私の大好きな英雄たちへ
この世にはスーパーヒーローが存在する。超パワーを持っていたり、身体から火を放ったりすることができる存在だ。そんな力を駆使し、悪を倒す。そんなヒーロー達が私は好きだ。私の憧れだ。
浮月冥、年齢16歳。私のことだ。
私は強力な力を与えられた、ヒーローになれるかもしれない存在。そんな私はヒーロー達の大ファンだ。私の生き甲斐はヒーロー達の活躍を見ること。テレビに映るヒーロー達の、強大な敵を前にボロボロになりながらも市民の為に奮い立ち立ち向かう。そんな姿が大好きだ。
けれども最近、ヒーロー達の活躍がテレビに映らなくなってきている。理由は明確、犯罪が無くなってきているからだ。今の社会においてヒーローを敵に回すとどうなるかなんて分かりきっている。だからヒーロー達の活躍の場が減っている。ヒーローをやっている者がそこらのコンビニやファミレスで働いている様を、最近よく見かける。
こんな世界はもう飽きた。何かデカい事件でも起きて欲しいと願うばかりだ。街の安全とかどうでもいい、私はただヒーローが活躍してる姿を見たいだけだから。
ある日、ふと閃いた。
(世界に事件が起きないなら、自分で起こせば良い。)と
我ながら名案だと思うと同時に、自分が最低な人間であることを理解する。だが思い立ったが吉日、私を止めれる者などヒーロー達以外存在しない。
だがそれには準備が必要だ。幸い時間は沢山ある。学校に行かず、親も友達もいない私にとって一切気にしなくていいことだ。
そうだな、手始めにどっかのビルを破壊しよう。デカめのビルならその分注目されるし、ヒーローも来てくれる。
もっと世界に知られるとしたら、街頭テレビをハッキングしてこの事件を予告してみよう。そして私の思惑を世界に伝えよう。
でも私にはハッキング技術が無い。今から勉強するにしても時間がかかる。どうしよっかな〜。
そうして行き着いたのがここ、匿名掲示板だった。
「今から大犯罪を起こそうとしてるけど、手伝ってくれる人いる?」
1:名無しのヴィラン
出来ればハッキングが得意な人が良いんだけど。
2:名無しさん
何言ってんお前?
3:名無しさん
通報しますた
スレを立てて早速、バカな野郎どもが私の行動を否定してくる。そんな言葉はいらない。お前達は私を手伝うと言えばいい。
だがもちろんのことだが名乗り出る者は一人も出てこない。レス数も100を越えた辺りで、私も諦めかけていた。その時
137:名無しさん
ワイが手伝ったる。ハッカーやってるしワイもそういう事やりたかったし。
それを見て私の目は輝いていた。これで私の野望を始められる。
138:名無しのヴィラン
出来れば今日明日で始めたい。それと顔を合わせておきたいからここに集合できるか?
そうして有名な待ち合わせ場所のマップを貼る。
139:名無しさん
おk今から行くわ。
14:30、私がそこに着くといたのは頭にヘルメットの様な物を被った恐らく男性が立っていた。
「すみません、もしかして掲示板見てここに来ましたか?」
躊躇わず話しかける。そうするとその男は私の方を見て何だコイツと言ったような感じを出す。だが私の言葉を聞いて確かめる様に「もしかして名無しのヴィランさん?」と聞いてくる。
私は頷き、近くのカフェを指差す。相手はかなり驚いた表情をする。(見えていないけど)
「いや〜びっくりしたよ、あんな事言ってるのがこんな少女だったなんて分からなかったよ。」
「逆に分かってたら怖いけどね。無駄話はいらないから早速本題に入るよ。」
淡々と男に自分の考えを話す。ここまで来て離れて行かれるのは嫌だが、それでも包み隠さず計画の全てを話す。
「どうだい?この話を聞いてもまだ私と共にいるかい?それともここで逃げて通報するかい?」
「いやいや、こんな世界的大犯罪者の誕生に付き合うことになるなんてとても光栄なことだよ。それに、ここまで来たら引く気は無いし何よりすっげぇ楽しそう。」
そう言ってヘルメットを外す男(ちゃんと男だった)は爽やかな笑顔を見せて手を突き出してくる。固い握手を交わした私たちはケーキを食べながら計画をより綿密に練ることにした。
閉店時間になったため一度解散して交換したラインでやり取りした。
「そういえばあんた何でヘルメットなんか被ってたんだ?」合ったときに思っていたことを聞く。
「お前俺の顔ちゃんと見てないな?せっかく外したのに、あれめちゃ恥ずかったからな!」
「俺は顔に大火傷負っててコンプレックスなんだよ」
怒った絵文字とともに送られる文字列を眠い目を擦りながら読む。
「俺からも聞こう、なんでお前はこんな事を計画した?理由を教えろ。」
その文字を見て少し目が覚める。確かに計画の内容は説明したけど計画を立てた理由は言ってなかったな。
「良いよ。理由はね、ヒーローが大好きだからだよ。」
「???」
はてなが送られる。そりゃそうだ、大好きなのに犯罪をしてヒーロー達を困らせようとしてるんだから。
「最近さ、ヒーロー達のニュースとか全然流れないじゃん。」
「あぁ」
「それが嫌だから自分から事件起こしてヒーロー達を活躍させようかと思ってさ」
「あんたってかなりヤバい奴だよな」
分かりきっている返答。理解されないだろうとは思っていたけど、それでも否定されると悲しいものだ。
「離れたくなった?」
聞きたくないけど聞いてみる
「いや全然?それよりもあんたのことなんて呼んだらいい?名前知らねぇし本名で呼ぶのもあれだろ?」
良かった、離れるという言葉が無くて安心して、かなり眠くなってきた。
「なんでも良い。もう寝るから適当に考えておいて。おやすみ」
「うい〜おやすみ〜」
翌日、ビジターから呼ばれた場所に向かう。ビジターとはあの男の呼び名、コードネーム的なやつだ。なんでもハッカーしてるときの名称らしい。
「来たよ、ってその人は誰?」
待ち合わせ場所に着くとヘルメットを被ったビジターの他に1人知らない人がいた。
「おう来たか。こいつは俺の昔からの友人でな、この事話したら俺も手伝いたいって言ってよ、連れてきた。」
「どうも、トリガーさんでよろしいかな?俺のことは気軽にドクターと呼んでくれれば。」
トリガーとか言う知らない言葉が出てきたが、誰かの名前か?
「あ〜トリガーっつうのはあんたのコードネームだよ。名無しじゃやりずらいからな、勝手に付けさせてもらったよ。」
「そうなんだ。一応聞きたいけどなんでそんな名前にしたのかな?」
「お?聞いちゃう?この名前にした理由はな、お前がこれから起こす事件をきっかけに、色んな組織や暴徒どもが動き出す引き金となるようにって思って付けた名だ。どうだ?イカすだろ。」
まぁ悪くはないネーミングセンスをしている。正直なんでもよかったし、私自身何も考えてないからこのままでいこう。
「で、これから爆破するビルはどれだ?」
「それはあそこのデカいビルだよ。ヒーロー達が集まる本部からも近いから目立つだろう?」
「じゃあその爆弾はどこにあるんだ?」
ドクターが言う
「これだよ〜。」そう言って自作の爆弾を見せる。
ドクターは私の爆弾を見て「これじゃ駄目だ」と言い投げ捨てる。
「は?私が頑張って今朝作ったやつだぞ。そこらで買うよりも良い性能のはずだ。」
ドクターは私の話を聞きながら自分のポケットを探る。
「ほら、これ使え。」
そう言って出してきたのはかなり小さなチップの様なもの。こんなんでなにができるんだ?
「これは俺の作ったマイクロボム。これ1個であんたの爆弾5個分の爆発を起こせる。これを置いてこい。」
こんな小さいので私の奴より強いだと?にわかには信じられん。
「とりあえずこれ俺がいい感じのところに置いてくるわ〜。」
そういってビジターが私の目の前からいきなり消えた。文字通り消えたのだ。まさかアイツも能力者だったなんて。
そして3分後、ビジターは私達の元に戻って来た。
「1回から地下に屋上まで全体的に設置してきたよ。」
「お、おう良くやったビジター。ありがとう。」
能力について聞きたいが先に計画を終えよう。ビジターがハッキングしておいてくれたから後は離れた所から配信するだけ。
そして町中に設置されている街頭テレビが一斉に消え、ある少女を映す。
『あ〜、あ〜、聞こえているかな?私は「トリガー」これから世界的な悪となるものだ。』
私の声に人々はテレビに目を向ける。勿論ヒーロー達も
『ヒーロー達よ、今この社会には犯罪が無い。それ故ヒーロー達は相当暇をしているだろう。だがもう安心してくれたまえ、私がこれから様々な悪事を働こう。そうすれば君達ヒーローはさぞ忙しくなるだろう。こんな暇で幸せな日常が嘘の様に。』
私は今どんな顔をしているだろう。よだれが溢れて止まらない。これからまたヒーロー達が活躍する様を見れると思うと自然と笑みが溢れる。マスクで顔を隠しているけれど、もしバレたらと思うとゾクゾクする。
『嘘だと思うだろう。何を言っているんだと思うだろう。だがこれから始まる絶望は、嘘でも幻でも夢でもない。けど安心してほしい。私はヒーローを憎んでいる訳でも、世界征服を企んでいる訳でもない。私はただ、ヒーロー達の活躍を見たいだけだ。』
『私はヒーロー達がヒーローである限り、基本的に人を殺すつもりは無いし、君達ヒーローを殺す気も無い。けれども私がヒーロー失格と判断したヒーローは容赦なく殺す。それは偽者だからだ。』
軽く反応を見てみるといまいちピンと来ていない様子だった
『私の言っていることが本気であると証明しよう。』
そして起爆装置を押し、ビルを爆破させる。これにより、私が本気だと世界に知らす。周りの人々は恐怖に駆られ逃げ惑う。崩れ行く建物を食い止めるために警察や消防、そしてヒーローが派遣される。
『私の大好きな英雄たちへ。今ここに、世界最恐の敵の誕生を宣言する!!』