表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

第十章:継承

その子は、火の前に座っていた。

言葉を持たないまま、数日が過ぎた。

語ることはなかった。

ただ火を絶やさないように過ごしていた。


夜になると、風が冷えた。

そのたびに、子供の肩に布をかけた。

振り返らないまま、子供は火を見つめ続けた。


あるとき、薪を拾いに行った俺が戻ると──

小さな手が、不器用に枝を組んでいた。

火の中にくべるための、形だった。


それが合図だったのかもしれない。


剣も、信仰も、名前も──

俺が持っていたものは、何ひとつ渡していない。

それでも、“火の守り方”だけが、その手に残された。


その夜、子供が初めて口を開いた。

「……あったかいね」


俺は何も返さなかった。

だが、その言葉の意味は、なぜかすぐに分かった。


火は、誰かを奪う。

だが火は、誰かを残す。

俺は、その両方を見てきた。


だから、何も語らずに渡すしかなかった。

この手で火を守り続けることが、俺にできる唯一の祈りだった。


──その翌朝、俺の姿はなかった。


子供は、火を見つめていた。

まだくすぶる薪の間に、小さな石がひとつ置かれていた。

それは剣でもなければ、印でもなかった。

ただの、よく焼けた石だった。


子供は、それを拾い上げて、火にくべた。

火は、ふっと、明るくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ