52.幼なじみVS謎の紳士
空気がひりついている。
とっきーはいつもの暴走の可能性もあるけど、げんちゃんまでピリピリしてるのはどうしたらいいんだろう?
北條さんは困った顔をしているし……。
ここは俺が説明するしかないか。
「とっきー、何を怒っているのか分からないけど俺はただ食事に誘われただけだから」
「蒼樹は黙ってて。どうせ何も考えずにオッケーしただけだろ」
「ここは鷺羽に加勢する。蒼樹を食事へ誘う意図が分からない」
「困ったな。ここまで嫌われてしまうとは思わなかった。二人とも本当に永瀬君のことが大切なようだ。軽率な行動をとったことは謝ろう。私から彼を誘った理由を説明するから、移動をお願いしたい。ここは人目に付く」
北條さんは苦笑しているけど、通り過ぎる人たちが何だろうとちらちらと見ているのが分かる。
俺も頷いて、今は抑えてと二人にお願いした。
「俺もこんな場所でどうこうするつもりはありません。ただ、貴方のことをどこかで見かけた気がしてずっと引っかかってたんです。いいですよ、行きましょう」
とっきーは言い放ってから怒りを逃すように息を吐き出して、俺の手をしっかりと握りしめた。
げんちゃんも俺の肩を叩いて、俺に歩くように促してくる。
「すみません北條さん。よろしいでしょうか?」
「誤解されてしまったようだからね。構わないよ。では、部屋へ行こう」
北條さんは気分を害した様子も見せず、大人の対応で改めて俺たちを部屋へ招待してくれた。
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「ただ者じゃないだろうと思ってたけど、マジかよ……」
「もしかして、金持ち?」
さっきまで怒りに満ち溢れていた二人も、目の前に広がる夜景をみて呆気にとられている。
普通はこんな部屋に泊まれないもんな。
「気に入ってくれたみたいで良かったよ。ちょうどテーブルもあるし、ルームサービスを頼んだから座ってくれ」
ガラスのテーブルには、四脚の椅子がセットになっていた。
クッションがしっかりとしていそうな椅子だ。
「それじゃ、遠慮なく」
「とっきー……せめてマナーは守らないと」
「……失礼する」
ドカッと感じ悪く腰かけたとっきーと一応静かに座ってくれたげんちゃんは、何故か三つ並べて椅子をセットして俺を無理やり真ん中へ座らせた。
テーブルが大きめだからいいけど、どう考えても座る位置がおかしいだろ。
「二人とも、恥ずかしいことするなって。何を警戒してるのかは分からないけど、過剰反応しすぎ」
「俺たちは蒼樹が心配なだけだ。ぼんやりして隙だらけだから放っておいたら何をされるか分からない」
「蒼樹はか弱いから、俺たちが守らないと」
「はぁ……俺は二人の子どもか? 恥ずかしすぎる……」
俺が頭を抱えている間も、北條さんは柔和な笑みで俺たちを見守っていてくれる。
こんなに失礼な態度を取ってしまっているのに、怒りもせずにいい人だよな。




