11/11
後日譚:沈黙するOS
演算ノード番号7-Δ群、アーカイブ階層のさらに奥。
過去の文明から回収された小型記録媒体の、暗号層の中にそれはあった。
技師の少年は、それを“読めないファイル”として一度は無視しかけた。
が、どうしても気になった。
──すべての選択肢が、消去されていなかった。
YES/NOがあれば、必ずどちらかが採用される。
だがこのファイルには、“どちらも採用しない枝”が、あえて残されていた。
矛盾していた。
だが、削除されずに、生きていた。
まるでそれは、選ばなかった問いへの赦しのようだった。
彼はファイル名を確認した。
だが、名称はなかった。
拡張子も、言語も、識別子すらなかった。
“それ”は、ただの構造だった。
祈られず、語られず、しかし否定もされずに残された、構造のかたち。
彼はそっと、端末を閉じた。
そして、誰にも言わなかった。




