49.紳士からのお誘い
少し緊張しながら、メモに書かれた電話番号へ電話をかける。
とりあえず店の電話からかけたから、いたずら電話ではないと思ってもらえるはずだけどどうかな?
何回かコール音が聞こえたあと、はいという声が聞こえてきた。
「もしもし、レトロ喫茶プラムコレクトの永瀬です。北條さんのお電話番号でお間違いないでしょうか?」
「ああ、永瀬君。丁寧にありがとう、北條です。もしかして店からかけてくれたのかな?」
「はい、店の電話番号なら調べていただけたら分かるかなと思いまして」
「この電話番号を知っている人間は少ないから、知らない番号でも出るつもりだったよ」
フフという笑い声が聞こえてきた。
もしかして、連絡するのを待っていてくれたのかな?
「このまま電話で話すのもいいけど、良かったら食事でもしながら話をしないか?」
「お話できるのでしたらぜひ。どこか指定があるならそちらへ窺いますが」
「そうだな。ゆっくり話したいから、こちらへ来てもらえるかな」
北條さんが指定した場所は、駅前のリニューアルで出来たばかりのホテルだった。
話題のホテルらしいけど、美味しいレストランもあるのかもしれないな。
ロビーで待ち合わせをしたから、支度して行こう。
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新しくできたホテルはキレイで人気が出そうな雰囲気だ。
格式高い雰囲気もあるけど、リーズナブルなお部屋もあるみたいだから泊まりやすいってネットに載ってたな。
「ロビーって言ってたから、この辺りにいるんだろうけど」
そういえば普段着で来ちゃったけど、ホテルのレストランっていうなら少しカチっとした服を着てくれば良かったな。
白シャツに黒パンツで黒のボディバッグじゃ恰好はつかないか。
諦めて北條さんを探してると、柱の辺りにおしゃれな男性が立っているのが目に入る。
普段着なのかもしれないけど、品の良い薄灰のジャケットに白の長そでTシャツで灰のパンツ。
シンプルだけど似合ってるよな。
年相応だし、俺とは大違いだ。
近づくの恥ずかしい気もするけど、ここまで来たから行くしかないか。
静かに近づくと、ちょうど北條さんと目が合った。
「永瀬君、来てくれてありがとう」
「いいえ、まさかホテルとは思いませんでしたが」
「すまない、今日はここに宿泊していてね。じゃあ、行こうか」
「はい」
どこへ行くか分からないけど、北條さんにお任せしよう。
しかし、俺と北條さんと並ぶと余計に浮いてる気がして落ち着かないな。
「こちらのホテルに良いレストランがあるのでしょうか? すみません、初めてきたのでよく分からなくて」
「それなんだが、良かったら私の部屋で食事をしないか?」
「北條さんのお部屋で? お邪魔して構わないんでしょうか」
「ちょうど良い部屋が取れたから、一緒に景色でも見ながらどうかな」
まさか部屋に誘われるとは思わなかったけど、良い部屋ってことはお高い部屋なのかな。
素敵な女性と過ごした方がよさそうな気もするけど、別に断る理由もないし。
誰にも聞かれたくない話なら部屋の方がいいのかもしれないな。
俺は頷いて、ご招待を受けることにした。