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2話~到着シャ・ヴァレー~

 盗賊たちを倒した後、穴を掘るのに使った魔力を回復するために休憩を取った。

 自分の名前にもなっている空を見上げ、目を閉じ一息つくと両膝に手を当てて立ち上がった。

 最後に両手を大きく広げ、身体が反り返るほどに伸びをして休憩を終える。

 適度な休息は頭の中をクリアにし、次の町で何をなすべきなのか、新たに手いれた道具の確認も出来た。

 まずは武器。

 刃渡り30~50のナイフ五本。以前購入した六本のナイフの斬れ味が落ちてきた所だったし、ちょうど良い。

 両腕に着ける赤い籠手を一組。鉄の籠手に赤く色を付けた物だ。これで防御力が上がりそうである。

 山賊の頭領らしき人物が持っていた赤い両刃式の斧。これは刃の部分がルビーのような宝石で作られているのではないかと思えるくらい透き通っていて綺麗だ。刃から熱を発し、魔力を感じ取れる事から、後の戦闘で試してみても良いかもしれない。

 後は貴金属とその他もろもろなのだが、あまり目ぼしい収穫は無かった。

 金は元々24アル21キュイ所持していたが、盗賊たちの所持金を足して31アル21キュイになった。つまり、一人1アルずつしか持っていなかった事になる。

 ここで注目すべきは額が少ないという事よりも、綺麗に揃えられている事だろう。

 

 それはなぜか?


 拠点が近くにあり、強奪行為が成功した度に毎回そこに置きに行っているのではないかと考えている。

 ここから考えられるのは赤い斧を持っていた男は頭領ではなく、下っ端だったという事と、このように返り討ちになる可能性もあるというリスク管理を出来る者がいるという事だ。


 さて、日が暮れないうちに次の町に着きたい。

 南西の方向に何キロか移動すると花風村よりも二回りほど大きな町が見えてきた。持続可能な速度で走ったとはいえ、だいぶ日も暮れてきたため、真っ先に宿を探すことにしよう。


 この町の名はシャ・ヴァレー。

 おそらく魔法で作られたであろう土の壁が周りに……というよりもある一定の方角に重点的に張り巡らされており、その壁の上を鎧を着た男たちが巡回しているのを見ることが出来る。それに加え高い物見櫓が等間隔に十本建てられており、シャ・フルールよりは賑わっているが、まだまだ辺境の場所であるこの町には十分すぎるほどの防備で固められているように思えた。

 だが、これで俺の推測は当たっていることが分かった。


 これは稼げそうだ。


 ニヤッと口元を吊り上げると、町の中に入って行った。


 この町での建物は木造のものよりも、レンガで造られているものが多い。そのため、シャ・フルールよりも無機質で硬いイメージを受けた。だが、道行く人の多くは笑顔で晴れやかだ。

 北門から700m程道なりに進んだところに中心部らしきものが見えるのだが、大きな噴水がある。それを中心にY字に広がっているように見える。町の形もそれに合わせて楕円形に色がっているようだ。もっとも、パッと見た推測なので正しいかどうかは分からないが。

 様々な店の看板を見ながら、進んでいる目当ての看板を見つけた。

 宿『ナフィルド』だ。言葉の響きがナフィーと似ていて、外観も全体的にこげ茶色で落ち着いた雰囲気である、


「すみません」


 カウンターの茶髪の女性は清潔感のある白いワイシャツとスカートを着ている。年のころは20代半ばといったところか。もちろん頭頂部には猫耳、お尻からは尻尾が生えている。


「いらしゃいませ。お客様とお会いできるのを楽しみにしておりました」


 そう言って女性は完璧な笑みとお辞儀を披露してみせた。

 こちらも対人用に演技せずに、素の状態であったならば、呆気にとられかねないほどの非の打ちどころがない対応だった。

 これこそがプロの技だ。だが、俺も息を吸うように演技が出来るほど、長いことやってきたのだ、少し対抗心が芽生える。


「今からでも宿泊は可能ですか?」


 そう言ってほほ笑みながら「御一緒にどうですか?」と手を握ったら、どのような反応を示すのだろうかと想像したが、一般的に考えて公序良俗に反すると思いとどまった。


「可能でございます。お客様はおひとりですか?」

「ええ、一人ですよ。一人だと泊まることは出来ませんか?」

「そのような事はございません。では、料金の方を説明させていただきます」


 黙って頷いて先を促した。


「まず、当施設には二つのプランがございます。一部屋貸切コースか、大部屋コースです。どちらを選ばれますか? もちろん、どちらのコースも空きがございます」


 質問をしようとした事も先読みして、答えられてしまった。出来るな。


「一部屋貸切コースでお願いします」

「かしこまりました」


 そう言って優雅にお辞儀をした。

 こちらの世界での演技の参考になりそうだ。


「一泊三食付で1アル50キュイでございます。朝食のみの場合は1アル40キュイ。食事なしの宿泊のみの場合は1アル30キュイでございます」


 シャ・フルール村の村長宅よりは安いが、食事を無しにしてもあまり値段は変わらないか。

 それに新しい町に来たのだ宿の食事ではなく、町の食事処で食べたい。


「宿泊のみでお願いします」


 そう言って代金を渡し、用紙に記入して、部屋の鍵を受け取った。

 とはいえ、すぐに部屋に行くつもりはない。

 先に傭兵ギルドと商人ギルド、そして夕食を食べてからだ。可能であれば武器屋やクラスアップもしたい。

 いや、順序としては先に自分自身の強化を図った方がいいか?

 何かが起こった時に頼れるのは自分だし、そうするか。


 宿を出る前に女性に神殿の場所と武器を揃えられるところを聞きだすと、礼を言って外に出た。


 教えてもらった道を進んでいると厳かな雰囲気の建物が現れた。

 天使のように背中に羽が生えた少年と少女の像が両脇にある道を進むと、2対、計4枚の羽をもった男性とも女性とも見える中性的な像の前に辿り着いた。

 どこの神殿でもクラスチェンジ時は同じように膝をつき祈るような体勢を取ればいいのだという。


 次第にまばゆい光に包まれていった。

 前と同じ感覚だ。


 同様に浮かび上がる文字。

 今回は新しく文字から線が伸びており、【剣士】から【双剣士】、【剣豪】、【大剣士】につながり、【魔法使い】から【魔導師】、【赤魔法使い】、【青魔法使い】、【黄魔法使い】etc……だ。

 【剣士】からの派生は分かり易いのだが、【魔法使い】の方は詳細が必要だ。

 じっと見ると、色の対応した属性に特化した魔法職に成れるという事らしい。

 クラスアップは初級職や一つ下の等級のクラスの熟練度を上げる事で何度でもすることが可能である。いくつかのクラスの熟練度を求める場合もあるらしいが、それさえ満たしていれば、現状の様にいくつもクラスを取得する事が出来る。

 つまり、今出ているすべての中級職をすべて取得する事が可能なのだが、そうすると熟練度を上げる効率が悪くなってしまう。

 しかし、取得したクラスは破棄することが出来るので、あまり気にする必要はないのだが、一々神殿に来なければならなくなるので手間がかかる。それに今回は強くお布施を迫られた。つまり、金がかかる。額が微々たるものでもかかったのだ。

 場所によってはそういうものが必要となってくるのか。


 さて、以上の事を踏まえて決めたクラスはこの4つだ。

 中級職【剣豪】と【魔導師】に新たに初級職の【戦士】と【拳士】二つを加えた。

 これは武器が無く、魔力が切れた時に戦えるように取得しておいた。スキル【成長促進】がある以上4つ位ならば大丈夫だろう。

 祈りを止めると光が消え、元の像の前に戻ってきていた。


 これでクラスアップを果たしたわけだが、盗賊を殺しても熟練度の上昇が確認出来るので、奴らが俺の一部となっていることに関して、少しモヤモヤする。何だろう? 胸糞悪いとでも言えばいいのだろうか? 引っ掻きだして、その部分だけ捨てたい気分だ。だが、そのような事は出来ない。


 ため息をつき、踵を返して、神殿を後にした。


 次の目的地は武器屋だったのだが、生憎もう閉まっていて利用することが出来なかった。


 仕方ないので予定通り傭兵ギルドに向かう。外観は街並みに合わせてレンガで造られ、何かのモンスターの頭部の骨が看板代わりに掲げられていた。入ってみるとこの町のギルドもいくつかのギルドが混合され、多目的利用が可能なようだ。

 まずは商人ギルドに行き、奪い取った貴金属を売り払う。全部で13アルとそこそこの額になった。

 次に傭兵ギルド。そして、俺が手に入れた目玉商品を受け付けの屈強そうな男性に見せた。


「このギルドカードを確認していただけますか?」

「分かりました。ん? この数は……もしかして」


 見た目に似合わない、丁寧な対応だったが、何やら考え込み始めた。何かあったのだろうか?


「お客様、少々こちらへ付いて来ていただけますか?」


 数秒後に真剣な眼差しでこちらを見た男は自分の後ろに付いて来るように言った。

 そして通されたのは四方を壁に囲まれ、区と塗りの立派な机とソファーのある応接室だった。壁には剣と盾、そして、男女12人の肖像画が飾られていた。

 男は俺に座るように促し、ギルドカードの提出を求めた。

 何か事件を引き起こしてしまったことは間違いない。大体の見当はついているのだが、これで俺の予想を超えるようであれば、ミイラ取りがミイラになったと同じ状況になりかねない。

 しかし、この場合ギルドカードを渡しても問題はないはずだ。いや、この作業は必要になる。

 そう思い手渡した。

 男は去り際にお茶を出していったが、一口も飲まずにその作業が終わるのを待った。


「大丈夫なはずだ。それにダメだった時はその時だ。実力行使に移ればいい。それでもダメなら、そこまでの存在だっというだけだ。さて、吉と出るか凶と出るか……?」


 一人ソファーで足を組み、魔法で水分を補給しながら、じっと事態を静観した。



 

 


 

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