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第六章:秩序の外の火

出奔から数日。

まだ身体に軍の動きが染みついたまま、俺は森を抜け、谷を越えた。

行くあてもなかった。

だが、たどり着いた小さな集落は、俺を拒まなかった。


そこにいたのは、“再構派”と呼ばれる者たちだった。

我が国で長らく異端とされてきた宗教の残党。

王政を否定し、信仰の構造そのものを問い直していた存在たち。

だが、彼らは俺を咎めなかった。剣を向けられることもなければ、問い詰められることもなかった。

ただ、一杯の水と、火を分け与えられた。


その夜、彼らの祈りを見た。

それは、俺の知るどの儀式とも違っていた。

言葉は静かで、動きも少なく、何より──その場に「誰の先導者」もいなかった。


輪になって座り、各々が目を閉じていた。

手を組む者もいれば、黙って空を見つめる者もいた。

何かを“崇める”というより、“それでも、ここにいる”という祈りに見えた。


その在り方は、俺の中に沈んでいた何かをゆっくりと掘り起こした。

かつて、俺が疑うことなく従っていた命令の数々──その背後にあったのは、神への忠誠という名の服従だった。

あの祈りの輪の中には、服従も命令もなかった。

あるのは、ただ「選ぶ」ということ。

それでも祈る、という選択肢を自ら持ち続けている姿だった。


その姿が、痛かった。

俺の剣が、そう思わせない世界を支えていたのだということに、あの夜、初めて気づいた。


「ここに正しさはないよ」

そう、炎の向こうから声がした。

「でも、正しくなくても、生きていていいと思っている」


その言葉に、俺は何も返せなかった。

ただ、静かに火を見ていた。指先が震えていたのを、今でも覚えている。

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