10話~値切り・港町シャ・ヴァーグ~
約1年ぶりの更新だなぁ、お待たせしてしまい誠に申し訳ありませんでした。
最終話まで毎日複数回投稿いたします。
前回までのあらすじ
◆ ◆ ◆
空は最初の村シャ・フルールで確かな絆の繋がりを感じた。しかし、予期せぬ騒動に巻き込まれたため、これ以上自分への被害が大きくなる前に誰にも告げずに旅立った。
そして、シャ・ヴァレーで初めての指名依頼を受ける。それはシャ・ブラン近くに根城を持つ盗賊団【北の斧】の討伐。
空は実力を頼りに壊滅させることに成功する。しかし、それは彼に大きな負担を強いる事になるのであった。
盗賊団に番犬代わりの奴隷となっていた赤い豹の獣人アヴェリーを共に一行は新たな知識と力を求め、港町へと向かうのであった。
盗賊団【北の斧】や森亀を倒し、短くも濃い日常を乗り越えた先に待っていたのは港町シャ・ヴァーグ。
ここでは武器の調達と情報収集、それとクラスアップなんかも出来ればしておきたい。
もうあと少しで街道に合流するという所で、赤い体毛に覆われた豹の姿をした女性アヴェリーに声をかけた。
「アンタはここら辺で待っていてくれ。肉はこの通り置いて行く。
やはり、アンタを連れて町の中に入るのは危険だからな。
心配しなくても良い。留守番がこれで最後になるよう努めよう」
優しく撫でると、隠れているように指示を出す。後はアヴェリー次第だが、賢い彼女の事だ上手くやるだろう。
とはいえ、あまり一人にしておくのも不安がある。早々に用件を済ませて合流する必要があるか。
シャ・ヴァーグという町は海に面した活気に溢れた町である。
豊かな水産資源に裏打ちされた発展と、港を利用して商売の中間地点、宿場町としても発展している。それゆえに人が集まり、当然、物も集まる。
おそらく、俺に見合った武器も手に入れることが出来るだろう。
不本意ながら、現時点で戦闘で満足に使えるのは盗賊から奪い取った魔斧【血染めの月】のみ。
次に今抱えている大きな問題。アヴェリーの扱いについてだ。
例えば、元の世界で言えば、大型の肉食獣を動物園などの施設が買う場合、都道府県知事又は政令市の長の許可が必要となる。
ファンタジーの世界でよくあるのが、テイマーのような職業だ。これにはモンスターを手元に置き続けるには一定の認可が必要だろう。
このようにどちらの場合でもアヴェリーと一緒に行動するためには何らかの許可が必要なことが予想される。
この町でその許可が受けれるならばそれでいいが、そうでなければそれが可能な場所の情報も手に入れなければならない。
やるべき事はたくさんある。さっさと中に入ってしまおう。
案の定というか、予想通りというか、町の中は多くの人で混み合っていた。もちろん、この世界での基準で言えばだ。よく見れば見える人の切れ目切れ目を辿って町中を散策した。
まずはギルドに立ち寄った。
やはり、外の人の多さに比例してギルドの中にいる傭兵たちの数も多い。 壁に貼り出される依頼は討伐、採集もそこそこに雑用依頼の中の花形、護衛任務が多くあった。
なるほど、先ほどからチラチラと見かける、戦士然としていない者たちは優秀な護衛をスカウトしに来た商人たちのようだ。
俺はそれらを全て無視して、カウンターへと向かう。
愛想の良い笑みを浮かべる受付嬢には飛び切りの笑顔を、絡んでくる野蛮な男には鉄拳を、のスタイルを保ち無事に換金に成功する。懐具合はかなり温まった。なぜか、商人のような者たちに寄ってこられたが丁重に断りを告げるとギルドを後にした。
その後も町を軽く見回ったが図書館のような施設はないようだ。あれば人に頼らずとも情報を仕入れることが出来たのだが仕方ない。諦めて誰かに尋ねる事にしよう。
幸い、ここは露店が立ち並ぶ通りのようだ、特に探さずとも人がいる。
それに何か掘り出し物もあるかもしれない。
ここで商売をしている人の多くは笑顔を浮かべて、忙しくも充実した生活に満足しているようだ。
そこで見つけたのは業物と思われる一本の刀。値段は……財布の中身全て出しても足りない。残念だが、諦めよう。
刀を扱う店主は人の良さそうな笑みを浮かべている。何かの縁だ、こいつに聞く事にするか。
「見事な刀ですね」
「いやぁ、分かりますか。お目が高い。
おや、お客さん、もしかして和国の人かい?
分かるよ、ここまで来るの大変だっただろう」
ふむ、どうやらこの刀は和国に行って直接買い付けてきたようだな。ならば、まさか、一本だけというはずはない。まあ、輸送コストを考えれば、他の物があるからと言って、気軽に手が出せるような金額ではないだろうな。
しかし、これは当たりだな。見識も、経験も豊富と見える。適度に会話をして情報を引き出すのと出来れば手ごろな値段で買える丈夫な剣か、刀が欲しい。
「そうですね。
しかし、本当に見事な刀だ。これだけの品を揃えられる貴方ならば、これ一振りという事はないのでしょう?
この財布の中にあるのが、全財産なわけですがこれで手に入りそうな剣か、刀はありませんか?」
じゃらじゃらと音を立てながら、財布の中身を男に見せる。少し武器調達の方に目的がシフトしてしまったが、誤差の範囲だろう。
「ふむ、大体50アルと言ったところですかね。
かしこまりました、刀剣類ですね。他に何かご希望は?」
「とにかく丈夫でよく斬れる物をお願いします」
俺の希望を後ろにいた少年に声を掛け、走らせる。別の場所に物を保管にしてあるのか。少しは長持ちする物があればいいが。
「そう言えば、貴方は和国に行ったんですよね? あちらの様子はどうでした?」
「それなら、お客さんの方が詳しいだろうに」
当然の疑問だ。だが、それは予測済み。
「私は長いこと故郷には帰っていないもので」
「そう言う事かい。いいよ、内の商品を買ってくれるんだ。少し話そうかね。と言っても何から話そうか」
腕を組みどの話題から話そうかと思案している男に助言という名の、誘導をする。
「町の様子とか、後、変わった事とかがあれば」
「そうだね。
和国の街並みは見事なもんだね。なんて言うんだろうね。幻想的というか、木造建築という旧時代的な建物で構成されていながらも新しい。
あ、いやこれは失敬。馬鹿にしているつもりはないんだよ。なんだろうねぇ。古き良き町並みっていうのかね」
気にしていませんよと微笑み、先を促した。
「あの国独特の文化なんだろうねぇ。見た事もない物が置いてあるし、民たちも変わった服装をしていたなぁ。あ、そうそう着物っていうんだっけ。
見事な織物だったよ。思わず買い占めてきちまったしね。
印象的だったのは縄で円状に囲まれた厳かな雰囲気漂う小さな丘と、赤く塗られた木が組み合った四角の囲いが長い階段の脇を固めるようにいくつも建ってて、その先には何かの宗教的な建物があったねぇ」
ここまでの情報を纏めると、和国というのはあちらの世界と大分似通った点があるようだ。推測するに土俵に、鳥居、宗教的な建物ってのはおそらく神社。京都とか奈良のように歴史的建造物や街並みが色濃く残る町、ないし国と判断して良さそうだ。それに町人の衣服が着物となると、一昔前の生活をしている可能性が高いと考えるべきだな。
そのあたりに話題を絞れば今後和国という国について深く突っ込まれても窮する事はないだろう。
そんな話をしていると布に包まれた細長い物を持って先ほどの少年が戻ってきた。まだまだ聞きたいことはあるが、この辺で止めておくのが吉だな。
「さて、お客さんその金額で私共がご用意できるのはこの五本。
ささ、実際にお手に取って、ご覧になってくださいよ」
男に勧められるがままに、近くにある包みから開ける事にした。
まず、一本目は赤い布に包まれたショートソードだ。形状は一般的なものとなんら変わらないが、火属性の魔法が込められているのを感じる。魔法剣というやつだ。
次に青い布に包まれたダガー、これもまた水属性の魔法がかけられた魔法剣。
残りは緑、黄、また赤か。おそらく、色に即した魔法が込められた剣だと考えて良さそうだ。中身は順番にロングソード、クレイモア、バスターソード。
予想に反して最後のバスターソードだけは色に対応するものではない。だが、魔力を感じ取れる事から、俺の知らない属性魔法が込められているようだ。
「このバスターソードは何の属性の魔法が込められているのですか?」
「ああ、それかい。それは金属性だよ。ほら、その布に金色の糸で一本の細い線を縫ってあるだろう」
全体的に赤い生地を使ってあるため、気付かなかったちゃんと対応した色を使っているようだ。
それにしても金属性か、確か金属に関する事象を起こす魔法だったな。一般的に鍛冶師とかが武器などを作るときに使うらしい。
そうなると予測される効力は。
「では、この剣は自動修復とまではいかずとも、硬さや形状、腐食などを防ぐ機能が備わっているとみてもよろしいですか?」
「おお、詳しいねえ。その通りだよ。この剣なら耐久度も上げてあるし、斬れ味もこの中で随一。お客さんの希望に沿えるかもしれないね」
買うかい? と視線で聞いてくる男の前にはその剣の値札が掲げられている。手が出せないわけではないが、もう一押し欲しい所だ。
悩んでいると、男が耳寄りな情報を漏らした。
「もし、お客さんが魔力を持ってればもっといい機能が使えるんだけどねぇ」
ん、それはつまり……考えてみればあの斧だって俺の魔力を喰らって威力を上げることが出来る。魔法剣ならば、同じようなことが出来るという事か。
「それ、詳しくお聞かせ願えますか?」
「おや、という事は魔力を持っているのかい。羨ましいねぇ。
もっとも、ただ魔力を持ってるだけじゃだめだ。金属性の魔法が使えなければならないんだけどね。
それさえ使えれば、自動的に細かい傷を直したり斬れ味を上げたりなんかも出来るね」
ふむ、やはり元々持っている能力を強めることが出来るのか。まあ、予想通りといえば、その通りだが、それだと力を込め過ぎると問題を起こしそうだ。それに俺が金属性魔法を扱えないのが痛いな。この魔法剣に込められている魔法をもとに調べてみるしかないな。どうにかなるだろう。
「では、この剣を買います。
しかし、先ほど見せた通り金額がギリギリなので……」
申し訳なさそうな顔をしてみせると、男は笑い声を上げた。
「ハハハッ! そうだね、お客さんの名前を聞かせてくれれば、ちょっとだけ値下げしようかな」
名前?まあ、それで安くなるのならいいか。
「神谷空です」
「私はトマだ。今後ともよろしく頼むよ。
じゃあ、約束通り45アルでいいよ」
ふむ、4アル59キュイの値引きか。
まあ、いいかな。
「じゃあ、これとこれも買います」
俺は首輪と調味料を指差した。これで財布の中は空だ。
「おいおい、せっかく安くしたのにすっからからんにしていいのかい?
それにこの首輪は従魔用のモンスターにつけるものだよ?」
「まあ、首輪は必要になるので、それにほら」
一つだけ種明かし。俺が開いた手の中には銀貨が一枚あった。
「おや、これは一本取られたか」
自分が騙されたことも気に留めず笑っている。こうなると踏んだから種明かしをしたわけだが、上手くいって良かった。
「あと、この首輪を付ければ町中にも入ることが出来ますかね?」
「ああ、そうだよ。
ま、神谷さんまたご縁がありましたら、よろしく頼みます。私共はソレイユ商会です。どうぞよしなに」
残り所持金が1アルになったところで、店を出た。
隷属の首輪と札が掲げられていたから、買ったがこれで目的は達成したな。
後はもう少しだけ情報収集して、合流するとしよう。
次話は本日の21:00投稿予定です。
よろしければそちらもどうぞ。