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フィギュアスケートの大会は、そこそこ参加者が多かった。
2日に分けて行われたとはいえ、途中時間のロスなども発生していただろうし、その最後を飾った俺達の演技が終わったタイミングともなれば、外はもう完全に夜となっていた。
「強制転移!?大試くん、なんて仲間つれてきてんの!?」
少し離れた所でボボンが喚いている。
ブチギレ状態で更にファムによって無理やりテレポートさせられてんだから、冷静に状況を見極めるのも難しいだろう。
「にゃああ……いやぁ……ボス、やっぱりなんか前世ですんごく悪いことしてないかニャ?神様とどんだけ戦うにゃ……」
「神様に何かされるほどのやらかしはしてないはずなんだけどなぁ……。まあ、神様のやらかしで死んだんだが」
流石に神性もち相手だということで、ファムもビビりまくりである。
さっきまで神様としての力なんて解放していなかったのに、いきなり解放したせいで覚悟が決まってないってのもあるのかもしれんが。
「ファム、事前に決めてあった通り、戦闘が終わるまで離れてろ」
「わかったにゃ!」
全く渋りもせずシュパッとテレポートして消えていく猫耳メイド。
お前、忘れているっぽいから一応言っておくけど、今は俺が召喚している状態なんだからな?
俺が死んだら多分お前も消えるんだぞ?
事前に決めていた作戦とはいえ、少しは考える素振りしようぜ?
……あれだな!俺への信頼の証ってことにしておくか!
フィギュアスケートの大会前にファムには、ボボンが素直に負けを認めて洗脳を解かなかった場合や、更に逆ギレして戦闘に発展しそうになった場合、ある場所に俺ごとテレポートしてくれって頼んでおいたんだ。
流石にあの観客だらけの場所で戦うのはまずい。
キレ散らかしているやつに道徳を説いた所でどこまで意味があるかわからないし、ましてや女神を自称している頭のおかしい女だ。
神って時点で人間とは倫理的な部分が全く違うかもしれないしなぁ。
そもそも、俺を誘い出すために必要だったのかもしれないけれど、いろんな人間を洗脳している時点でアウトだもん。
そんな事をサラッとやっている時点で信用なんて0。
無関係な人間を巻き込まないようにしようなんて配慮は、まず見込めないだろう。
というわけで、間違っても人がいないであろう場所へとやってきたんだ。
「何ここ……砂漠!?」
「デスバレーだ。アメリカ人なら知ってるだろ?」
「なんでこんな所にあちしをつれてきたのかなぁ!?罠でもはってんの!?」
「そんな小細工してないぞ。周りに巻き込まれそうな人間がいないほうが、本気で戦えるってだけだ」
人っ子ひとりいないこの場所。
環境が悪すぎて、他の生物の存在すら疎らだ。
そんな場所だからこその魅力も多数存在し、やってきた人たちが割と人生観変わったと言って喜ぶ場所でもある。
まあ、夏場の日中だと最悪気温が50℃を超えるから、マジモンの死の谷になるので観光先としてはかなりの危険度なんだけども。
とはいえ、ここは北半球であり今は冬。
日中もそこまで気温は上がらず、夜なんて砂漠らしくかなりの寒さとなる。
流石にシューズは履き替えていたとはいえ、フィギュアスケートをしていた格好のままの俺も、その観戦をしていたであろうボボンも、そのままの防寒着状態で問題ないくらいには気温が低い。
にしても、だ。
「……っすっげぇなぁ……」
俺は、空を見上げた。
そこには、満天の星空が広がっている。
この世界に転生した後、いろんな場所へと赴いた。
特に魔族の領域では、人工的な光が少なくて、星空がとても綺麗だった。
しかし、ここから見る星空は更にきれいに見える気がする。
前世よりも人類の生活圏が疎らなのもあって、デスバレーには人工の光がまず無い。
そしてもともとどちらの世界だとしても空気中に水分が殆ど含まれていないので、天体観測にはもってこいの環境と言えるだろう。
ファムにこの地点へと飛んでもらうために、事前にイチゴエアでここまで来てたんだけどさ、その時は昼間だったんだよなぁ。
いやぁ、夜の砂漠いいわぁ……。
またこよっと。
「何ぼーっとしてんのかなぁ!?あちし、これでもイライラしすぎてガチで戦う気なんだけどぉ、舐めてんの!?」
「んー……。まあ、神っぽい雰囲気が強くなったし、色々この世界のルール無視してヤバいことやってるんじゃないかって気はするけどさ、転生してからこっち、割とそういう相手と戦う機会が多かったから、慣れたと言うか、覚悟が決まってるというか……」
なんでこんなにも面倒に遭遇する機会が多いのか。
前世でもっと徳を積んでおいたほうが良かったのかもしれない。
「俺さ、ぶっちゃけスケートなんてやりたくなかったんだよ」
「……何ぃ?何語りだしちゃってるのかなぁ?」
「美玲柚を勝たせるためには、フィギュアスケートでやりあうのが一番だったから乗ったけど、そうじゃなければやらなかったわ」
スケートなんて、たまーに思い立った時にやる程度でいいんだよ。
必死こいて毎日やりたいとは思っていない。
「理由はともかく、お前が聖羅に危害を加えるような真似をした以上対処しないわけにいかないから今回の代表団に参加したけど、それがなければアメリカに行くなんて面倒なことをするつもりもなかったし、美玲柚と多少なりとも仲良くなっていなければ、あいつの親父がどうなろうがぶっちゃけどうでも良かった」
オッサンがどうなろうと知らん。
勝手に洗脳されていろ。
「俺としてはさぁ、そんなことより、こうやって星空眺めてる方が楽しいんだよなぁ。知ってるか?デスバレーって、世界でも最も夜空がきれいな場所の一つらしいぞ。あとは、この死の谷をどうやったら常に緑あふれる楽園みたいな土地にできるかを考えたりするのもいいかもなぁ。他にも魅力的な地形がいっぱいあるらしいし、折角来たんだから見て回りたいなぁ……」
観光地で人混みの中に飛び込むのは、正直そんなに好きではない俺だけど、こういう観光地なら割と好きなんだよね。
前世だと、殆どそんな場所に行った経験もなかったけれどさ。
俺が染み染みと語っていると、先程までより幾分冷静になってきたらしいボボンが話しかけてきた。
「……じゃ、じゃあさぁ大試くん。あちしと一緒にここで遊ばなぁい?もう他の女とぉ、特にあの未熟女神なんかと会わないって約束してくれるならぁ、あちしの全部をあげるよ?この世界で手に入れたもの全て捨てて、あちしを選んで?もともと前の世界の存在だった大試くんだもん、前の世界を管理していたあちしと一緒にいるのが一番バランスの取れた存在だと思わない?」
なんて寝ぼけた事を。
「え?ないわー。絶対無い」
「ど……どうしてかなぁ?」
「いや、俺、この世界で手に入れたものが大切だもんよ。お前と引き換えに他を捨てろって言われても、そんなん無理だろ」
「あちしが女神としての力を全部使ったらぁ、大試くんなんて簡単に死んじゃうかもよぉ?」
「それはどうかな?この世界って、神様たちが結構やってきてるみたいだけど、かなり力をセーブさせられてるって話じゃん?リスティ様が言ってたぞ。それなのに女神としての力を行使しようとしているってことは、その時点で何かルール破ってるんだろ?無理やりなんだろうから万全の状態って感じはしないなぁ。何より、なんとなーく、俺に多少手を貸して、お前を止めさせようとしている上位存在がいそうだから、なんとかなるんじゃないかって思ってんだよ」
カイネウスの剣がSRなのに自我まであって、更に女神様から貰ってるギフトをランダムとはいえ変換できるのは、多分どこかの神様からの何らかの力を利用しているからだと思うんだ。
ってことは、俺にこのボボンをなんとかしてみせろっていうメッセージなんじゃないかと思う。
出来なかった場合、かなり理不尽なペナルティが下りそうな……。
「で、でもさぁ!あちし、可愛いでしょ!?まだまだ体も大きくなるからぁ、おっぱいとかおしりも成長性かなりあるよ!?そんなあちしを好きにできるのに断るの!?」
「例え神を敵に回したとしても、お前のその誘いに乗ることはないな」
「…………………………………………そっかぁ。そっかそっかぁ……。じゃあ、もうそんな大試くんいーらない!あちしと仲良くしてくれないなら、バランスをとるためには大試くんを殺すしか無いよねぇ!?あちしは!そうやって世界を維持してきたんだもん!それが絶対正しいんだよ!」
折角冷静になったっぽかったボボンだけれど、やっぱり相互理解は難しいらしい。
まあ、俺としてもこれで大人しく引き下がってくれるとは思っていなかったわけだが。
「覚悟してよねぇ大試くん!女神に本気を出させた事を後悔しながら消えて!」
ドドメ色のオーラ的な何かがボボンから溢れ出し、不気味に揺らめいている。
神様なのかどうかはよくわからんが、とりあえず禍々しい感じはするな。
だが、まあ……フィギュアスケートを王子様役でやらされるのよりは、俺のメンタルへのダメージは少なそうだ。
俺は、倶利伽羅剣と雷切を手に持つ。
そして、何故か壊れたように笑いながら泣いてこっちへと迫ってくるボボンに向けて、悪い笑顔で返答する。
「うるせーガキンチョが!スケート滑らされるより神様相手に剣振るうほうがなんぼかマシだわ!叩ききってやるよ!」
星明かりしか無かった砂漠で、太陽のように強い光を放ちながら、俺は剣を振るった。
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