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6 お嬢さま!

クララ ハイジを待ちながら    


大橋むつお 

 

※ 本作は自由に上演していただいて構いません、詳細は最終回の最後に記しておきます





6 お嬢さま!


時   ある日

所    クララの部屋

人物  クララ(ゼーゼマンの一人娘) シャルロッテ(新入りのメイド) ロッテンマイヤー(声のみ)





 明るい曲が流れ、クララはモニターのアナタとともに歌いながら踊る。踊り終えて、なぜか涙ぐむアナタとクララ。



クララ:ああ、おもしろかった。またやりましょうね。どうしたの、どうして泣いてるの?……え、わたしも……ほんと変ね、こんなに楽しいのに、こんなに友だちなのに……ちょっと暑い。


 こっちの窓も開けるわね……トドの雲もどこかにいっちゃったんでしょうね、方角から言えばこっちのほうなんだけど。


 ……あ、飛行船! 


 わあ、あんなに低くゆっくりと……シャルちゃん。ロッテンマイヤーさん。飛行船よ、飛行船! 


 テラスからお庭に出てみて。今、教会の上のあたりだから……あ、アナタには見えないわね(カメラの向きを変える)……どう、見えた? 


 ツェッペリンね……昔はもっと大きいのがあったそうよ……あれの何倍も大きいのが……追いかけてみたらって……うん、いつかはね……追いかけていって、きっと乗せてもらうわ。雲は流れて行ってカタチを変えてしまうけど、飛行船はカタチを変えないわ、検索したら、乗り方だってわかるし……それに、今日は大事なお友達が来るんだもん……え、なんか言った?……なんでもない……へんなの。


 ……飛行船、グルーっと街の空を一周するのね。まるで、わたしのことを待ってくれているみたい……。


 このとき陽気な口笛が聞こえる。


クララ:あの口笛……ハイジだわ!


 ……カメラもどすね、わたし着替えなきゃならないから。


 だって、この服はアルムで初めて立てたときに、ハイジとお揃えで買ってもらったままだもの。なにか新しい服でなくっちゃ……ハイジは、昔のままよ「わたしはアルプスの子です」って、全身で自己主張してるみたいな、トロコンハイジ。


ロッテンマイヤー:お嬢様。ハイジが、ハイジが来ましたよ!


クララ:わかってる、口笛が聞こえたわ。


ロッテンマイヤー:じゃ、お早く。


クララ:服を探してんの……。


ロッテンマイヤー:ハイジは忙しい子なんですから、お早く!


クララ:分かってるわ、ロッテンマイヤーさん!


 シャルロッテがやってくる。


シャルロッテ:お嬢さま、お手伝いいたしましょうか?


クララ:あ、ありがとう、適当にひっぱりだして見せてくれる。


シャルロッテ:……これなんか、いかがでしょう、シックなブルーでお嬢さまにぴったり。


クララ:ありがとう。でも、もすこし明るいものでなくっちゃ、ハイジに負けちゃうわ。


シャルロッテ:……じゃ、これは?


クララ:それじゃ郵便ポスト。


シャルロッテ:じゃ、こっち。


クララ:サンタクロースの孫じゃないのよ。


シャルロッテ:……じゃ、思い切ってこんなのは!?


クララ:いいけどナントカ48みたい、ちょっとセンスがね、わたし的じゃない。


シャルロッテ:じゃ、こっち!


クララ:いまいち!。


シャルロッテ:じゃ……思い切ってこんなの!


クララ:あ、ミリタリー。   


シャルロッテ お気に召しまして?


クララ:……でも、それって日本の自衛隊。専守防衛って、引きこもりのイメージ。


ロッテンマイヤー:お嬢様、ハイジ先に行きましたわよ。


シャルロッテ:お嬢さま!


クララ:大丈夫。わたしの家の前一本道だから、交差点につくまでに間に合えばいいの。


シャルロッテ:じゃ急ぎましょ!


クララ:うん!


シャルロッテ:これなんか……お嬢さま……?


クララ:……シャルちゃん、それ脱いで。


シャルロッテ:え?


クララ:クララの再出発! 一からやり直しますって気持ちでメイドのコスなんかいいと……思っちゃったぞ!


シャルロッテ:こんなの、昔のアキバですよぉ。


クララ:あんなマガイモノじゃない。だって、シャルちゃんは本物のメイドなんだもの。わたしメイドインクララになる。お脱ぎなさい!


シャルロッテ:お嬢さま……。


クララ:脱げぇ!


シャルロッテ:きゃー!


 クララ、シャルロッテを追いかけ回す。やがて捕まえて、シャルロッテに馬乗りになり、メイド服を脱がせようとする。


シャルロッテ:や、やめてくださいぃ……お嬢さまは、お嬢さまは、シャルロッテでもなく。ハイジ様でもなく。お嬢さまなんですから! クララ・ゼーゼマンでいらっしゃるんですから、クララ・ゼーゼマン!


クララ:わたし……クララ・ゼーゼマン……あ、ちょっとクラってきちゃった!


シャルロッテ:はい、クララでいらっしゃいます! なにもコスチュームなんかでごまかすことなんかありません!


クララ:そう、そうよね……クララはクララのままで!


シャルロッテ:はい、さようでございます。お嬢さまはお嬢さまであるままで!


クララ:ありがとうシャルちゃん。そうなんだ、簡単なことだったんだ。わたしはわたしのまんまで……ありがとう、このままで、あるがままのクララで行くわ! じゃあね!


 駆け去るクララ、ホッと胸をなで下ろすシャルロッテ。


シャルロッテ:ああ、やっと行ったぁ。


 クララ、駆け戻ってくる。


シャルロッテ:お嬢さま!?


クララ:髪の毛ぐらいかしていかなくっちゃね(鏡に向かって髪を梳かして)ごめん、後のことはお願いね!


シャルロッテ:はい、お嬢さま!


クララ:じゃ、行ってくるね、シャルちゃん。ロッテンマイヤーさんも、バーコードの彼氏によろしくっ!


 駆け去るクララ。しばし呆然のシャルロッテ。


ロッテンマイヤー:シャルロッテ!


シャルロッテ:行かれましたよ、今度こそ……。


ロッテンマイヤー:ああやって、時間をかせいでいらっしゃるのよ。ハイジが交差点まで行って行方が分からなくなるまで……そして「間に合わなかったわ」って戻ってきては、この繰り返し。


シャルロッテ:そんなことありません。さっきはセーラー服でしたけど、今度は……今度は、ご自分のまんまで出かけられましたから。ね、そう思われるでしょアナタ様も(片づけようとする)


ロッテンマイヤー:放っておきなさい、それくらいご自分でできるようにしていただきます!


シャルロッテ:だって……。


 窓の外、この家に向かって来る男に気づく。


シャルロッテ:あ、あのバーコード!……ちょっと、おじさーん! うちのロッテンマイヤーさんに御用ですかぁ!? え、通りかかっただけ? そんなこと言わないでぇ、ちょ、待って! ロッテンマイヤーさーん、バーコ……バルコニーの下に彼氏さんっすよ! 早くしないと行っちゃう!


ロッテンマイヤー:え、あ、ちょ、いま手が離せなくて、て、テーブルクロスとかね……(''◇'')ゞ


シャルロッテ:ああ、もう手がかかるなあ。おじさーん! そこらへん一周してから戻って来てぇ! あ、アナタ様も、コンビニに行くついでにお散歩とか(^▽^)。じゃ、切りますね。えと、パソコンはむずいなあ……これかぁ?


 陽気なテーマ曲カットイン。


シャルロッテ:あ、ちがったぁ! ああ、もうあとあと! ロッテンマイヤーさん、わたしやりますからあ!



 シャルロッテそでにハケ、テーマ曲流れるうちに幕。


 


※ 本作は無料上演である限り作者名「大橋むつお」を記していただければ自由に上演していただいてけっこうです。上演許可も取らなくてかまいません。チラシやパンフレット、中高生の場合はコンクール等で連盟に提出する書類等に作者名「大橋むつお」を明記してください。連盟から上演許可書を求められる場合はメッセージなどでご連絡ください。書類を返送用の封筒を同封のうえ送っていただければ必要事項を記入して返送いたします。

 大幅な脚色、たとえば、登場人物が増えるとか減るとか性別が変わるとか、劇中のエピソードや台詞が変わる時は脚色者を記していただければ幸いです。



 2024年10月 大橋むつお


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