62.導き出した答えから始まる関係
様子を見守ってくれていたとっきーとげんちゃんが顔を見合わせる。
俺もカップを置いて二人を見つめると、とっきーとげんちゃんは頷き合った。
「蒼樹、素直な気持ちを伝えてくれてありがとな。元々玄暉とは恨みっこなしの協定を結んでたにせよ、どっちかが選ばれたら今まで通りに振る舞えるかどうかは五分五分だった」
「俺は耐えられるが、鷺羽は嫉妬で狂いそうだとか騒いでいたからな」
あー……それは何となく想像できる。
ただ、げんちゃんも顔や仕草に出さなくても心はきっと複雑な思いになっていたんだろうな。
「正直、二人が思うような展開まで行きつく自信はないけど……俺も意識はしてみる」
「そもそも蒼樹は初めてだろ?」
身を乗り出してきたとっきーがとんでもない爆弾発言をしてくる。
初めてって、どの初めてだよ!
「鷺羽、そういうことを口に出すからお前はダメなんだ。初めてだと分かっているくせに」
「だって、蒼樹が恥ずかしがってるのが可愛いんじゃん。でも良かっただろ、俺らが蒼樹の初めてをもらう訳だし」
「とっきー……それ以上余計なことを言うと、本気で怒るぞ」
俺が睨むと、とっきーも大人しく席へ戻っていく。
俺も高校の時に女の子と一度だけ付き合ったし、キス以上の関係にもなったことはあるんだけど……。
二人も女の子と付き合ってなかったっけ?
必死になって記憶の糸を辿っていくと、とっきーがニヤリと笑いながら俺を眺めてくる。
「まあ、この年まで童貞を守るってのもアレだし。蒼樹が女の子と付き合った時にムカついて、少しだけ女の子と付き合ったことはある」
「俺も……そうだな。似たようなものだ。だが、つまらないと言われてすぐにフラれた」
「だよな。俺の記憶は正しかった。二人も別に男性が好きって訳じゃなかったよなと思ってさ」
俺の言ったことに対して、二人は急に思案し始める。
妙なことでもいったかなと思ってアールグレイティーのお代わりを注いでいると、同じタイミングで二人の視線が俺へ集中する。
「そうだな。別に女の子のことも好きだけど、やっぱ蒼樹だよな。他の男には別に興味ないし」
「俺も同じく。異性に対しては美人だとか普通のことを思うが、同性に関しては蒼樹だからこそだ」
そうハッキリ言いきられると気恥ずかしくなってくる。
俺も普通に女の子のことも可愛いなと思うけど、自分の身体を許してもいいと思えるのはとっきーとげんちゃんだけだ。
「そっか。改めて言われると照れるな。二人とも、俺の答えを尊重してくれてありがとう。これからもその……よろしくな」
これからどう変化していくのかは分からないけど、俺にとっても二人は特別な存在だ。
だから、少しずつ友達以上の関係に慣れていかないとな。
俺も同性同士の行為について、ちゃんと勉強した方がいいのかもしれない。
とっきーとげんちゃんは確実に知ってそうな気がするし……俺だけ知らないっていうのもよくない気がする。
俺の考えなどお見通しだと言わんばかりに、とっきーが楽しそうに笑った。
げんちゃんも優しく笑ってくれてるし、二人の笑顔を見ていると俺も嬉しくなってくる。
俺も気づいていないだけで、知らないうちに二人のことが恋愛的な意味で好きだったのかもしれない。