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天下一舞踏会【前編】


「はぁ……」


 何だろう、思わず溜息が出てしまう。

 最近、俺を取り巻く環境が日に日に変わりつつある気がしてならない。というか、既に変わっているのか?

 大体、何で主人である俺がメイドにもてあそばれなければならないのだ?

 納得いかん。

 そして、いつまでこんな日常が続くのだろうか?


(少しは、まともにメイドらしい事の一つくらいしろっていうの)


 恭介は気分転換に外へ出るとテラスで紅茶を飲みながら考えていた。

 そこへ『恭介様?』と彼を呼ぶ声がする。恭介は振り向くと

「あぁ、四津葉。どうした?」

「いぇ、朝から調子が悪そうでしたから。どこか具合でも悪いのかと」

「大丈夫だよ」


 四津葉は『そうですか』と言い残すと、その場を静かに去っていく。

 そんな後姿を見送る恭介、何か心が寂しい。当然の対応なのだが、何故か物足りない。

 やっぱり『ボケ』という――


(いやっ、違うし!)


 でも、とは言うものも何処か口寂しいところもある恭介。

 一息つけると、立ち上がりテラスを離れて屋敷内へと戻る恭介。

 廊下を歩いていると美味しそうな匂いがまた恭介の嗅覚を刺激する。

 匂いのする方へ自然と足が動く、そこにはいつもながら楽しげに料理をしている二津葉の姿が


「あっ、おはようなのです。御主人様」

「おはよう」

「食事はもう少し待ってくださいなのです」

「あ、あぁ……わかった」


 またしても、恭介はに落ちない。何かを期待していた筈だったのだが。

 別に料理を期待していた訳でもない


(なんだ?普通すぎる……)


 そう、恭介は何故か『普通』の対応に戸惑っていた、というよりは物足りなさを感じていた。

 また、二津葉が『今日も張り切って三日分ほど作りました♪』とかってボケをかまして来るのではなのだろうか?と、いつでも突っ込める体制は整っているというのに、ことごとく期待は裏切られた。


(いいや、これがメイドとして本来の姿なんだよな……でも、メイドの役割って何だっけ?)


 主人に尽くすのがメイドに与えられた使命だよね?

 決して、漫才する為にいる訳ではないよな……

 でもなんだろう、この気持ちは。


 とりあえず、朝食の準備が出来ていないとの事なので恭介は部屋に戻る事にする。

 長い廊下を歩き、相変わらず破壊されたままの入り口を呆れながらに見つめゆっくりと部屋に入る


(もうここまで来ると、誰も部屋を直す気ねぇな……)


 そして、以前から穴の開いてしまったベッドへ横になり恭介は仮眠を取り、眠ること数十分……

 ん?声が聴こえる。


『恭介!』と起こす様にして名前を呼ぶ声がする、恭介は薄らと目を明けると

「やっと、起きたの?食事の準備が出来てるから起きてよね」

「み、三津葉!?」


 恭介は起き上がると反射的に後退りし咄嗟とっさに壁へ背中をつける

 しかし、三津葉は用件だけを済まし

 『べ、別にあんたの為に起しにきた訳じゃないわよ!』と言い残し部屋をあとにする。

 残された恭介は、ポカーンとした顔で三津葉の後姿を見つめていた


(……ツンデレ?……いや、ありえんだろ)


 今の恭介は突っ込みを軽く受け流された時の様なスルー感さえも覚えるが、これはそれとまた違う。

 何故かというと、二津葉にしても四津葉にしても、そして三津葉にも『ボケ』が無い!

 むしろ、それが『普通』なのだろう。だが!今の恭介は妙なストレスが溜まるばかりだ。

 彼の望んでいた『普通の日常』がようやく訪れた……筈なのだが


「――何かが足りない……」



◇◇ ◇◇

 


 朝食を終え、ソファーに腰を下ろし暫く寛ぐ恭介。そして、色々な思いを巡らせていた


(一体、どうしたんだ?)


 悩む恭介の下に四津葉が、紅茶を持って歩み寄る。

 そして、テーブルの上にティーカップを『普通』に置いてくと恭介に笑顔で一礼し何も言わずに去っていく。

 これはどうしたものか?と思いつつも恭介はティーカップを手に取ると紅茶を一口。

 すると、恭介は思わず心の声が漏れてしまう。


「なんか、ボケろよっ!?」


 なんと自ら『ボケ』を要求してしまう恭介。

 そして、自分の発言にハッと気付く


(俺は何を言っているんだ?)


 そこへ、掃除を終えた三津葉が現れ、恭介は目が合うなり

「三津葉、頭でも打ったか?」

「はぁ?何を言ってんの?」

 三津葉は恭介を『バカじゃないの?』と呆れた様に見つめると

「まともにしろって言ったの、あんたでしょうが?ちゃんとメイドの仕事してるっていうのに」

「えっ、あ……ごめん」

「でも、疲れた!それに、このままじゃリスナーさんもつまんないだろうし」

「ってか、リスナーって誰だよっ!?」

 突っ込みを入れたこの時、恭介は物凄い爽快感を感じた


(これだよこれ……ん?いや、違うし!)


 どっちだよ?と言わんばかりの矛盾さだが、もはや“突っ込み”は彼の日常と化しているのだろうか?


(定着させるな!)


 一度、火が点いた恭介は止まらない。

 何故、こうなってしまったのだろう?恭介は『普通』に暮らしたいだけの筈なのに……


「――で?言いたい事はそれだけ?」

「勝手に人の心に文句つけるなっ!?」

「そういえば、今夜の事は知っているわよね?」

「スルーしたな……あぁ、あの怪しげな大会の事か?」

「世界各国からの、つわもの達が集まって来るそうよ」

「な、何が起こるわけっ!」


 じじいの思いつきとは言え、一体なにをやらかすつもりなのか?

 舞踏会というくらいだからダンスパーティなんだと思うのだが


(違うのか?)


 だが、只の舞踏会ではなく『天下一舞踏会』これはどこかで聴いた事のある響きなのだが気のせいか?


(というか、世界各国からって……)


 一体、どんなスケールなの?そんな事を考えつつ恭介はソファーを立ち上がると自室へと向かい歩き出す。

 廊下を歩いていると何ともメルヘンちっくな衣装を身にまとった二津葉とすれ違い、恭介は思わず足を止め二津葉の後姿へと声を掛ける


「ちょ、ちょい待て!」

「はぃ?」

「何だ、その格好は?」

「見て解らないですかぁ?」

「わからんから聞いてるんだよっ!」

「これは魔女っ娘かぐやちゃんの――」


 二津葉が言いかけるが恭介は『いや、聞いた俺が悪かった……』と頭を抱えながらに言う。

 二津葉曰いわく『この衣装は今夜お披露目するはずだったのです』との事だった。


(あぁ、なんとなぁくわかってきたぞ……これは、ある意味で死亡フラグ確定?)


 やはり、恭介の良からぬ思いは見事的中した様であった。

 そして、そのまま部屋へと戻っていく。





 天下一舞踏会……はて?

 恭介は、寝ぼけ頭を抱えたままそんな事を考えていた。

 そこへ、四津葉が何かを言い忘れましたといわんばかりに部屋に入り、スタスタと恭介の下へ歩み寄ると『これを渡し忘れていました』と恭介にあるものを渡す。どうやら衣装のようだ


「ん?何これ?」

「今夜の衣装です」

 そう言って渡された衣装、というか道着?それを見た恭介は

「亀って何だよ!色々ヤバイし、何か違くねっ?」

「この方が動きやすいかと」

「舞踏会って激しい運動する?」

「念の為、というもので。お怪我をされるとマズイので」

「怪我すること前提!?ってか、マジで何しようとしてるわけっ?」

「それは――」


 四津葉はそこまで言うとニコっと笑い笑顔で話をはぐらかし『では後程』と何事も無かったかの様に部屋を去っていく。


「それは何!?すげぇ、気になるんですけどぉ!」


 焦らし焦らしで半殺しの状態にされた恭介は嫌な予感を抱えつつ深く溜息を吐いてしまう



      【1】



 気付けば夕方になっていた。どうやら寝ていたらしい。

 屋敷の騒がしさに恭介は目を覚まし様子をうかがう様に廊下へと出ると


(……これは、何事?)


 恭介の視界に飛び込んできたのは、様々な格好をした見知らぬ方々。

 何か見ているだけで暑苦しい、異様な熱気がぷんぷんする


(あの格好どこかで……?)


 視線の先には、以前部活で恭介が哀れも無い姿をさらされる事となった衣装、正にあれと同じ格好をした戦士様がいらっしゃるじゃないですか?

 ふっと辺りを軽く見渡すと


(あれぇ~、これ何か違うんじゃね?)


 舞踏会って、こうゆう事するんだっけか?

 そんな事を考えていると、『あら?恭介』と嫌に思いたくなる程、聞き覚えのある声が耳に入る


「れ、麗華?」

 振り向くと、案の定そこに居たのは麗華だった。すると麗華は

「まさか、こんな素晴らしい会を開いてくれるとは爺さんも、粋な事をしてくれるわね」

「は?一体、何が始まるわけ?」

「あんた、主人のくせに何も知らないの?」

「くせにって言うな!」


 恭介の疑問の答えは麗華の格好が教えてくれた。

 何とも電波系な衣装、格好をしている。


(あぁ、これはアレか?ようするに部活の延長戦みたいなものなのか……?)


 などと、恭介は呆れる様に考えふけっていると麗華は

「なに、アホみたいな顔してんの?まぁ、もともとか」

「そんな格好しているお前に言われても説得力に欠ける……」

「失礼ね。ところで、あんたも出るんでしょ?」

「何に?」

「何って、舞踏会に決まっているじゃない」


(やっぱ、そうなるよねぇ……)


 すると、そこへ掃除を終えた三津葉がやって来ては麗華の存在に気付くと彼女は一歩後退りをしてしまう。

 三津葉は、あの部活以降、麗華が苦手であった。

 厳密に言えば、麗華の趣味に対してだ

 三津葉と麗華は雰囲気が似ている為、絡む事は多々あるが『この手』の事となると三津葉もついていけない。

 恭介にして見れば、三津葉と麗華のツーショットは最強最悪のコンビにしか見えないのだが……


「三津葉!?」

「何よ、化け物でも見たような顔して」


(いや、お前の存在自体が化け物だろうが……)


「何か言った?」

「いちいち、人の心にチャチャ入れるな!」

「いちいち、うるさい主人ね」

「少しは遠慮しろよ……」

「まったく、そんなんじゃ真っ先に死ぬわよ?」

「怪我通り越して死ぬの!?マジ何するわけ?」

 そんな馬鹿みたいなやり取りを横目で見る麗華は、薄ら笑いを浮かべ

「漫才するのも良いけど、そろそろ始まるわよ?」

「漫才って、どこを見たらそうなる!?」

 麗華は軽く恭介の突っ込みを聞き流すと

「じゃ、先に会場入りしてるから」

「聞けよ!」


 去り行く麗華の後ろ姿に突っ込みを入れる恭介。

 三津葉は、いつの間にやら姿を消していた。

 そして、恭介の周りが一気に静かになる。

 嵐の前の静けさとは、まさにこの事を言うのだろうか?

 だが、恭介の視界には理解不能な格好をした奴等がウジャウジャ。まったく次から次へと……


(まるで、人がゴミの様に見えるな)


 舞踏会開始まで、あと三十分。先行きが不安だ


 一体、どうなることやら……




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