ほっこり謎解きの物語①
プロローグ
とある街の、とある交差点の、とある筋の、とあるビルの2階に我々の探偵事務所がある。
古びれた煉瓦造りの8階建て、1階の入口はガラス窓でいかにも開放的な趣き、又広々としたロビー、ある人はノスタルジックな雰囲気を感じるかもしれない。
ただし、それは1階と外見だけである‥2階以上は歌舞伎町の雑居ビルのようで何やら怪しげな雰囲気がありそうと想像して頂ければわかるだろうか‥
と、まぁ前置きが長くなったのかもしれないが、海道ビルの2階、203号室、我々の『UTI探偵事務所』がある。最近流行りの趣味サークルに参加し、そこで共通点があり過ぎて、物凄く仲良くなりすぎた3人が、脱サラして始めた探偵事務所である。名前も、昔話に出て来てくるキャラクター名かっ、とツッコミたくなる名前である。只、ほんの少し変り者の探偵達がいる事務所と思って頂ければである……
老若男女がソワソワ、ドキドキと勝手に色めきだすこの季節、湿雪が舞うバレンタイン、そう、世界的な大イベントである。その翌日、快晴たっぷりの日差しがあふれる土曜日、全身黒で覆われた服装の男が海道ビルに入っていく。足取りは重く憂鬱そうな雰囲気を醸し出し、いかにも怪しげな、サングラスをし180センチはありそうな風貌である。
ゆったりした足取りで階段を上がっていく、2階に着きゆったりとした足取りで、ドアの前、トートバッグから鍵を取り出し、ドアノブを回し開けた。
ドアを開けると、中は広々とし、真ん中には社長室によくあるソファーと机が、ドンっと構えており、真ん中一帯を囲むように、パーテンションで区切られた場所が3か所あり、ドアから向かって左側に1か所、右側に2か所という見取り図になっている。
「おはよー」
と、さも寝起きのような声で挨拶を行ない、すぐさま、エアコンのスイッチを押し、左側の区切られた1か所に入っていく。黒のコートをコートがけに掛けて、腕時計を見て
「ふぅ〜もう10時か」
そうつぶやきながら、区切られた場所から出るように方向を変え、真ん中のソファーに腰掛けた。
「ホンマに、あいつら、いっつも遅っぃの~」
と、ボソっと独り言を呟いた。
ちなみに、このUTI探偵事務所は9時から18時が営業時間として世間一般に表明しているが、この浦島金太朗も、俗に言う遅刻組である。
スマホをいじりながら、
「今日は何食おうかな~、いつもやつにしよっかな?」
その時、表から二人の話し声が聞こえてきて、ドアを開く音がした
「おはようございます」
ワンテンポ遅れて
「グッモーニン〜」
と、特徴のある声の二人が入ってきた。
黒く光沢のあるスーツに身を包んだ,いかにも、ザ・真面目君的な爽やか竹野内豊風な青年、一寸法氏。片方は、若者向けカジュアルコーデで決めた、渋谷にいそうな雰囲気の青年、桃野太郎。
「おはよー、それにしてもお前ら、いつも遅っそいの、一時間以上遅刻やで。給料減らすで、しかし」
「ちょいちょいちょい、所長はーん、そないな事言わんといてや。生活きついから〜」
「私も厳しいので、ご遠慮願いたいですね」
「なら、はよー来いや。ホンマに、頼むで〜」
少し間をおいて、
「お言葉を返すようですが…、所長もですよね」
その言葉をかけたあと、一瞬だけ、時が止まったような静けさになった。
「何を、言うてるのからぁからへんな」と目を泳がせながら、噛み噛みになってしまい、そこに
「おー噛みましたね」
「噛んだからって何やねん」
「ほんまや、俺らのこと言われへんやん」
「ですよね」
「所で、今日は何時に来たん?」
「落ち着いているところを見れば、我々より、ほんの少し前ですね」
「概ね、各駅でのんびり来られたんでしょうね」
と、二人が立て続けに浦島に質問の嵐であり、浦島はソファーの真ん中に座り、いかにも動揺しているのは分かるものの、目は動かさずに真っ直ぐ向いている。
少しの間があり
「流石!やっぱ探偵らしく鋭いの〜」
「その言葉、30回目ですよ」
二人のやり取りを横目に、無言を貫く所長が、
「さ~仕事仕事!今日も頑張ろう~」
感情がない、棒読みで言い放つ
すかさず
「うわ~、又話そらしましたね」
「ほんまや」
またか、といわんばかり言い方で続けざまに伝えた。そして、又沈黙に…
1分程立って何事もなかったかの様に、仕事をし始めた。しかし、依頼はきていないのであるが・・・