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願いの扉~another sky~  作者: こう茶
最初の村~シャ・フルール~
12/30

11話~怒髪天~

連日投稿するつもりでしたが、予約の日付を間違えて今日に……。

何はともあれ、今回でキズナノ章が終了して次回からは新章に。

楽しんでいただけると幸いです!

 白髪の少女ミアが最後に案内をした宿屋は村一番の広さを誇る村長の自宅だった。


「ここに泊まれるんですか?」

「ええ、母屋は流石に無理ですが、離れならば宿泊可能ですよ。ただ、その分料金は高いですし、村長がちょっと変わった方でしてあまり泊まりたがる人はいませんが……」


 村長が変人というわけか。長がそんなんでこの村は大丈夫なのだろうか?


「もちろん、一人で静かに寝れますよね?」

「おそらく」


 他の宿屋は大人数部屋しかなかった事を考えると、静かな寝床を確保できるのはありがたい。

 どの程度変わってるかにもよるが一人や二人ならばどうとでもあしらう事が出来る。


「ここに決めました。今日はありがとうございました。もう大丈夫ですよ」

「え。あ、はい」


 彼女は名残惜しそうに俺の手を見つめながら、自分の手を放した。

 ここまで彼女の手に引かれて、やって来たが、それはもう必要ない。


「あと途中怖がらせてごめんね。今度何か埋め合わせをするから、許してくれるかな?」

「そんなの全然かまわないんですけど……でも、ありがたく受け取っておきます! 楽しみに待ってます!」


 そう言うと笑顔で来た道を引き返していった。


「さて、行くか」

 

 覚悟を決める様に息を吐くと、目の前に続いている石畳を上がった。

 その上にはどこかの旅館の様に玄関が開かれていた。

 大きな岩が横に広がり、一段上がれるようになっている。

 そこを上がると綺麗な木目の床。そして、入ってすぐの受付は漆で塗られ、光沢を放つ厚みのある木板をカウンターに、同じように加工された輪切りにされた胴回りが太い丸太をイスとして配置されている。

 これだけ見れば高級旅館と見えなくもない。


 チリン、チリンとカウンター置かれた鈴を鳴らす。

 すると、奥のドアが開き灰色のスーツを着た男が出てきた。


「私、この家の執事長を務めておりますマチアスと申します。何か御用ですかな?」


 優しげな瞳をした60代後半位の男はそう訪ねてきた。


「夜分遅くに失礼たします。ここに宿泊が出来ると聞いて参りました。突然で申し訳ありませんが泊めていただけるとありがたいです」


 こちらも出来るだけ丁寧に答えて、頭を下げる。


「ほほう。丁寧なご挨拶ありがとうございます。承りました。では料金プランを説明いたします」

「よろしくお願いします」


 そう言うと人名はテーブルの下に置いてあった紙とペンを取り出して、説明をし始めた。


「料金プランは3つあります。まず――」


 彼は紙に異なる値段を大きく書いた。


 上から順に1アル、1アル50キュイ、1アル75キュイだ。


 まず、一つ目が宿泊だけのコース。

 二つ目が朝食付きのコース。

 三つ目が三食付のコース。

 どれも一泊の値段だが、他の宿屋の値段が75キュイ~1アルだった事を考えると、確かに高い。

 そして、最後に氏名、職業を書くように示されたので、ペンを受け取り記しておく。


「では、一番安い宿泊だけのコースでお願いします」

「畏まりました。では、これが離れの鍵になります。

 階段を下りて右回りに裏に回って頂くと、木造の離れがございますので、そちらをお使いください。

 また、何か御用でしたら部屋に取り付けの鈴を鳴らしてお呼びください。

 最後にお風呂は室内にございますのでご自由にお使いください。タオルも同様にお使いください」

「分かりました。ありがとうございます」


 収納袋から金を取り出すと、鍵を受け取り、離れに向かった。


 歩いて1分という所に離れは建てられていた。

 外見は普通の木造の一軒家だ。驚く事に二階建てだ。これを一人で利用出来るというのはいささか広すぎる気がしないでもないが、おかげで静かに眠ることが出来そうだ。

 変わり者の村長にも会う事はなかった。運が良かったのだろう。


 ガチャガチャと音を立ててドアに付けられていた南京錠を外した。


「やはり、広いな」


 予想通り一人で寝泊まりするには十分過ぎるほどの広さだ。

 それともこちらの世界での宿泊施設や住宅も金をかければこのくらいの建物は建てる事が出来るのかもしれない。

 いつまでも日本の常識を引きずっていても仕方ないか。早いとこ慣れるほかない。


「キッチンにトイレ、風呂……これは電球の代わりになるのか?」


 一つずつ目についたものから確認していく。

 やはり、日本、元の世界のものとは異なるものが多い。


 キッチン下には棚が付けられており、中には大小様々の形状の6種類の包丁と分厚いまな板が入っていた。トイレは洋式の物である。座る部分は木で水が通る部分は石の様に見える。目立つのはこの両脇にある肘かけと背もたれが取り付けられている所だ。背もたれの根元の方に小さな穴が空いているこれは彼ら、猫人族に合わせたもだろう。用を足す時にここに尻尾を通して行うのだと考えられる。この事に気づいてから置いてあるイスを見てみると、同じく小さな穴が空けられていた。模様ではなく人種に合わせてあるのだろう。

 引き続き室内を物色しているとよく見かける物がある。それは壁や天井に付けられた丸く磨かれた白い石の様なものだ。この数と配置、灯りでもつきそうだ。

 触れてみる。表面はつるつるに磨かれ、ひんやりしている。

 指先で叩いてみる。固いが金属ではなく、石の様だ。


「ん?」


 叩いた石が暫くすると薄らと柔らかな白い光を放ち始めた。

 これがどの位ついているのか分からないが、どうやら衝撃を加えられると灯りがつく仕組みになっているようだ。

 なぜ、こうなるかは分からない。だが、この石からは魔力の様なものを感じる。

 ぼんやりとしているくせに、目を閉じて集中すれば鮮やかな色を放つ光。この感覚は魔力に違いない。

 この石の魔力の色は白で、俺の魔力は黒。目立たずひっそりとしているので、これから長く付き合っていく事になるであろう色が落ち着いている色で良かったと思う。

 そして、目の前にある浴槽からは青と赤の色を感じる。

 形状は長方形で見慣れているが、排水溝があるだけで蛇口が見当たらない。代わりに底は不思議な模様が彫られている。

 これも先程の光を放つ石と同じように触れたり、叩いてみたりをすると何か起こるのだろうか。

 指先で叩く。何も起こらない。

 手の平をつけてみる。すると、青、次に赤と輝きそこからお湯が湧き出てきた。


「なるほど、魔法陣か」


 籠の中に服を入れると湯船に浸かった。

 

「不思議だ。流石は異世界と言うところか……」


 身体を洗う洗剤は置かれていなかったので、浸かるだけだがこの湯暗くて分かりづらいが良く見れば紫色に変わっているように見える。そして、湯がかかった部分から汚れが落ちていった。疲れも取れる。


「何か魔法がかけられているのかもしれないな」


 驚くほど簡単に汚れが落ちた。モンスターの解体作業中に染み込んだ血も髪についた砂埃も面白いように落ちる。

 風呂は心の洗浄と言うが今までため込んでいた汚れが溶け出していくようだ。


「明日は何をしようか?」


 明日の事を考えてふと笑みが漏れる。それは何年ぶりの事なのだろう。

 明日の事を考える余裕があり、それが楽しみだと思える事。久々だ。

 風呂を存分に楽しむと傍にかけておいたタオルを腰に巻き、汚れた服を湯船に浸ける。

 さっと湯に潜らせるだけでも汚れが落ちた。思った通り、これにかけられている魔法は人だけでなく物にも有効だ。

 新品の様な輝きを取り戻した服を取り出すと身体を乾かすついでに、一緒に魔法をかける。

 火属性魔法を使ってここら一帯を暖め、風魔法で水気を飛ばしていく。


 乾かした服を着ると横になり、目を閉じた。




 ガチャガチャ。

 そんな物音で目が覚めた。

 まだ、陽が昇っておらず、辺りも静かだ。

 この物音は玄関の方から聞こえる。ベッドに立てかけておいたバスターソードを手に取る。

 不意を突いて追い払う位ならこの剣でもやれるだろう。それに人間相手ならば素手でも何とかなる。

 とりあえず、布団の中に枕を入れてまだ寝ているように見せかける。


 机の陰に隠れ、息を殺す。

 

 待っているとそろりそろりと足音をたてないようにベッドに近寄ってくる人影。

 布団に手をかけた。もう片方の手には何か小さな物が握られている。

 布団がめくられた瞬間に敵の後ろに忍び寄る。

 武器を持っているであろう腕を捻り上げ、ベッドに抑えつけた。


「動くな……何が目的だ?」

「痛い痛い痛い痛い! 離してくれえッ!」


 抑えつけていた奴が泣き喚き始めた。

 離せと言われて素直に離すわけがない。

 冷静に状況を確認してみる。

 真夜中に家の中に侵入し、ベッドに忍び寄った。


「やはり、敵だな。悪いが静かになってもらうか……」

「止めてくれえッ! ワシは村長じゃッ! ちょっと悪戯をしようとしただけなんじゃッ! 離してくれ、離せッ!」


 最後の命令口調にいらつきを感じ、さらに締め上げる。


「なあ。人に頼む時はどうするんだ? 他の頼み方があるんじゃないのか?」


 声のトーンをより一層低くして脅すように言う。


「証拠、証拠ならあるぞい! マチアス、マチアスを呼んでくれ! それで分かる」


 なるほど。執事長であるマチアスならば、本当に村長なのかどうかわかるだろう。


「分かった。そうする事にしよう」

「おお! 本当か! なら早く手をどけ――」


 俺はさっと絞め落とすと、その人物を担いでマチアスの元へと向かった。




「で、どういう事なのかお話し頂けますか?」


 村長と思われる初老の男性をイスに預けると、マチアスと向かい合った。この状況だ、真夜中に呼び出した事を許してほしい。それでなくともこちらは眠りを妨げられて少々頭に来ているのだ。


「申し訳ございません。まずはこちらをお受け取りください」


 そう言って差し出されたのは2アルだ。払った金額が倍になって返ってきた。


「これは?」

「それは私どものせめてもの気持ちでございます。また、この方はシャ・フルール村長のアンドレ・シャ・フルールで間違いありません。主人の非礼誠に申し訳ございません」


 マチアスはそれっきり頭を上げようとはしなかった。

 一分、二分……五分は過ぎただろう。


「はぁ……今日の所は何もされなかったので目を瞑ります。しかし、村長が何をしようとしていたのか? 貴方がわかる範囲で話して下さい」


 ゆっくりと頭を上げると再度詫びると、話し始めた。


「ありがとうございます。

 我が主は少々変わり者でして、泊りに来る者をこっそり見て、大丈夫そうだと思った相手に夜間にペンを持って忍び込み、落書きをするという悪戯をしてしまうのです」


 確かに村長が片手に持っていたのは羽ペンだったが、何か仕掛けのある武器かもしれないと思っていた。だが、本当に羽ペンだったという事か?


「なるほど。俺は大丈夫そうだ、と。やってもばれなそうだ、と思ったわけですね?」

「は……はい、その通りでございます」


 睨みつけながら言うと、マチアスは額から汗を流しながら答えた。

 気の毒ではあるが、どうせ知っていて止めなかったのだろう。ならば、同罪だ。


「では、もう一つ質問です。これまで、このような件が事前に発覚する事は無かったのですか?」

「それはございませんでした。神谷様もお分かりの通り、防御魔法が施されております。また、主の持つ技術はこのあたりにいる冒険者にも比肩するほどでしたので」


 つまり、防御魔法がかけられているという安心感、村長の忍び込む技術が合わさって今までの悪戯を成功させてきたのだろう。それに相手も選んでいるようだしな。だが、今回は不運だったな。


「分かりました。まだ、少々思うところがありますがお金も頂きましたし、マチアスさんに免じて許しましょう」


 飛びきりの笑顔で言う。


「あ……ありがとうございます!」


 マチアスはイスから飛び上がり頭を下げた。


「しかし、次は無い」


 フッと笑みを消して、目を細めて告げた。

 それだけ言うと俺は離れに戻った。後ろで何かが落ちるとがしたが仕方ない。これに懲りたら、止める事に全力を尽くしてもらいたい。

 警戒しながらも眠りに就いたが、その後は何事もなく朝を迎えた。


「寝れたのはいいが、無駄に疲れたな」


 顔を洗い、置いてあるコップでうがいをする。水が蛇口から出てくるが、これからもかすかな魔力を感じる。口をすすぐと予想以上の爽快感がある。何らかの魔法がかかっていると見て間違いないだろう。

 扉を開けて外へ出るとそこには正座をした初老の男性がいた。


「何か御用ですか?」


 思わず背中の剣を抜きかけたが、柄に手をかける程度に抑えておく。


「昨晩は申し訳ございませんでした。不肖、アンドレ・シャ・フルール神谷様の朝食の方を運ばせて頂きましたので、お召し上がりいただければ幸いです」

「これはどういう事ですか? マチアスさん」


 後ろに立っている執事マチアスに問う。

 朝からこんな面倒そうな事、非常に迷惑だ。


「昨夜の非礼を詫びようと思っての心からの謝罪の意を込めたサービスでございます。もちろん、無料で毒味もしておりますので、何ら問題はありませんよ?」


 そう言う事ではないのだが……仕方ない。折角の詫びだ、受け取っておく事にしよう。


「受け取りますから、帰ってください。朝から面倒事は嫌です」

「分かりました。では、行きますよ。アンドレ様、アンドレ様?」


 見るとアンドレと呼ばれる村長が肩を震わせている。


「な……なぜじゃ! なぜ、こんな若造に雑に扱われねばならぬのじゃあッ!」

「喚くな」


 今度は抑える間も、考える間もなく反射的に剣を喉元に突き付けてしまった。


「ひぃっ」


 目線だけで、さっさと消えろと合図をする。剣を引くと大人しくなったアンドレを連れてマチアスは去っていった。


 そして、冷静になった俺は自分がやった事を思い返して、眉間を抑えた。


「しまった……思わずやってしまった。仕方ない、食べたらすぐにこの村から出るか」


 三十分後、俺は門の外にやってきていた。


「じゃあな」


 アンナ、ミア、アリアナ、ベルナールと気の良い奴が多かった。ミアへの詫びは今度立ち寄る事があればその時にでもする事にしよう。とりあえず、ほとぼりが冷めるまではここを離れる事にしよう。本当に短い間ではあったが、ここでの繋がりはなかなか楽しかった。

 俺は力強く地面を踏みしめた。


これでキズナの章は終了です。


そして、舞台は村から外へ……


4月11日改稿

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