5.一時の休息
とっきーにグラスを突き出されたから、お代わりだろうと水出し用のコーヒーポットを手に取る。
お代わりも欲しかったみたいだけど、それだけじゃないらしい。
「蒼樹はさ、ズルいんだよな。ぼやーっとしてるから放っておけないんだよ。で、自覚もないからタチが悪い」
「それは同意する。蒼樹のことは放っておけない」
「なんだよ二人して。俺、そんなにぼーっとしてるか? まあじいちゃんの店をどうやって経営するかーとかはやりながらでいいかって思ってたけどさ」
だってさ、突然思い立ったんだから。
この店を潰したくないっていう思いだけで、他は何も考えてなかった。
というか、考えられなかった。
「普段はなーんも考えてないくせに。急にレトロ喫茶を継ぐとかいうからさ。蒼樹を見てれば気持ちは何となく分かるけど、絶対に勢いだろうって思うだろ」
「まぁ、勢いもあるけど。何よりこの場所が好きなんだよ、俺は」
「それは分かる。蒼樹にとって大切な場所だってこと。だから、俺も全力で手伝いたい」
げんちゃんの本気の気持ちが伝わってくる。
俺はコーヒーを飲み干してテーブルの上へ置くと、げんちゃんの手を握りしめた。
「持つべき者は友だよな。ありがとう、げんちゃん!」
「おいおい! 俺には礼もなしか?」
「とっきーも、サンキュ」
「俺に対して軽くないか? おかしいだろ!」
げんちゃんの手を離してから、今度はとっきーの手を握りしめてやった。
それだけでとっきーは機嫌をなおしてくれる。
これで喜ぶ意味がよく分かんないけど、これからも手伝ってもらうためにサービスしとかないとな。
「俺のありがたみを深く心へ刻むように」
「はいはい。とっきーさいこー」
「適当に言うのバレバレすぎ」
俺たちは毎回明るく笑い合って、何度もピンチを乗り越えてきた。
だから、今回もきっと大丈夫だ。
「とりあえず準備は大体整ったから、後はオープンするまえの食料の買い出しくらいか。今日はこの辺りにしてまた明日で」
「分かった」
「自分のことだっていうのに、相変わらず自分は関係ないやって感じなんだよなぁ。ま、いいけど」
こればっかりは自分の首を絞めることになるから、ちゃんと決めないとな。
今までは料理もじいちゃんがしてたから、俺の場合げんちゃんがメインでしてくれることになるわけだし。
ここはげんちゃんの意見も大事だよな。
「げんちゃん、メニューについてなんだけど……」
俺とげんちゃんが真剣に考えこんでいると、とっきーがぐいっと俺のおでこを押してきた。
「なんだよ、今考えてるんだから邪魔するなよ」
「考えるのは構わない。だけど距離が近い! もっと離れろって!」
「離れるのは別に構わないんだけどさ。とっきーも素直に加わればいいだけなはずなのに」
「俺が素直じゃないみたいな言い方をするのはやめろ」
そういいながらむくれるから、子どもっぽいだけなのかもしれない。