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第八章:残火(ざんか)

小さな影が、戦場にいた。

瓦礫の陰で、何かを抱えていた。

骸の中、焼け焦げた帳の下で──まだ、息をしていた。


誰の子かは分からなかった。

敵だったのか、味方だったのか。

そもそもそんな分類がある世界だったのかも、もう分からなかった。


俺はその小さな体を抱きかかえた。

泣きもせず、怯えもせず、ただ目を開いていた。

血と煤で黒くなったその顔が、俺の目をまっすぐに見返していた。


「生きているのか」と、俺は呟いた。

返事はなかった。

だが、頷いたような気がした。


それからの日々を、俺はよく覚えていない。

食べるものを探し、水を確保し、火を絶やさぬようにした。

剣はもう振るわなかった。

代わりに、薪を割り、煮炊きをした。


その子は何も訊かなかった。

名を訊かず、どこから来たかも訊かず、何者かも問わなかった。

ただ、火の前で静かに座り続けていた。


俺もまた、何も語らなかった。

語るべきことがなかった。

語ってはいけない気もした。


ある夜、火が消えかけていた。

俺は薪をくべようとして、ふと手を止めた。

子供の目が、こちらを見ていた。


その目の中に、“拒まないまなざし”があった。

誰かから与えられたものではなく、

自分で決めたような、確かな静けさだった。


俺はそれを“赦し”としか呼べなかった。

けれど、何かが違う気もしていた。

言葉にはできないまま、

俺の中の何かが、少しだけ軽くなっていた。

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