100 心の在り処
――阿沙賀にとって、啓術使いとの戦闘は鬼門である。
それは彼がニュギスと結ぶ契約が対悪魔に特化していて人間を相手にすることを想定していないからだ。
ニュギスに借りられる魔力は、敵対する相手の魔力量を超過できない。
つまり突き詰めて言えば魔力をもたない人間相手では、ニュギスから魔力を一切借りられないということになる。
契約でそうなっている以上、ニュギスはそれに反した行動をとれない。契約以前のように、気まぐれに魔力を分け与えるなんてこともできないのだ。
そうなると阿沙賀は啓術使いという人外の力を取り扱う人間を相手に、素の力で挑まねばならない。
ならばニュギス以外から魔力を借りればいいのではないか。
しかし阿沙賀に魔力を貸してくれるような悪魔は試胆会の悪魔くらいだろう。いや、契約もしていないのに魔力をくれるような相手がいる時点でおかしいのだが、今はそれはいい。
問題は試胆会の悪魔ということ自体。
割と今更ながら、試胆会の悪魔たちは儀式を突破した相手としか契約を結ばない――そういう条項が、試胆会契約には存在する。
だからいくら切望されても阿沙賀は再度の契約を、七不思議の悪魔たちと結ぶことはできなかった。グウェレン許すまじ、だ。
そして契約が結べなければ縁故も結べず、縁故がなければ魔力をスムーズに貸し出しもできない。
その抜け道が彼女である。
「――『糸おしく糸わしく』」
「コワント、魔力借りるぜ」
「ほう、受諾の意味もあったようだな――やれい阿沙賀、存分にな」
メリッサに疑似縁故を繋いでもらい、繋いだ縁故からコワントの魔力を受け取る。
一歩踏み出す頃には魔力を漲らせた阿沙賀がさらなる加速をかけている。
応ずる遊紗は焦ることもなく啓術を編む。一直線のわかりやすさに慌てる必要もない。
「『空所固定』」
「!」
横っ飛び。
虚空で展開された不可視の箱を回避する。
以前のように捕まって身動き不能の不様は御免である。
ステップを踏むように足捌きは流麗、逸れた進路を即座に修正。重心操作の妙、横にズレたはずのベクトルを前方に戻して前進加速する。
速い。遊紗では対応が間に合わない。
迅速に間合いは詰められ、拳は振り下ろされる。
しかし寸でで停止。
「壁があンな?」
「……『無形出力』」
返答は無数の弾丸だった。
遊紗と阿沙賀を隔てているはずの壁をすり抜け、生命力でできた弾は撃ち放たれる。
一発一発は大した威力でもないが、掃射された数が膨大。
阿沙賀は思い切りしゃがんでおおよそ回避するもいくつかは肩や額に直撃。ぶん殴られたみたいな衝撃を受けつつも退かず、脚を鞭のようにしならせ蹴りをいれる。脛を狙った足払い。
しかし遊紗に触れる前になにかにぶつかり、防御されたと悟る。
「ち、防御は万全ってか」
「先輩って、ほんとうに啓術も見えないんだね」
「もうちょいで慣れてきそうなんだがな」
阿沙賀に啓術の才能も空間への親和性も皆無である。
故に空間を弄る術を感知することはできず、有形でないものはニュギスから目を借りなければ見えない。
だが現在、ニュギスとは別空間に分断されてしまい、縁故での通信が乱れている。いつもより大きく恩恵が削がれている。アティスの妨害だろうか。
目の借り受けで言えば、特に契約外の副次作用であるためそれが顕著であった。
だいぶぼやけてしまって遊紗の啓術をしっかりと見えていない。正確に把握するには叩いて確認する他ない。
阿沙賀は二度目の命の弾丸射出を読んで逃げるように後退。
距離を置きさえすれば数が多くても拳で打ち落とせる。
「ゥオリャ――!」
ほぼ勘働きで弾丸を凌ぎながら思考する。
遊紗は足先から頭頂部まで丸っと空間を固定して守っている。それを砕くか剥がすか、なんとかしなければ拳が届かない。
しかしだいぶ硬い。
コワントの魔力しかない今の阿沙賀ではすこしだけ手間取る。強めに魔力を拳に注ぎ込んでなんとかといった具合と推察する。
しかし魔力の集中はおそらくすぐにバレる。警戒される。
相手は空間使い、行く手を阻む壁だけではなく空を経ずして移動する術もあるはず。
力で挑めば速さに逃げられ、速さで攻めれば硬さに阻まれる。
魔力使用に偏りを作ると相手の土俵に踏み込むことになる。
ならば例の顕能を使えばとも思うが……
(悪いねぇ、ちょっと今忙しくってさぁ)
とか顕能管理人格がのたまう。使用できない。
(どういうことだボケェ! 今だいぶ正念場なんだが!?)
(わかってるけど、こっちにも事情があるんだよ……もうすこし、もうすこしだけ持ちこたえてくれないか)
いや管理人格が忙しいってなんだよ。
おれの魂の中でなにやってんだ、なにが巻き起こってんだ。当人のおれがなんにも把握できてないの、大丈夫なやつですか?
(うーん? はは、秘密)
(ざけんなー!)
(いいのかなぁそんな言いぐさで。こっちもがんばってるのになぁ、全速力のつもりなんだけどなぁ……ちょっと手を抜きたくなるよね、そういうこと言われちゃうとさ)
(迷亭みてェって最悪な罵倒をおれ自身にしなきゃいけないなんて世も末だな!!)
畜生。
わかった、わかったよ。お忙しいのね。わかったよ。
でもね? それを踏まえてね? なんとかならないの? ちょっと、ちょっとだけでいいから出せないの?
(無理。がんばって凌ぎな)
それだけ言い切って、以後オモワレの気配はふっと消え去る。
力のコントロールが完全ではなく、いつでも自由に発動とはいかない。
それはわかっていたが、それにしたっておれの別人格自由すぎねェ? くそァ!
不確定要素に頼るわけにはいかない。
とりあえずは顕能なしで時間稼ぎ、もしくは勝機を見出す必要がある。
――やりゃいいんだろうが。
阿沙賀はあえてこれ見よがしに右拳に魔力を集める。おそらく固めた虚空を砕けるだろうくらいに。
そうすることで遊紗の警戒を誘う。一瞬の身体の強張りを見て取り、阿沙賀はさらに言う。
「次は防げないぞ」
「!」
弾丸の切れ間を縫って接近。
雨あられのごとき攻撃をかわして弾いて突破する。すこしも怯まない。
その愚直さは喧嘩慣れしていない遊紗には脅威だ。
遠凪のように術での戦いならばまだ考える余裕があったが、こうも速攻で単純に攻められると判断に遅れる。
瞬発的な思考、反射神経での選択は天性のものもあるが、なにより繰り返した経験が物を言う。
無論、二週間前までごく普通の女子高校生であった遊紗は喧嘩さえしたことがない。人を傷つけることさえ躊躇う心優しい少女であった。
そんな遊紗が心を鬼にしてでも戦場に立っているのは、もうそれだけで痛々しい。
――けれどもぶん殴る。
そういうところ容赦ない阿沙賀である。
「っ!」
想定通りに拳は盾となった『空所固定』を貫通し、だが失速。弾かれた。
それでも穴は開いた。その穴が修復するより先に左拳を捩じり込む――
「ぺっ、『空間転移』――!」
流石に二発目のパンチよりも先に遊紗の啓術のほうが発動した。
ゼロ時間移動――空間を経ずして時間を経ずして別の場所へ転移する。
「――」
その転移先は阿沙賀には感知できない。
けれども勘と推察でもって踏み込み、真後ろに反転。自らの決断に迷いを挟まないで突っ走る。
――そこに転移された遊紗と目と目が合う。
「!」
初動が早かった阿沙賀と。
驚愕して硬直してしまった遊紗。
たった一瞬間の両者の対応の差は、残酷なほど明暗をわける。
既に駆け出していた阿沙賀はすぐさま遊紗に接近。近接。拳の間合い。
躊躇いなく打ち放たれた拳打は『空所固定』に穴を穿つ。
できるだけ先ほどの穴を狙ったつもりだったが、やはり見えないとすこしズレてしまったようだ。いや、遊紗が『空所固定』を動かしていたか?
関係ない――何度でもぶちこんで壁を粉砕すればいい。連発する。
遊紗からすれば恐怖である。
逃げた先を即座に看破されて急襲されるなど、息つく暇もない。怒涛のように拳が押し寄せてきて防御が崩れていく。
どうすべきか。猶予は僅かしかない。
『空所固定』で貫かれた部位を修復すべきか。
『空間転移』でまた跳んで逃げ出すべきか。
それとも、それとも……。
「――考え事なんて余裕だなァ!」
迷いは戦いに禁物。
一切迷わない男の拳が遂に壁を乗り越え遊紗まで届く。
反射で回避され頬をかする程度だが、ようやくの接触だ。
このまま一気に――
乱暴で力尽くな暴力を前に、遊紗が選んだのは逃避だった。
「『空間転移』っ」
今度の転移先は空中、阿沙賀の届かない高さに跳んで虚空を固めて足場とする。これなら追撃の手も鈍るだろう。
実際のところ魔力強化された阿沙賀の脚力なら跳躍一度で間合いに収めることは可能だろうが、しかし一撃は耐えきれることは証明済み。
跳躍しかできない阿沙賀は打ち込んだ後は落ちるだけで、そうなれば落下時は無防備。簡単に捕まえられる。
それを阿沙賀もわかっているはずという意味で、さっきのような速攻は難しいはず。
遊紗はようやくできた隙間に必死で息を整えながら、見上げている阿沙賀になんとか軽口っぽく文句を。
「……先輩、怖いって」
「喧嘩してんだ当たり前だろ」
「それにしても後輩の可愛い女子にそれはないでしょ」
既に遊紗を守る空間の固定は穴だらけ。維持もできずに崩壊していた。急ぎ再度の展開を。
阿沙賀は肩を竦めて別方向に言う。
「後輩の可愛い女子にアドバイスしてやると、スカートで透明な板に立つのはやべェと思うぞ」
「お兄さんと同じこと言う」
「見るからに危ういからな、誰でも言いたくなるわ」
「先輩は紳士だから見上げたりしないでしょ」
「喧嘩相手から目を逸らすわけねェだろ」
「えっちぃ」
「そう思うならはよ降りて来い」
「やーだ、よ」
「!」
阿沙賀は弾かれたように跳び退く。
見えないくせに勘だけで空間的な捕縛を回避する。
だが高さという隔たりがある以上は反撃は難しい。このアドバンテージの上、遊紗は一気呵成に畳みかける。
連続の『空所固定』、阿沙賀を見えない檻に捕まえようと繰り返す。
「……」
しかしその回避は大して難しくはなかった。
こういう状況、敵を捉えようとする際、あまり狙いを絞りすぎてはいけないものだ。
標的は動くのだから、今いる場所を狙っても間に合わない。相手の動きを予測して、逃げた先に先手を打っていくべきなのだ。予測ができないのなら当てずっぽうでもいいから、ともかく現在位置からズラして仕掛けるのが正解。
それを、遊紗はわかっていない。
いや理屈の上ではわかっているのかもしれないが、動きがそれに徹し切れていない。戦闘の不慣れが響いている。
そこまで踏まえても、全てかわし切っている阿沙賀のこなれた立ち居振る舞いのほうが異常であるが。
とはいえ遊紗も自覚はしている。
簡単に捕まらないのなら、その軽やかな身のこなしから封殺していく。動ける場所を制限する。
「!」
気づけばそこら中で空間が固められている。
阿沙賀の捕縛のために展開した『空所固定』を、その場に残しているのだ。
それはつまり、阿沙賀が一度立った場所に障害物が設置されているということ。
舞い踊るように逃げ惑う阿沙賀の移動先が順次減り続けているということ。
気づいてすぐに、阿沙賀は冷静に自分の回避した移動ルートを想起する。記憶と照らし合わせつつ、空白のスペースを縫って回避を続行。立ち止まらない。
時間とともに空いた場所は埋まっていくのが阿沙賀のぼやけた視界にも見える。
「…………」
そう、ぼやけているとはいえ、阿沙賀には『空所固定』がかすかに見えている。
その配置も形状も、高さも。
これ以上の封鎖をされると。移動に支障をきたすかもしれない。
頃合いか。
ぐいっと。
不意に阿沙賀の動きがこれまでとは違ったものになる。膝を曲げて力を込めて、バネのように跳ね上がる。
「!」
ついに遊紗を直接叩き落しに来たか。
それならこちらは防御を固めるだけ――違う。届いていない。
阿沙賀の跳躍は随分と中途半端、遊紗の高さには届かずその半分程度の中空で、着地をする。
「えっ……あっ」
遊紗の残した『空所固定』。それを足場に阿沙賀は立っている。
「くっ」
すぐにそれを消してしまうが、そこ頃にはぴょんと跳んで他の『空所固定』の上に。
無数に展開した『空所固定』が今や阿沙賀の足場となってしまっている。
「だったら――」
「全部消すか? そりゃふりだしだろ」
「!」
確かにそうだ。
阿沙賀の逃げ場をなくすために展開した壁をすべて取り払ってしまえば、また攻撃のあたる余地がなくなる。
かといってそのままにしておけば足場にされる。
先を見据えて『空所固定』をもっと違う形状にしておくべきだったのだ。はじめから。
「――だから考え事してる暇なんざねェって」
考えるより先に、阿沙賀は行動している。
既にその身は跳びあがり、跳び越して、遊紗を包む固定の上に立っている。
「上!?」
「こいつは足場にするのも用途のひとつだって、遠凪の戦い方で知ってたはずだろ?」
答えは待たずに拳を振り下ろす。
遊紗の動揺のためか、阿沙賀がより一層の魔力を込めたか――『空所固定』は一撃のもと粉砕される。
足場ごと失い、遊紗は落下。阿沙賀も落下。
恐怖から反射的に遊紗は空間自体を歪めようとして――
「捕まえた」
「!?」
阿沙賀に抱き留められて思考を失った。
差し出すように背と太もも辺りを左右の腕で支え持ち、自分の腹の位置まで抱え上げる。いわゆるところのお姫様抱っこである。
遊紗が真っ白になっている内に阿沙賀はふつうに地面に着地、腕の中には衝撃も与えない。
正気を取り戻したころには身動きできないくらいがっちり掴まれている。
顔が近い。互いの呼吸音も聞き取れて、目が合うと瞳孔の色合いまで見えてしまう。
そのあまりの近さが遊紗の首もとを朱に染めて、それが自覚できて、遊紗は誤魔化すようにふいと顔をそむけた。
「先輩の戦い方、ズルくない?」
「初心者狩りには予想外をぶつけるのが一番だからな」
場数の少なさは想定の甘さを生む。
そこを付け込む形で想定外をしてのけ、直面したそれに思考を割いた隙を穿つ。
新米に難易度の高い問題を連続で吹っ掛けているようなもの。
卑怯と言えば卑怯かもしれない。
「先達としてどっしり構えててよ」
「んな余裕あるかよ」
今だって別に油断はしていない。
捕まえたは捕まえたが、これで負けを認めてくれるほど潔くはないだろう。
力尽くで暴れて逃げ出すだけなら押さえ込めるが、啓術を使われると難しいかもしれない。
この態勢ではこちらから攻め打つこともできないし、阿沙賀としては割と困った状態だ。
とりあえずの時間稼ぎにはなるため、どうこの状況を維持するかを考えるべきだろうか。
いや、見方を変えれば言葉を交わすチャンスではある。
いつもと違って暴力だけで解決しない敵であるところの遊紗には、言葉でもって打ち込むことも必要だろう。
すれ違いや誤解を解くには、懸命な言葉で訴え続けるしかない。
「――悪魔は嫌いか、遊紗」
「……きらいだよ、すっごく」
いつかと同じ問い。
いつかと同じ答え。
阿沙賀はそこから踏み込む。
「小ェこというなよな。ひとだ悪魔だ、そんな括り分け程度で全部を決めつけるなんて、オメェにしてほしくはないぜ」
「名前でよんで」
「あー。わり、そうだったな遊紗」
謝罪し訂正して続ける。
「一側面だけでそいつを嫌うのは簡単だ。そこ以外を見なければいい。けど、それじゃ狭量だろうが。それだけじゃない。単一の情報だけで完結する人格なんてない。だから向ける感情だってひとつじゃ足りねェ」
――ひとつに染まらず揺蕩って、気分でコロコロ心変わり。
と、これはたしかアルルスタの言葉だったか。
心というものをよく知る悪魔だけに、その表現は的確だと思う。
人の心は捉えがたい。
それは自分の心でさえも。
「たとえば大江戸・門一郎、おれはあいつが嫌いだ。だけどその大江戸・門一郎のお陰で生きていられるのも事実で、遊紗たちに会えたのも、本当なんだよ。
悪魔だって同じだ。巻き込んで危険を呼んで、でも、一緒に歩いて助けてくれてた」
悪魔という種族が強烈に印象付けられて、その全体を嫌ってしまうのはわかる。
けれど本来は種族という単位でなんて見ることはできない。人間は部分部分しか認識できないのだから。小さな一端だけをより集めて全体像というぼやけたイメージを想像するのが関の山。
悪魔という種を嫌うというのは、嫌おうとしているからに他ならない。
遊紗は突っぱねる様に否定を。
「嫌いな相手のいいところ探しなんて、したくないよ。だってもう嫌いだってことは決まってるのに、どうして自分の感情を誤魔化そうとするの?」
「そうかもな。けどどれを取り沙汰するのか、どこを重要とするのか……そんなのは手前勝手で決めるもんだが、わざわざ悪い部分に視点を置くのは嫌な奴のすることだぜ」
「っ」
「おれは、遊紗を、いいやつだって思ってる。今でもだ」
「アタシは……」
真正面から善性をほめたたえられて、遊紗は耐え切れず顔を俯かせる。
そんなんじゃない。そんなのは勘違いだとか細い声で叫ぶ。
「アタシは、いい子なんかじゃ……ないよ……こんな、こんなに……悪い子で……身勝手で……」
「いいや、いいやつだ。おれはそうだと言い切るぜ。たとえオメェに否定されようと、絶対に撤回しねェ」
「……それって、意趣返し?」
「どうだかな。本音ではあるぜ」
「先輩の、イジワル」
自分の言葉を突き返されて、遊紗はどう応えればいいのかわからない。
阿沙賀は肩を竦めて。
「まァ意趣返しって言われると確かに意地悪く感じるだろうが……でも事実、おれが遊紗を勘違いしてると遊紗が思うように、遊紗がおれを勘違いしてるとおれも言い張ってるわけで」
そのすれ違いこそが今回の解きほぐさねばならない重要な争点。
なんとか言葉を積み重ねて信じてもらえるようにと阿沙賀は言い募る。
「なんならおれだってあいつらのことを思い違えてるかもしれねェ。オメェの言うように悪魔は所詮、友達になんざなれねェのかもしれねェ。
けど遊紗、そう悲観ばかりで他人を見るなよ、もっと信じてやれ。信じてくれ」
遠凪と似てどっかで自虐的で、信じることが下手だよな。
「なァだって、オメェに最初に寄り添ってくれたのは、おれでも遠凪でもなく――悪魔だったんだろ?」
「!」
「真実を教えてくれて、目的に力を貸してくれて、なァそんなアティスまで、オメェは嫌いだって言うつもりなのかよ」
「――!」
一瞬、ひどく泣きそうな顔に見えたのは気のせいか。
しかしすぐに般若の如く激怒の相に変転してただひたすら絶叫する。癇癪玉のようにストレスを爆発させる。
「きらいだよ、みんなきらい! 悪魔なんか大っ嫌いだ!」
「嘘なんざ似合わねェ。感情的に叫んでもオメェの魂は誤魔化せねェぞ」
「――名前で呼んでって言ってるでしょ!!」
猛烈なる怒りが響き渡る。世界がたったひとりの少女によって震撼する。
暴風のごとき生命力の放出に、阿沙賀は吹き飛ばされてしまう。
遊紗はふわりと自分の足で立ち、怒りのままに膨れ上がった生命力を注ぎ込んで新たな啓術を紡ぎだす。
「啓術・九節――『亜空展象・手織る迷い我』!」
――世界が、新生する。




