7/11
第七章:静寂の戦場
疑問を持ったままでも、人は生きていかねばならなかった。
俺は、祈れなかった。語るべき信仰もなかった。
それでも、腹は減り、夜は寒かった。
傭兵になった。選んだわけじゃない。
ただ、生きる代わりに剣を差し出せと言われた。それだけだった。
報酬は、銅貨十枚と干し肉。
命の重さが、具体的な数字に換算された。
信じるものも、語るべき言葉もなかった。
剣を振れば、生き延びる。それだけだった。
慣れるのに、時間はかからなかった。
命令もなければ、正義もなかった。
斬る理由も、斬られる理由も、風のように過ぎ去っていった。
ある夜、敵も味方もわからないまま戦場に放り込まれた。
泥の中で、見知らぬ顔を切り裂いた。
次の瞬間、自分の肩に刃が届いていた。
痛みがあった。だが、生きていた。
その夜、焚き火の前で、ふと気づいた。
俺は、自分が誰のために生きているのか、
誰を殺したのかさえ、もう覚えていなかった。
誰も名を呼ばない。
誰も名前を訊かない。
ただ、斬るか、斬られるか。
その沈黙の中に、確かに“戦場”はあった。
俺は生きていた。
だが、それは“生きてしまっていた”というだけだった。




