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アサガニシガ一阿沙賀と悪魔と大江戸学園七不思議  作者: ウサ吉
第四幕 阿沙賀と迷子と姉妹喧嘩
89/115

89 色はなく真でもなく、ただの偽物


「――……っ、いま」


 それはすこしだけ時間を遡って別の世界、徹底的に封鎖されたどことも繋がらない孤立亜空間スタンドアローン


 そこに封印されているのは五柱の悪魔――試胆会の悪魔であった。

 命恋イノチゴイのシトリー。

 賭縛トバクのコワント。

 嘆溺タンデキのフルネウス。

 鏡相キョウアイのアルルスタ。

 そして殴我オウガのバルダ=ゴウド。


 迷亭が不在なのは、彼女だけさらに隔離されてひとりでまた別の場所に封ぜられているからである。

 強固な封印と封鎖を重ねがけしたこことも違うどこか。縁故が繋がるはずのこの場の者にさえ感知できない。

 それだけ、魔女は警戒されている。

 悪魔にとっても彼女の生態は不明が多く、その実力の底が見えていないからだ。


 迷亭を除く五名は、彼女に比すれば随分と大雑把に捨て置かれていた。

 ひとまとめにされて放置され、ここに押し込まれてからなんのリアクションもなくひたすらに静か。


 なにもなくなんでもないその空間は、変化というものがない。

 そのため時間経過もわからず、位置関係なんてもってのほか。

 だからだろうか。

 時が止まったような静寂がゆえに、ほんの微細なその気配に気が付けた。


 一番に気が付いたのは、ずっとずっと空間的な変調を探っていたアルルスタ。


「今、なにか感じたヨ」

「あぁ、こりゃ遠凪だな。縁故が反応した」


 続けて勘付いたのは空間技能に長けたフルネウス。亜空間の壁をすり抜けて、繋がる縁故を感知した。

 すると死んだように停止していたシトリーが跳ね起きる。興奮に息を切らせてその名を呼ぶ。


「てっ、てことは! 隣にあっ、阿沙賀がいるってことか!」

「そりゃわからんが、たぶんな」

「ふはは、いるさ。間違いなくな」


 そこまで読み取れないフルネウスが肩を竦めると、なぜかコワントが力強く請け負う。彼は特になにかを感じ取っているわけでもないはずだが。


 バルダ=ゴウドもまた探りをいれる。

 空間的な技能は高くもないが、戦力を計るという点においては彼も有能。つまり魔力感知である。  


「確かに。高魔力反応がふたつ――公爵級だな。片方はまず間違いなく阿沙賀の共だろう」

「じゃあもうひとりはワタシたちを封じてるヤツ、だネ」

「あ?」


 アルルスタの発言に、フルネウスは首を傾げる。


「今回の敵は大江戸・遊紗だろ? オレ、捕まえられたぞ」

「うん。ユサもいたネ」

「だがあの時、もうひとりいた。少なくとも、オレは見たぞ」

「ワタシも!」


 遊紗と公爵の悪魔を目撃したと証言するのはバルダ=ゴウドとアルルスタ。

 それを知らなかったコワントは、人選から見て推量し納得をする。


「伯爵連中にはまだ大江戸・遊紗ひとりでは心もとないと判じたのだろう。本命はさらにいたわけだ」

「うわぁ、マジか。阿沙賀に言いつけちまった」


 ――今回の敵は大江戸・遊紗だ!


 けっこう高らかに力強く言ってしまったのがちょっと恥ずかしいフルネウスである。

 呆れたようにシトリーが。


「ふっ、ふん。おまえみたいな低能と阿沙賀を一緒にするな。大江戸・遊紗ひとりの犯行とはおっ、思えないだろうが普通に」

「なんだと根暗。お前なんか阿沙賀に会うこともできないで捕まってたじゃねぇか」

「なっ、な、なにを! ちょっと逃げ足が早いだけのくせにえっ、偉そうに!」


 うがー、とこんな時でも喧嘩し始めるフルネウスとシトリーは置いておき。

 

「それで? 助けは来そうなのか?」


 とコワント。

 バルダ=ゴウドは否定の色を強く答える。


「難しいだろうな。敵が多い、公爵もいる。それに」

「そうであった。今回は敵方に大江戸・遊紗がいるのだったな」

「アサガはたぶん、迷っちゃうよネ……」


 アルルスタもまた遊紗が敵になったことに疑惑と悲哀を感じていた。

 遊紗が九頭竜どもに狙われていた時、ごく短い期間だがその護衛として周囲の友人になっていたため、彼女にもまた思うところがあるのだ。

 そして、そういう感情で言えば仲の良かった阿沙賀はアルルスタどころではなかろう。


 友人のために悪魔とも戦える男は、友人が敵に回ってしまえばどうなるのだろう。

 すくなくとも悲しいだろう。辛いだろう。

 それでも拳を握るのが阿沙賀であるが、思いはどうにも振り切れはしまい。


 あぁこんな時こそ傍にいて励ましてやるのが友達というもののはずなのに、どうしてアルルスタは彼の隣にいないのだ。

 囚われてしまったことに、今更ながら一人歯噛みし悔しく思う。


 そういう感情は、きっと他の面子にもあって。


「では、阿沙賀が勝つに賭ける他ないのか? なんとも、情けないな……」


 ある意味ではいつものことだが、すこしモヤついた感情が皆に巣食う。

 今回はこっちが人質にされた状態であり、完全な阿沙賀任せ阿沙賀頼りになっている。そこのところに、どうも腑に落ちない。

 試胆会は決して阿沙賀の率いる集団ではないし、そもそも手を取り合っているわけでもない。

 誰も彼も自由にやって思うまま。その放埓の中で奇妙に噛み合った部分があって同じ方向を向ける、それだけの集まりのはずだ。


 それが、阿沙賀にばかり負担を強いて檻の中で助けを待つだけの不様。

 そんなのは全然対等じゃない。おんぶにだっこでいたのでは、一緒に腹から笑えない。


 ――アルルスタは覚悟を決めた。


「助けヨ、アサガを。みんなで」

「しかし実際どうするのだ、この空間は強固。我らが足掻いたところでビクともせん」


 当然、捕えられて当初はこの空間から抜け出るためのあらゆる方法を思案し試行している。

 五人も揃っているのだ、それぞれで考えて話し合い、そして力を合わせた。


 それでも一切が無駄と悟れたのなら、あとは力を温存して時期を待つのみ、と結論づいていた。

 その結論を覆す方法など、今の彼らにあるのだろうか。


「あるヨ、方法」

「!」


 その一言には、喧嘩していたシトリーとフルネウスさえも停止させる威力があった。

 全員がアルルスタに詰め寄り仔細を語れと目を光らせる。


 アルルスタはもったいぶるようにまず前提事項から滔々と話し始める。


「まずサ、ワタシの顕能『相克する合わせ鏡(ドッペル・グルッペ)』についてなんだけど」

「は? 何の話だよ、大事なことか?」

「順序ってあるでショー? 大事なことだから、ちゃんと聞いてヨ」


 語調の軽さとは裏腹に、アルルスタの声音には深刻な響きが伴われている。

 なにせそれは手の内を明かそうという宣言だ。


 悪魔にとって顕能は自らの魂そのもの。それの詳細を説明するということは自らの心の内をさらけ出すのにも似ている。

 たとえそれが試胆会という縁故もった相手であっても、彼らは完全に手の内を明かし合っているわけではない。なにか裏技や隠し技、もしくはリスクや弱点を抱えている。一部例外を除いて、だが。


 そしてアルルスタはその能力の性質上、他のメンツの顕能すら写し取って理解している。

 それがすこしだけ後ろめたく思っていたこともある。一方的な情報アドバンテージを得ていることに、ズルさを感じていたのだ。


 だから自分の顕能を明かすことに、アルルスタは意外なほどに抵抗を感じていなかった。


「まずワタシの変身には四段階あってネ」


 表層変装(ステージ1)……外見の変装。

 御心身写(ステージ2)……心を写す。変身でなくその時の心の情報を得るだけ。副次的な読心をなす分、多少の人格影響を受ける。


「ここまでは、割と簡単にやっちゃうかナ。能力的にはワタシのままだし」

「あっ、阿沙賀にちょっかいかけにいく時とかか」

「そうだヨ!」

「ずっ、ずるい!」

「根暗うるさい、話の腰折るな」


 うるさそうに言って、フルネウスは続きを促す。これを聞くまで先に進まないというのなら、さっさと終わらせたいフルネウスである。

 残るコワントやバルダ=ゴウドは沈黙してフルネウス側に寄っている。シトリーはしぶしぶながら口を噤む。


「で、ここからがワタシの本領になるヨ」


 すっと、そこでアルルスタの声と表情から感情が死ぬ。

 無表情に抑揚なく、彩りない素面でアルルスタは言う。


双魂相剋(ステージ3)……魂の同居。ワタシの魂を分割し、片方を変身させ残る片方に自分の情報を残す。その割合により変身の完成度と操作性が変わる。前者を増やせばより近しくなるが、その人格が強く反映されてコントロールが難しくなる。自他の魂が常に争っている状態と言ったところか」


 アルルスタの能力の本質はまさにこの双魂相剋(ステージ3)にある。

 他者の姿かたちと心を模し、他者の能力を振るい、他者になり替わる。


 その真髄は自らの魂の割合をいかように傾けるかにある。

 自己を減らして真に迫る。その分だけ制御が覚束なくなるが、意向を無意識に刷り込むような形で可能な限りオリジナルの要望に沿わせるという動き方をする。そのため百パーセントアルルスタの望んだ行動をとれるわけでもなく、変身対象に近くなるほどその人物そのものの思考回路が優先されてしまう。


 その上、リスクは前ふたつのステージから跳ね上がる。

 人格汚染が酷く、そのままであり続ければ最後には自己人格のほうが失われかねない。

 また元に戻る際にふたつの魂をひとつに統合がする際にも危険があって、使い勝手は悪いと言わざるを得ない。


 そして、ならば次の段階は。


「ん? 待て。それが三つ目か? さらに、上があるってのかよ」

「……」


 アルルスタは無色のまま頷いて。


転生変性(ステージ4)……ほぼすべてを他者になり替わる。双魂相剋(ステージ3)で分割した魂を、極限まで他者にして自分を奥にまで沈める。もはや完全ななり替わりであり、ワタシであった記憶もほとんど残らない。深層心理に変身直前のワタシが刻まれて、ほんのわずか影響がある程度」

「それって、もう……」

「そう、ワタシはそれで一度死んだ」


 自我は徐々にすり減っていき、数時間ほどで完全にアルルスタという魂は消えてなくなる。

 とはいえ一応、完全にアルルスタの魂を失うと顕能自体を失うことになり、直前で強制解除されるにはされるが……その間に著しく自我は崩壊している。

 失われたぶんも自分に変身することで補完した。ただ失われたのは確かで、今は模したものに過ぎない。


「……自爆技ということか」

「そう。確実にアルルスタは二度目の死を迎える、そういう顕能の使い方」

「そっ、それがなんだよ。それと今の状況とど、どう関係がある」


 わかっていながら、シトリーは問いを発した。

 わざわざ説明したのはそれが必要だから。自殺行為をしでもしなければ、この空間からは逃げ出せないと、ただそれだけのこと。


「これは説明したこともあっただろうけど、『相克する合わせ鏡(ドッペル・グルッペ)』はワタシより低い爵位の相手にしか完ぺきにはなれない。同位階でも縁故が結ばれているなどという例外でもなければ劣化が起こって、上位にはガワを似せる変身くらいしかできない」



「――その制約を、転生変性(ステージ4)は無視する」



「!」


 驚き、言葉を失くす面々を見据えて、アルルスタはやはりまるで感情をこめずに言う。


転生変性(ステージ4)を使う。ワタシがこの空間の主である悪魔に変身する」

「!」


 一目見た。その魔力を感じた。

 それだけで、アルルスタは他者に変身できる。

 そして変身できるのならば。


「この世界を作った自分である以上、この世界から抜け出す穴を開けられない道理はない」

「だっ、だがそんな……できるのか? 公爵ヘルツォークだぞ」

「可能だよ。ただ無論、魔力量はワタシのままだから、随分とスケールダウンにはなる。なるが、その人物であることに変わりはないし顕能は使えるとも」


 他の悪魔に変身して、そいつの顕能を使用する。それはアルルスタの十八番と言っていい。

 つまり閉鎖されたこの空間から抜け出すことは確実にできる。

 アルルスタの犠牲をもって、だが。


「ばっ――か野郎!」


 そこで怒号を発したのはフルネウスであった。

 感情的にありったけ叫ぶ。


「馬鹿かお前! そんな、そこまで……なんでそんなことする! 意味わかんねぇよ!」


 別にいいじゃないか放っておけば。

 阿沙賀なら試胆会の手を借りずともなんとかするだろう。遠凪だっている。公爵の契約悪魔だって。あいつらに任せておけばこちらがリスクを負わずともなんとかなるはずだ。


 本当にそうだろうか。


 この場の全員がうすうすと感じ取っているが……今回の敵は今までとは違う。

 阿沙賀には倒したくない相手がいて、倒していいのかわからない相手がいて。

 それに敵が自覚的でつけ込んでくる。

 阿沙賀は真っすぐで、真っすぐすぎるからそういう相手は苦手。


 ただぶちのめせばいいシンプルならば格上でも殴り飛ばすけれど、そもそも勝負ができなければ逃げおおせられる。

 敵の目的が阿沙賀を仕留めることにない場合、放置される可能性がある。その上で目的を達成され――きっとそれは阿沙賀にとって愉快な結末にはならない。


 ではどうするのか。

 決まっているだろう、助けるのだ。

 だって、だってアルルスタは――


「友達だから」


「っ!」


 その言葉は色付いて、確かな感情に彩られている。

 偽物なのに、偽物なんかじゃない。


「友達だから、助けたい。当たり前でショー?」

「…………」


 一切の迷いなく断ずるアルルスタが眩しくて、フルネウスは視線を逸らす。返す言葉もない。

 怒りはどこかへ消え去って、残っているのは困惑ばかり。鋭い歯を噛みしめて、フルネウスはなにかを堪えるように沈黙した。


 急に黙りこくられて首を傾げるのはアルルスタ。


「? どうしたのかナ、フルネウス」

「奴はあれで意外に我々の中で一番悪魔として常識的なのだ。思うところがあるのだろう」


 ここは常識外れの大江戸学園。

 それは人間側から見てだけではなく、悪魔からしても奇妙におかしな奴らが集う。


 悪魔が人間を友と呼ぶこと。そのために命を懸けること。それは当然ながら魔界の常識から外れている。

 シニカルで冷めたタチの多い悪魔にとって、人間は餌や玩具と見なすのが通常。

 それを、フルネウスは知っている。そういう立場であった頃もある。


 指摘したコワントだってわかっているが彼は――いや、フルネウス以外の試胆会のメンバーは、割り切っている。

 魔界から出たこともない、実際に人間を見たことすらない輩の意見などくだらない。

 事実こうして目の当たりにする人間の魂の凄絶さは言いようもなく素晴らしい。

 だから常識的な意見なんかで自分を曲げたりはしない。

 そのように腹を定めている。


 そこまでほだされていないのがフルネウス。

 大江戸・門一郎に召喚されて早五十年近く、未だに魔界の感覚を強く引きずっている。悪魔としてスタンダードな性質な分、どこかまだ馴染めていないのかもしれない。

 

 アルルスタは心も体も変化し続ける悪魔、そういう固定観念にはあまり囚われないせいで逆にフルネウスのことがわからない。


 とはいえわからないことを悩むよりも話を進めるべきだろう。

 シトリーが冷たくフルネウスを蚊帳の外へ置く。

 

「さっ、サメのことなんてほっとけ。それより本気なのかア、アルルスタ」

「ジョークでこんなこと言えないでショー?」

「しかしなり替わったあとのおまえは別人なのだろう。我らを外に出してくれるものなのか?」

「そこは、すこし賭けになるかもネ。割りのいい賭けだとは思うケド」


 変身直後であるのなら、アルルスタの意向は反映されやすいはず。

 むしろ一挙動程度が限度だから、本当にここの出口を作るくらいしかできないが。


 懸念事項はまだある。


「魔力は足りるのか? まず公爵に変身するだけでも相応に魔力を消費するはずであろう。その上で公爵の顕能を使うとすれば、生存の意味で拒否反応が発生するかもしれん」


 こういう時は深い思考を回せるコワントである。賭けるにはまず状況を正しく把握してからなのだ。

 当人もそこまで考えていなかったらしく、ちょっと考えて。


「そう――だネ。そうかも。たぶん、もしかしたらちょっと足りないかも――じゃ、仕方ないネ。それを補うために虎の子を使うヨ」

「! そっ、それは……まさか」

「ウン、モンイチローの魂。ここが使い時でショ」


 それは大江戸・門一郎と交わした試胆会契約、その最終項。

 ――試胆会メンバーは門一郎の死の直前に、彼の魂の欠片を渡されている。

 ある条件を飲むことでそれを食らうことを許可され、逆を言えば条件が飲めないのなら宝の持ち腐れ。


 そして、未だ誰一人としてその魂を食うことはせず、懐に抱えたまま。

 どれだけ魂を捧げられても、その条件は飲めない。本末転倒だ。


 それをよく理解しているからこそ、アルルスタの決断はさらに重い。

 それだけこの状況を危険視していて、いつになく阿沙賀のことを心配している。


 殊更明るげにアルルスタは言う。抱えたはずの不安や心配なんて感じさせない演じた彼女のいつもの笑顔で。


「どーせ今のワタシは死んじゃうワケだし、次のワタシはきっとイジワルだから……先にちょっと嫌がらせしちゃおっかナって」

「馬鹿なことはやめろ!」


 やっぱり否定を叫ぶのはフルネウス。

 彼は善良ではないけれど仲間意識はあって、進んで犠牲になるアルルスタに言いようのない苛立ちがあった。


「門一郎との最終契約……あんなの履行するようなもんじゃないだろ! ()()()()()()ぞ!」

「んー。フルネウスってば引き留めてくれるのはうれしいケド、キミはやっぱり悲観的だネ」

「なに?」

「大丈夫大丈夫、たぶんきっと、そこらへんはアサガがなんとかしてくれるから」

「は? なんとかってなんだよ」


 アルルスタはそれに答えようと口を開いた、それより先に低い声が伝える。


「おい、話しているうちにあいつら、向こう側からすら去ったようだぞ」


 不意に瞑目して黙っていたバルダ=ゴウドが目を開く。

 それは彼女を止めるためだったのだろうか。それとも単に機を見計らえというだけのことなのか。

 ともかく確かに隔たった向こう側の空間から遠凪の反応は消えていた。死んだわけではないのなら、そこから去ったということだろう。


 話し込みすぎて、向こうの動きに連動できなかった。今ここで向こうに乗り込んでも無意味だろう。


「ん。ザンネン。でも、アサガならすぐに戻ってくるヨ、それを待と……みんなはしっかりアサガを助けてあげてよネ」


 自分は道を切り開くことまでしかできないから。


 悲愴に告げるアルルスタに、残る試胆会の悪魔たちはなにも返すことができず、世界はどこまでも静か。

 託されたものにどう応えればいいのか、それぞれの覚悟が問われている。


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