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とうとう俺達の番が来た。
俺の前世のイメージからすると、フィギュアスケートで使うには広すぎるリンクの中央。
そこで俺は、美玲柚ちゃんと2人、本番前の短い調整時間を始めるところだ。
といっても、ある程度氷の状態を試したら、後はもうぶっつけ本番で行くつもりだ。
今回何より重要なのは、美玲柚ちゃんの精神状態だと思っている。
彼女は、俺からしたらちょっとロリコンの気があるんじゃないかと思ってる卜部侯爵を人質に取られているような状態だし、その犯人であるボボンとの勝負をするためにここにいるんだ。
彼女が険しい顔になってしまうのは仕方ないと思う。
だが!だがしかしだ!
そんな悲壮な表情で滑っている少女を観客はどういう目で見るだろうか?
女の子の悲しそうな顔っていうのは、本人たちが思っているよりも相手をつらい気持ちにさせるもんだ。
いや、それを理解して武器にしてくるやつもいるだろうけども、美玲柚ちゃんはそういうタイプじゃなさそうだし。
女子フィギュアスケーターは大抵の場合、演技中は無理にでも笑顔を維持する。
全力疾走し続けるのと同じくらいの苦痛を味わうと言われる演技中だとしてもだ。
なぜなら、そのほうが評価が上がるから。
不安定な氷上で、全身全霊をかけて飛び上がる瞬間だって、力んで一瞬表情が歪んだとしても観客には悟らせない。
撮影された動画でコマ送りにすると分かる程度の短い時間で、彼女たちは笑顔を取り戻すんだ。
その根性ときたら、下手なスポ根漫画の主人公すら凌駕する程だろう。
今回俺は、別に彼女に笑顔でいることを強制するつもりはない。
ただ、復讐だの怒りだのっていう負の感情を表に出しても欲しくない。
彼女には、これから見る景色を素直な気持ちで体験し、そして演技ではなくそのままの表情でリアクションしてほしい。
彼女は綺麗だし、フィギュアスケートの技術だってボボンに引けを取らない。
手足も長くて、フィギュアスケーターとして理想的な体型だと思う。
フィギュアスケートには、胸もまだ膨らみかけで、大人の女性的な体型になっておらず、細っこい感じが良いって言われてた気がするし。
男子もな!ロリコンとかショタコンは普段忌諱されるのに、なぜフィギュアスケートでなら許されるのかよくわからんが!
え?俺?
もっとこう……どことは言わないけど、ブルンブルンしているほうが……。
おっと、思考が逸れた。
いつの間にか、事前に美玲柚ちゃんと話し合っていた分の調整が終わっていた。
正面に立つ彼女は、不安げな表情で俺を見上げている。
本当に自分が勝てるのか不安なんだろう。
ぶっちゃけると、勝てるのはほぼ確実だから心配ないんだ。
だから、今はその心配を忘れて良い。
というわけで、残り時間は、彼女のメンタルを上げるのに使う。
「美玲柚」
「はい!」
「うん、いい返事だな。ただ、もっとリラックスしていいぞ?」
「う……リラックス……リラックス……!」
美玲柚ちゃんは、父親から変な常識を教えられているからか変な行動をすることも多いけれど、基本は真面目な娘だ。
リラックスしろって言われて簡単にリラックスできる性格じゃないのはわかっていた。
なので、これ以上リラックスについて言及するつもりはない。
「美玲柚、お前は可愛い」
「はい!?」
「お前は綺麗だ」
「へあ!?」
なんかすっごい反応が大きいけれど、まあいいか。
「今日は、素直な気持ちで演技していいぞ」
「ふぅ……ふぅ……素直な気持ち、ですか……?」
ちょっと赤くなった顔を手で仰ぎながら、訝しげにそう聞き返す美玲柚ちゃん。
リンクなのに暑いのか?
「美玲柚がワクワクしていたり、ドキドキしているのを素直に表現しておけば、それだけで観客は引き込まれると思うぞ。それだけの魅力を美玲柚は持っている。俺が保証するから」
「魅力……!?でも……普通は笑顔でって……」
「もちろん笑顔も大事だけど、今回に関して言うなら、笑顔に拘らなくて良い。むしろ、変に演技しないでほしい。ただ、楽しいとか、嬉しいとか、幸せだって本心から思えたときの笑顔であれば大歓迎だ」
「大歓迎……。あの、大試さんは、私の笑顔を見たいと思いますか……?」
「え?もちろん」
「んっ!?」
また美玲柚ちゃんが顔を赤くした。
でも、美少女の笑顔が嫌いなやつなんているんだろうか?
いや、いない。
俺なんて、聖羅が笑顔で何かお願いしてきたら、多分一も二もなく言う事聞いちゃうだろうし。
「あの、大試さん!」
俺が美玲柚ちゃんのメンタルも大分温まってきたなぁとウンウン頷いていると、美玲柚ちゃんが何かを決意したように声を上げた。
「どうした?」
「この大会、もし勝てたら、何かご褒美下さい!」
「ご褒美?どんな?」
「えっと……希望を出しても良いですか……?」
「まあ、とりあえず言うだけ言ってみてくれ。できると断言はできないけど」
「それなら、何かアクセサリーが欲しいです!できれば、指輪とか……」
「指輪かぁ……」
「その!大試さんは今私の騎士をしてくれている訳ですし!その繋がりというか!そういうのが欲しいんです!ですから!私も大試さんにアクセサリーを贈りますから!」
「あ、うん……。そうか、わかった。じゃあ、帰ってからどこかに買いに行くか?」
「いいんですか!?じゃあ!えっと、クラスの娘達が噂してたお店があって!私は行ったこと無いんですけど!こい……こいび……大事な人とずっと仲良くしていられるようにっておまじないがかかってるとかで!」
「よし、約束だ」
「はい!」
美玲柚ちゃんの勢いにビビったけれど、かなりテンションが上がってくれたようだ。
これなら心配ないだろう。
あとは、彼女の魅力を俺が魔力ドバドバ使って世界中に伝えるだけだ!
そして、ボボンのギフトをランダム変換するための勝利数を稼ぐぞ!
輝くような笑顔を見せてくれている美玲柚ちゃんの横で、どう考えても悪役っぽい笑顔を浮かべる俺。
そして、演技の開始時間がやってきた。
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