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「どういうこと!?1000点って何ぃ!?」
点数発表をベンチで聞いていた俺達の後ろから、ボボンの声が聞こえた。
振り向くと、ものっそい困惑した顔をしていて、思わず「はは、ザマァ」とか言ってやりたくなってしまう。
なんで俺達の点数が1000点かといえば、ぶっちゃけものすごく簡単な理由だ。
つまり、2人分の点数なんだ。
俺とイチゴで今回の大会のルールを読み込んだ結果、そもそも今大会は、ペアでの参加が全く考慮されていない事がわかった。
これが前世の世界だとしたら、世界大会も何度も開催され、ルールもしっかり固まっていたんだと思う。
しかし、この世界だと、フィギュアスケートの世界大会なんて開催された試しはなかった。
そのため、企画立案したボボンたちが、自分たちなりに色々考えてルールを決めたんだろう。
特にボボンは、表面上でもルールに則って俺の国に勝ったように見せたかったんだろうし。
でなければ、わざわざ大会なんて企画もしないだろうしさ。
とはいえ、審査員のおっさんたちは、完全にボボンに魅了されていて、ボボン以外の参加者の評価点を全部0点にしようとしていたけれども。
審査員のつけた点数は、デジタルな機器で集計されて発表されるので、イチゴによって客観性のある点数計算で発表されるように手を売った結果、審査員の中に裏切り者がいるんじゃないかと変に疑心暗鬼になっていたようだが知ったことか。
ただ、「各国の高位貴族や王族、政府高官の子女を集めたフィギュアスケート大会」という性質上、各国からの参加者たちもそうそう複数名での参加なんて難しいだろうし、何よりボボン本人が1人で滑ることしか考えていなかったんだろうさ。
何故かは知らんけど、ボボンは俺に執着しているから、俺を呼び出せた時点である程度自分の勝利を確信していたのかもしれない。
聖羅をダシにすれば俺がくるとでも思っていたのかもしれんし、それは本人に聞かないとわからんけれど、とにかくルールのチェックに不備があった。
この大会の点数の上限は、1人あたりのものしかなかったんだ。
フィギュアスケートのルール自体、この世界ではあまり統一されておらず、無理やり世界基準を突貫で作り上げたのもあるんだろうけれど、かなりお粗末だったなぁ。
正直、本当にこれ気がついていないんだろうか?もしかして罠なんじゃないだろうか?
ってイチゴと2人悩んだりもしたんだが、ことここに至って1000点の評価が出た段階で、単純なミスだったようだなぁ……。
「というわけで、1人500点。俺達2人で1000点だ」
「はぁ!?そんなルール……」
「お前らが作ったルールだぞ?ルールブック読み込め」
「ぐっ!?ううう!!!」
昨日500点を取ったボボン。
最悪でも、俺達とは同点に持ち込めると思っていたんだろうさ。
だから、直接的な妨害をゴリゴリぶちこんでは来なかったんじゃないかな?
「でもさぁ、俺達の演技見てただろ?仮に俺達が1ペアで上限500点として計算されていたとしてもさ、誰がどう見ても俺達の演技のほうがお前より上だって誰だってわかると思うんだよなぁ」
「それは……」
500点で競り合ったとしても、2人だから引き分けになったんだ!って言われるかもしれないなーとは考えていたから、圧倒的な勝利を演出する必要があった。
俺は別に、この大会の優勝も、ボボンとの勝負も、そこまで重要視しているわけじゃない。
ぶっちゃけると、ボボンに敗北感を味あわせて、ギフトをランダム変換できるならそれで良かったわけで。
「お前の演技は結構すごかったと思うぞ?でもさぁ、地球を作ったのってあれ、芸術的な理由じゃなくて、初の世界大会だから地球つくっとこって感じだろ?技術的にはすごいと思ったし、アレを1人でやり遂げたのはすごいと思うけれど、メッセージ性はあんまりなくて地味だよな?ストーリー性もないし、規模だって俺が作った世界樹よりもちっさい。上限500点で合わせてたって客観的に見てどっちが上かはわか」
『げへへへへへ!我が使用者!必要な勝利数が2まで稼げやがりました!さぁ!さっさともう一回わからせやがりませ!』
「……あー、うん。とりあえずこのくらいにしておこうかな……」
どっかの自我あり剣のせいで、なんだか俺が悪役な気がしてきたため、とりあえずそこで自重しておいた。
ボボンが、歯を食いしばりながら目に涙を溜め始めていたのもある。
このフィギュアスケート対決に関しては、もう追い打ちは必要ないさ。
一番心配だった「スピードスケートのシューズを使うのは禁止」って言われなくて安心したし。
それだけはマジでどうしようもなかったから……。
こういうタイプは、これだけ追い詰めれば勝手に暴発してもう一戦始めてくれそうだし、その流れに乗るさ。
なんて思ってすっかり次へと意識が向いていた俺とは別に、となりで俺の手を握っているリトル・モンスター美玲柚は、ここで決着をつけるつもりだったらしい。
ずいっと前に出る。
「クリスティーナさん……いえ、クリスティーナ!これで私達の勝ちです!大人しくパパ……お父様の洗脳を解いて、公式に謝罪をしてください!」
なんて叫ぶ。
美玲柚ちゃんは、ボボンのギフトがどういうものなのか、詳しくはわかっていない。
いや、俺も詳しくはわからんけれども、少なくとも俺に対して簡単に洗脳だのなんだのを行使できる力は無いっぽいのである程度安心できる。
しかし、美玲柚ちゃんの方はそうでもない。
カイネウスの剣がポロッと漏らす断片的な情報すらもらえていない状態で、自分を洗脳する力があるかもしれない相手に相対するのは、さぞ怖いんじゃないかと思うんだけど、彼女は毅然として自分の要求を突きつけた。
それでも、俺と繋いだ手がプルプル震えているのは、気が付かないふりをしてやったほうが良いだろうな。
ただ、悪い美玲柚ちゃん。
多分、神を自称するこういう輩が、素直にそんな要求を飲んでくれるとは思えないんだよなぁ。
……ほら、見てみろよあの顔を。
絶対反発すんぞ。
「許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない!大試くんはあちしの物なの!他の女神になんてあげない!他の女の子と楽しくしているのなんて認めない!この世界で得たもの全部捨てさせて!あちしの事しか見えないようにしないとダメなの!それがバランスがとれた状態なの!」
ボボンから、とうとう神性持ちを敵にしたときのような嫌な感じがしてきた。
力の制限でも取っ払ったんだろうか?
相変わらずよくわからんが、まあ素直に俺達の要求を受け入れてくれるとは思っていなかった。
だから、こういう事になったときのために、こっちも準備していた作戦を決行しようか。
正直、めんどくせぇけどなぁ……。
「美玲柚、俺のことを信じてここで待っていてくれ。全部終わらせてくるから」
「え?大試さん……?」
困惑している美玲柚ちゃんから手を放し、ボボンと向き直る。
さてと、やるとしますか。
「ファム!頼む!」
「神相手に仕掛けさせるなんてやっぱり人使い荒すぎニャ!!!!
「な!?大試くんとあちしに触るなネコ風情が!」
俺とボボンの間に割って入ったファムによって、俺達はテレポートした。
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