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広いリンクの真ん中に氷の柱が生え始める。
これは言わば、世界樹の苗だ。
最終的には、幹の太さは直径20m。
高さ100mを超えるサイズまで成長する予定だ。
このアホみたいに広いこの世界基準のフィギュアスケート用リンクじゃなければ、まず作り出せないサイズだろう。
そして、でけぇ木を生やすだけで終わらす訳にはいかない。
これは、あくまでフィギュアスケート。
デカくて高い木を生やすなら、俺達も上がっていかないとならん!
「えっ!?」
「大丈夫。俺を信じて、滑って」
「あ……はい!」
美玲柚ちゃんが驚くのも無理はない。
俺達は今、空中を滑っている。
観客たちからみたら、完全に空を飛んでいるように見えているんじゃないだろうか?
仕掛けを説明しちゃうと、俺達のブレードがある場所にだけ氷を作り出しているんだ。
空中に支えもなく氷を作り出して、それで人間の重さを支えるのは、なかなかに大変な技術なんじゃないかと思うんだけれども、まあ、魔力ドバドバ投入すればなんとかなるんすわ!
しんどいが!
「大試さん!私達飛んでます!」
「どうだ?楽しいか?」
「はい!とっても!」
「ならよかった!このまま楽しんでいこう!」
いきなりどんどん地面が遠くなる感覚で怖くなっていたりしないかと心配したけれど、純粋に喜んでいるらしい。
この子、マジで逸材だな。
なんのって、男に色々貢がせる魔性の女的な適性が!
こんだけ純粋な喜びを見せられたら、そりゃもう色々サービスしたくなるわ。
というわけで、美玲柚ちゃんの背中にも羽を生やしちゃう。
はい、俺の負担が更に増えました!
ストーリー的には、王子様は少女を妖精の国の住人として迎えたいんだけど、そのためには少女も妖精にならないといけない。
だから、お試し期間的な感じで少女に一時的に妖精の力を与えて、一緒にこの妖精の国のもっとも重要なシンボル的存在である世界樹の周りを飛び回り、この地の魅力を伝えようとしている所だ。
妖精の国に残るか、それとも現実に戻るか、その判断を少女自身にしてもらうために。
一応最後のその少女の選択だけは、美玲柚ちゃんに先に伝えてあるんだけれど、だからこそ今ここで少女らしい笑顔を見せて置いてくれると嬉しい。
世界樹が成長し、どんどん枝葉が伸びていく。
それに合わせて俺たちも上がっていく。
この世界のフィギュアスケートは、こうやって魔術を使いながら広範囲で行われるので、観客席には巨大なスクリーンがいくつも設置され、その中に俺達が大きく映っていた。
俺の姿はともかく、背中に幻想的な羽をつけて宙を舞う美玲柚ちゃんは、正に妖精といった美しさを持っている。
そんな少女と、ダンスを踊りながら滑っている俺。
恐らく、世界中の野郎どもからヘイトを稼いでいることだろう。
いえーい!皆みてるー!?
ただ、ずっとこうしているわけにもいかない。
ここまでで、演技開始から4分20秒ほどだ。
世界樹も完成し、その威容を存分に見せつけてくれている。
あとは、最後の仕上げだ。
俺と美玲柚ちゃんは、世界樹の頂上で抱き合い、少しの間静止した。
「さぁ、美玲柚ちゃん。そろそろ終わりにしようか」
「あ……」
夢のような世界から、少女は現実へと戻ることを選ぶ。
自分の大切な家族や友人たちがいる場所へと帰るということは、二度とここには戻ってこれない事を意味する。
その事実に今気がついたようなその反応は、少女のリアルな心の葛藤を表しているようですごくいい!
おっと、監督的な視点で見てしまった。
さぁ、美玲柚ちゃん!
ここから俺の手を放して離れて……。
チュッ
ん?
なんか今、俺の頬に美玲柚ちゃんが近づいて、しかもチューしたような音がした気がしたんだけど……。
あれ?
え?
俺が戸惑っているうちに、美玲柚ちゃんは、大人の女性のような、少女を卒業したような憂いを見せる顔で、少し涙を流しながら俺から離れていく。
あー……うん、演出的には最高かもしれんが、そういうのはもっと大切にしておいたほうが……。
いや、今はそれドコロじゃない!
俺は、最後の仕上げをしないといけない!
この巨大な世界樹と、リンク上の花畑を、全て一瞬で光の粒子へと変換させる。
夢から覚めるように。
現実に戻るように。
改めていうが、この光の粒子、全部プラズマだから触ったら死にます。
そのプラズマ粒子の中、俺と美玲柚ちゃんは滑り降りていく。
そして、リンクの真ん中、世界樹が先程まで存在していた場所に降り立ち、最後に美玲柚ちゃんの羽を消し去ってフィニッシュ!
曲の終わりとともにポーズを決めて、これにて演技終了!
いやぁ、疲れた……。
魔力空に近いもん……。
『お……驚きました!過去にこれほどの規模のフィギュアスケートが存在していたでしょうか!?巨大で幻想的!ストーリー性も持たせたこの壮大な演技の評価が楽しみです!』
『これは、満点は確実でしょうねぇ』
アナウンサーと解説のおっさんがそんな事を言うのが聞こえる。
俺とミレイユちゃんは、最後のキメポーズを終えてリンクを降り、ベンチで評価を待つ。
まあ、勝利は確実なはずなんだけども、やっぱり実際に評価が出る直前ってのはドキドキするなぁ……。
ん?となりの美玲柚ちゃんが俺の耳元に顔を近づけてきた。
「……さっきの、キス、初めてだったんです……」
あのなキミ、だからそういうのはもっと大切にしなさい?
美玲柚ちゃんは、顔を真っ赤にしながらうつむき、そして俺と手を繋ぐ。
まあ、緊張しているんだろうし、このくらい問題ないか。
「むぅ……!」
セコンドを自称して近くにいる有栖が指で俺をつっついて不満を表現しているけれど、許してやろうぜ?
まだ12歳の女の子だぞ?
だから、その軽く俺に突き刺さってるパワーでつっつくのはやめて……。
『結果が出たようです!気になる点数は……は?』
アナウンサーが固まる。
それでも職務を全うしようとすぐに再起動し、俺達の得点を発表した。
『えー、日本代表ペアの得点、1000点です!』
感想、評価よろしくお願いします。




