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『いよいよ本日最後の奏者となりました!このアメリカ合衆国の大統領ジョージ・ベアトリクスの娘!クリスティーナ・ベアトリクス嬢の入場です!』
会場に響き渡るアナウンサーの声。
テンション高めだが、コイツは別にボボンの影響下にあるわけではない。
多分だけど、変な薬でもやっていない限り、素でこれなんだろう。
すごいなぁ……。
俺があのテンションで喋ろうと思ったら、頭の中で別の幸せな世界を作り出して、無理やりハイな状態にでもしないと厳しいと思う。
そうして湧いた会場の声援の中、巨大なリンクの中へと綺羅びやかな衣装を纏った少女が進み出る。
場馴れしているのか、笑顔でアピールすることも忘れない。
確かに、奴が何したのか知らない奴らからしたら、ただのすごく可愛い女の子にしか見えないからなぁ。
でも、あいつのせいでこっちが被った面倒を考えたら、顔面ぶん殴っただけじゃ……いや、女の子ぶん殴るのは倫理的にアレかもしれんが、それでも敵は殴るしか無い。
ましてや、こっちの女の子を泣かせるようなやつは、壁まで吹っ飛ぶくらいのぶん殴りでも問題ないはずだ。
それはそれとして、コイツの演技は見る価値がある。
色々俺達にやってきたとはいえ、調べた限りだとやつのフィギュアスケートの技術は本物だ。
この世界のフィギュアスケートに大して詳しくない俺ですらそう思えるくらいには凄かった。
そんなすごいやつが、なんで俺をどうこうしたいのか全然わからないんだよなぁ相変わらず。
未だにその理由のヒントすら得ていない。
ただ、それを知っていそうな奴なら知っているんだよなぁ。
「というわけで、カイネウスの剣さぁ。お前、あの自称女神が俺に拘ってる理由とか知らん?ぶっちゃけお前、普通に自我あるだろ?」
『さぁ?SRだからわかりやがりませんね』
「じゃあさぁ、あのボボンのギフトの発動条件なら知ってるんじゃないか?俺が洗脳されていない事から考えて、無条件に使えるもんじゃないと思うんだよなぁ。例えば、お前があのギフトを変換するために提示した3回勝利しないといけないとかなんとか言ってたみたいに、相手に勝利することで強制的に発動するとかさぁ」
『するど……いえ、わかりやがりませんね〜』
「まあ、あの娘に一定以上の魅力を感じちゃったら、それはそれで影響化に置かれちゃいそうだけども。あのおっさん共全員と勝負したとは思えんし」
『あー、かもしやがりませんねー』
「うん、全く協力してくれる気がなさそうだな」
多分そうだろうなぁと思っていたので、早々に切り上げる。
リンクの上では、ボボンがスタートのポーズに入っていた。
そして曲がスタートする。
それとともに、水が流れるように滑らかな動きで演技が始めるボボン。
まるでその動きの軌跡が目に残るような滑りだ。
ただ、それだけじゃこの世界のフィギュアスケートとはいえない。
ここからが、ファンタジーフィギュアの本番だ。
ボボンの前に氷の道ができ始める。
それが大きな螺旋を描き昇っていく。
ボボンが上がっていくごとに、螺旋の中央には巨大な球体の氷が出来上がってきた。
氷の球体の頂上へと降り立ったボボン。
どうするのかと思ったら、その球体の上を滑り始めるボボン。
落ちるのではないかと思ったけれど、どういう理屈か逆さまになっても球体にくっついていた。
彼女が滑るたびに、そのブレードの跡が光の線となり何かを象っていく。
それだけではなく、その跡から球体に彩までついて行った。
そしていつのまにか、その球体が透明な地球儀となっていた。
ここで終わりかと思ったけれど、まだ曲は続いている。
残り1分くらいだろうか?
何をするのかと思えば、氷の地球儀を包むように2つの氷の手が作り上げられ、そこから瞬く間に美しい女性が形作られた。
服装からすると、なんか神聖な感じがするし、女神様をイメージしているんだろうか?
顔は、すごく美しい。
なんとなくボボンに似ている気がするけれど、これ自分だったりするのか?
その辺りはわからんけれど、とにかくすごい技術だってことはわかった。
氷の彫刻たちは幻想的な光を放ち、それはもう美しい姿で会場に聳え立っている。
魔術もスケーティング能力も、やっぱり相当なもんだ。
『なんとぉ!巨大な地球を慈しむように包む女神様が現れました!巨大で神秘的で……正に奇跡です!』
いや、奇跡まで言うのはどうかと思うけれど、テンションたけぇなおい。
『これは得点が楽しみです!……あっと、審査の結果が出たようですね!これは……驚きの500点満点です!今大会初の500点満点!もちろん現時点で最高得点です!明日、この演技を超える選手は現れるのか!?それでは皆さん、また明日お会いしましょう!』
会場から、世界中からの拍手を受けてボボンが笑顔で氷像から降りてきた。
そのまま俺の方へとやってきて、先程までの汚れのない笑顔から一気にニヒッとした笑みへと変わった。
「ねぇねぇ大試くぅん、あちし、満点だよぉ?本当に明日勝負するのぉ?それとも、ここで負けを認めちゃうぅ?」
「あ?いや、俺達が勝つから問題ないぞ。じゃあお疲れ」
「え?あ、うん。おつかれ……えぇ……?
演技を終えた彼女へと挨拶を終えたので会場を後にすることにした。
さて、美玲柚ちゃんを膝の上に乗せて食事させ、有栖にほっぺた突き刺される仕事をしないとなぁ……。
明日のためにも栄養を取っておかなければ。
多分、かなり激しい戦闘が起きるだろうし……。
スケートじゃないタイプの。
俺は、世界平和を願いながら、自分たちへ充てがわれたホテルへと向かった。
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