連撃を行う。その攻撃回数は行為者の能力に比例する。


【赤鎧】行為者から流血すると、その血を用いて、硬化させ防御力を上げる。硬化は出血量に比例する。


【水属性耐性】水属性の攻撃の威力を軽減する。


【獣神の加護】熟練度の上昇速度の増加する。また、所有者は病気や毒に対してある程度の耐性を持つようになる。さらに、常時防御力を上げる。

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