50.美しい夜景
北條さんはカードキーをかざしてエレベーターを呼んでくれたから、俺も後に続いてエレベーター内へ入る。
ゆっくりとエレベーターは動きだしたけど、階数表示はどんどん上へと伸びていく。
北條さんが押したボタンは見えなかったけど、暫くして十五階の表示で止まって静かにドアが開いた。
「最上階……」
思わず呟くと、振り返った北條さんがクスっと笑った。
少し恥ずかしくなってしまって、俺も照れ隠しの笑みを返す。
北條さんの後ろでなるべくキョロキョロとしないようにしながら、通路を進む。
「この階はあまり部屋数もないみたいですね」
「スイートルームしかないんだ。別に普通の部屋でも良かったんだが、この部屋を勧められてしまって断るのも申し訳ないなと思ってね」
言いながら、北條さんは一つの部屋の前で立ち止まりカードキーをかざす。
カチャっという音がすると、ドアを開けて招いてくれた。
「どうぞ」
「すみません、失礼します」
遠慮がちに室内へお邪魔する。
中は広くて、いかにもスイートルームといった雰囲気だ。
大きなソファーやテレビもあって広々とした室内を見渡す。
何より、部屋を入った真正面が一面ガラス貼りになっていて自然と足がそちらへと向いてしまう。
外は日も落ちて夜になり、街の灯りがキラキラとしていて吸い込まれそうだ。
「すごい……」
「この辺りの街の様子が一望できるんだ。見下ろすと道路の車のライトもしっかりと見えるから都会の景色といった感じだね。角度を変えれば静かな街の様子も眺められるから飽きないよ」
無心で景色を眺めていると、頭の上から優しい笑い声が降ってきた。
「ふふ。喜んでもらえたみたいで良かった」
「あ……すみません。子どもみたいに夢中になってしまって。お話するという目的を忘れるところでした」
慌てて窓から離れると、北條さんは笑顔のまま俺の頭に手を伸ばして優しく撫で始めた。
突然頭を撫でられて、どうしていいか分からずにされるがままになる。
「永瀬君は可愛らしいな。私も目的を忘れてこのまま静かな時間を楽しんでしまいそうだ」
「あの……」
俺が見上げると、北條さんの手がゆっくりと離れていった。
子どもじみた行為をあやされていたみたいで、どんどん恥ずかしくなってくる。
顔が赤くなってくるのを感じて、慌てて顔を逸らして温度を冷ますように両手で顔を仰ぐ。
「驚かせてしまったか。困らせるつもりではなかったんだが……」
そっと表情を窺うと、また北條さんと目が合った。
視線に射貫かれた気がして、身体が硬直してしまう。
優しいはずの視線なのに、見つめられるとどうしていいか分からなくなる。
「初めて見た時から思っていたが、君は……」
ゆっくりと近づいてくる手が頬へ触れそうになった瞬間、俺のバッグの中からコール音が聞こえてきた。
伸ばされていた手は、ゆっくりと戻っていく。
俺はハッとしたように動き、慌ててバッグを回転させてチャックを開ける
「音を切り忘れてたみたいで、すみません」
「気にしないで。どうぞ」
「ありがとうございます。少し失礼します」
頭を下げて、バッグからスマホを取り出す。
画面を覗くと電話をかけてきたのは、とっきーだった。