51.勢いに押されて
俺は軽く頭を下げてから電話に出ると、一言を言う間もなくとっきーがもしもし! と、切羽詰まった声をかけてきた。
『蒼樹、今どこにいる? なーんか様子が怪しかったから嫌な予感がして』
「嫌な予感って……今、人と会っているところだから、後でかけなお……」
「は? どこで?」
「どこって……駅前のホテルだけど……」
とっきーの勢いに押されてポロリと言ってしまうと、ホテル!? という大きな声が返ってくる。
「今から行くから! そこで動くなよ」
「何言って……あ、切れた」
とっきーはまくしたてるように言い切って、さっさと電話を切ってしまった。
全く、一体何を焦ってるんだか。
「ふふ……お友達かな?」
「あ、はい。すみません。友人で同僚なのですが、今からホテルへ行くからと言って一方的に電話を切ってしまって」
「そうか。二人きりじゃないのは残念だが、折角だしお友達も一緒に夕食をどうかな」
「それは大変ありがたいお話ですが……すみません、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか? あの勢いだと言い聞かせるのも時間がかかってしまうし、更にご迷惑になりそうなので」
俺が謝ると、北條さんは気にしないでと優しく言ってくれた。
確かに少し緊張していたからとっきーがいてくれるのは心強いけど、北條さんは俺だけに話したかったみたいだし良かったのかな。
「友人で同僚ということは、君の店の従業員でもあるということだね」
「はい、そうです」
「なら、お友達にも話を聞いてもらおうか。しかし……永瀬君は皆に好かれているんだね」
「そうでしょうか? 電話をかけてきた友人は親友と言っても差し支えない関係ですが」
俺の言葉を聞いて、北條さんは少し考え込むように俯いた。
別に変なことを言ったつもりはないんだけど、気になることがあるのかもしれない。
「親友か。それは……いや、私が首を突っ込むことではないな。彼と会った時に分かるだろう」
「俺が疎くて理解が及んでいなくて申し訳ありません。友人のことまで考えていただき、ありがとうございます」
「いや、大丈夫。永瀬君のお友達なら、私もきちんと対応しないといけないと思ってね。さて、お友達を迎えに行ってあげないといけないな。このフロアへは宿泊者しか来られないからね」
「そうですね。すみませんがよろしくお願いします」
北條さんに促されて、来た時と同じように部屋を出てエレベーターでロビーへと降りる。
ここで話しながらとっきーを待とうということになった。
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しばらくロビーで話していると、正面の出入り口から飛び込んでくる人影が見えた。
あの人影は間違いない。
とっきーと……何故か一緒にげんちゃんもいた。
俺が軽く手をあげて合図すると、二人は顔を見合わせて小走りでやってきた。
「蒼樹! 無事か?」
「良かった。鷺羽が俺に連絡をくれた時には何事かと思ったが、何もされていないみたいだな」
二人は俺の無事を確認するように全身を見回してくる。
俺が呆気に取られていると、とっきーに腕を取られて何故か北條さんから隠すように背中の後ろ側へ追いやられてしまった。
俺がそっと二人の表情を見上げると、目の前に立っている北條さんを思い切り睨みつけていた。
勢いが凄すぎてついていけないんだけど、一体どうしちゃったんだろう?