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8話~旅は道連れ~

今回は短いです

「眩しい。それに騒がしいな」


 朝日で目が覚めた。周りは楽しそうな鼻歌や笑い声に包まれていた。

 

 頭が痛い……寝る前に何をしていたんだったかな?

 暗闇、噴水のように噴き出す赤い液体、悲鳴、怨嗟の声、手に残る砕き、斬った感触。

 思い出すと傍らに置いてあった剣を片手に立ち上がり、辺りを見回し警戒する。


 よし、あの猿どもはいないな。


 そこで気付く、周りにいた女性たちがこちらを見て怯えているのを。失念していた。こいつらは今まで猿に捕まっていて怖い思いをしてきたんだったな。

 とりあえず、近くで泣いている女の子に話しかけた。


「怖がらせて、すまない。俺は君たちを傷つけるつもりはないんだ。許してくれるかな?」


 出来るだけ優しく、そして笑顔を浮かべて手を差し伸べる。

 すると、少女は手を取ってくれた。


「グスッ……ううん、大丈夫だよ。助けてくれてありがとう、お兄ちゃん!」


 涙を拭きながら健気にも笑顔で答える。それは被害者の立場であるにもかかわらず、浮かない表情をしていた俺を心配してくれているようだった。


「強い子だ……」


 幸い小さな呟きが少女には届かなかったようだ。不思議な顔をしている少女の頭を撫でるとはにかんだ。

 そんなやり取りに安心感を覚えた女性たちは少しずつ俺に礼を述べていく。生傷が目立つ者や痣が出来ている者も多い。


 助けが間に合わなかった者もいるだろうに……


 女性たちから顔を逸らすと、この集落を見回る事にした。

 もし、生き残りがいたら大変だからな。


「いないな」


 生き残りはいなかったが、猿どもがため込んでいたであろう盗品が大量に積まれている倉庫を見つけた。


「どうするかな?」


 依頼は盗賊の殲滅、人質の救出で盗品については特に記されていなかった。そして、傭兵の基本的なルールの中に盗品の類は自分で盗賊を倒した場合に限り、臨時収入とすることが出来ると記載されていた。つまりはここで手に入れた物は全て俺が好きにできるという事だ。

 とりあえず、汚れてしまった服の代えと武器を手に入れる。後の金銀財宝は……俺の手に余るものだ。人間分相応なものを身に付けた方が良い。捨てるのは勿体ないな。彼女たちを送り届けるついでにくれてやるか。






 その夜、50人以上の大所帯を連れて野宿をしていた。

 周りでは甲斐甲斐しく女性たちが動き回っている。食事に寝床、洗濯というように身の回りの事を全てやろうとする。

 食事はありがたく頂くがそれ以外の事は特に必要ない。この世界には便利な魔法がある。それで大抵の事を済ませてしまえるからだ。だが、申し出を断った時に不満そうな表情を、果ては泣きそうな者までいたのには驚いた。

 途中で置いていくような事はしないから、安心して欲しい。


 彼女たちと過ごしてみて分かったのは魔法を使える者が少ないという事だ。また、彼女たちの使うスキルは戦闘に向いたものではなく家事や内職作業に向いたものばかりだった。

 ここでスキルやクラスには大きく2つに分けられる事を思い出した。

 それは戦闘系スキルやクラスと生活系スキルやクラスの2つだ。

 俺が今就いているクラスや所持しているスキルは戦闘系のものばかりだが、彼女たちの多くが持つのが生活系のもので例を挙げると、【料理人】【商人】【薬屋】【詩人】etc……【高速調理】【交渉術】【鑑定】【癒しの音】etc……といった具合だ。

 そのため、賑やかな事この上ないが、悪くない気分だった。


 目が覚めると再び歩き出す。時間をかけて無理のないように歩く。時折出てくるモンスターは斬り捨てた。


 彼女たちには証人としてギルドまで付いて来てもらう。早く家に帰りたいだろうが、ここまでくれば後少しだ、我慢してほしい。

 ギルドの中は相変わらず沈んだ雰囲気に包まれている。

 その中でもさらに沈んでいる受付の女性に声をかけた。


「……あ! 生きてたんですね! すみません、失礼な事を言ってしまって……」


 頭を下げて落ち込む彼女を無視して話を進める。


「これが盗賊どものカードだ。報酬はないのだろう? 証明書だけ発行してくれ」


「はい! 今すぐ確認いたします!」


 彼女は身体を跳ね上げると先ほどの浮かない表情が嘘のような笑顔でカードを受け取り、奥へと駆けて行った。

 一連のやり取りを見ていたのであろう傭兵たちがこぞって俺の元へとやってきてた。


「あんた、あの【北の斧】を倒したってホントなのか?」


 丁寧に答えてやってもいいのだが、おっさんに期待に満ちた目を向けられて元気の出る男はいない。正直に言ってしまえば、相手をするのが面倒だ。


 ぶっきらぼうに「ああ、そうだ」と達成したことを告げると歓声が沸き上がった。

 「やったぜ!」、とか「死んだのかよ、ざまぁねえ」、とか「良かった、これで助かった……」、とか好き勝手言い合っている。

 全く、


「うるさい」


 少々手荒だが新たに手に入れたスキル【威圧】を用いて黙らせる。戻ってきた女性から依頼達成の証明書を受け取る。

 報酬を支払えないほど困窮しているギルドにこれ以上用はない。

 彼女がやけに静かなギルド内に首を傾げているが、理由は後でこいつらにでも聞いてほしい。最後に被害者の女性たちにちゃんと保護するように言い、猿たちが持っていた金を渡すと黙って立ち去った。悪銭身につかずだ。それにあいつらが持っていた金なんざ、これ以上もっていたくない。


 街の外へと向かいながら今後の事を考える。

 

「次は港町を目指すか。そこなら色々と情報が集まるだろう。俺はこの世界の事を知らな過ぎるな」


 そう呟くと門の外、木陰にいる者に声をかけた。


「さて、アンタはどうする?」


 のそりのそりと出てくるのは燃えるような体を持つ豹の顔をした女性。

 昨晩は見張りに徹して、女性たちに決して近づかず、町にも入らずにじっとここで待っていた。

 彼女が何をしていたかは理解していた。だからこそ思うのは本当に賢い女性だということだ。

 他の女性たちに近づいたり、町の中に入ったりしたならば、徒に人々の恐怖心を煽り、自分にも危険が迫っていただろう。自分のなすべき事だけを淡々とこなす姿に好感を持てた。

 そして、なにより不必要に喋らないというのは煩くなくていい。もし、付いて来るというのならば、連れて行ってやろう。


「アルジ、アナタハ、ワガアルジ。ニクタベレル。チガウ?」


 フッと笑みが漏れる。

 肉が食えるから付いて来るか……


「いいぞ、好きなだけ食わしてやる。だが、俺を主と仰ぐならば俺の命令は絶対だ。いいな?」


 彼女は首を傾げて答えた。


「メイレイ。キケバ、ニククエルカ? アルジニツイテイク」


 彼女に目線を合わせて撫でながら、収納袋からモンスターの肉を取り出した。


「なら、付いて来い。だが、その前に聞きたいことがある。アンタの名前は何だ?」


「ナマエ? アヴェリー、ワガナハアヴェリー!」


 アヴェリーは肉を頬張りながら元気よく答えた。

 無邪気だな。だが、これも俺が助けた命だ。俺が取るべき責任だろうな。こんな俺を主と仰いでいるんだ。こいつにどんな利点があるかは分からないが応えられることには応えてやろうじゃないか。


 最後の一切れを飲み込むのを見ると、立ち上がった。


「さあ、出発だ。死ぬ気で付いて来い! アンタが付いてこようとし続ける限り俺は絶対に見捨てない」


 一言だけ宣言すると走り出す。時間は有限だ。



 神谷空 20歳 男

 クラス:剣豪A 魔導師B 拳士A 戦士B

 スキル:【身体強化術/神/治/力/速/硬】【見切り】【三連斬】【十字斬り】【一閃】【飛斬】【初級魔法/火/風/水/土/雷】【中級魔法/闇】【無詠唱発動可/闇】【耐性/火/風】【魔力増加】【魔力探知】【衝波】【震脚】【手刀】【重撃】【鉄拳】【挑発】【威圧】【水の呼吸】【成長促進】

 依頼履歴:成功『B,1』『C,4』『D,7』『E,12』『F,15』『G,13』失敗


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