689:
スピードスケートのブレードは、フィギュアスケートのブレードよりもシューズ前の部分が長い。
なので、当然だけどもフィギュアスケートで使うには適さない。
だがしかし!
それは不可能を意味するものではないのだ!
「ふぅ……。うん、久しぶりだけれど、ちゃんとできたな」
「……………あ、え?どうしてあんなことができるんですか!?」
「うん?あんなこと?」
「スピンとかジャンプとか!スピードスケートでしたよね!?」
「スピードスケートだよ?スピードスケートでスピンやジャンプできるまで練習しただけだよ。時間はクソみたいにあったからな。それこそ、スケートどころかウインタースポーツが大嫌いになるくらい」
「練習すれば出来るものなんですか!?スピンは竜巻みたいになっていましたし、ジャンプなんてあれ何回転していたんですか!?」
「回転?えーっと……30回転くらいかな?数えてなかったわ」
「私が一瞬で魔力を使い切るつもりでやっても18回転が限界ですよ!?どんな魔術使ったんですか!?」
「魔術?そんなもん使ってないよ」
「はい!?」
「パワーだよパワー」
「パワー!?」
前世の俺は、学童保育所というものに通わされていた。
小学1年生から3年生の間に、日中働いていたりで子供の面倒を見れない親が預ける保育所みたいなもんだな。
ここに通わされると、冬の間は当たり前のように死ぬほどスケートを滑らされるんだ。
特に冬休みは、無料開放されている小学校のリンクに向かわされて、午前と午後それぞれで数時間ずつやらされる。
やらないと怒られるし、何より寒いから動いていないと死にそうになるんだ。
学校の授業もキツかったけれど、時間だけで言えば冬休みの学童ブートキャンプのほうがキツさは上だったなぁ……。
そんな辛い状況なもんだから、滑るのに飽きたとしても何かしら滑ることを続けないといけない。
そうなると大半のガキどもは、スピードスケートではなくフィギュアスケートみたいなことをやろうとし始めるわけだが、大抵はすぐに諦めて友達と鬼ごっこみたいなことに興じ始める。
じゃあ、友達がいない人間、つまるところ俺みたいなやつは何をするかといえば、できるまでスピードスケートでフィギュアスケートを練習してたわけだ。
その時の経験を転生してから、木刀をコツコツ生み出して上げた身体能力を活用して練習した結果、前世ではイメージするだけで実現できなかった本格的なフィギュアスケートみたいな動きができるようになった。
といっても、スピードスケートの先端の尖っている部分って、フィギュアスケートのトゲトゲより上部側にあるから、かなり足をピンとしないといけないし、1箇所しかないから、できる技の種類も限定されるんだけどもね。
小学校の校庭に作られるリンクは、外周はスピードスケートで普通に滑る部分になっているし、真ん中はリンクの南北をつなげるような形になっていて、上から見ると目のような見た目になっている。
その瞳部分が滑るの下手くそな奴らとか、俺みたいな馬鹿なことをする奴らの練習場所になっていたので、それはもうずっとジャンプの練習してたわ。
前世の一般人的な身体能力でもジャンプは力任せとはいえできていたし、スピンもなんとかできていた。
やったあと、しばらく脚がジンジンするくらい負担かかるけれども……。
スピードスケートで回転するときのコツは、フィギュアスケートに比べて前部分が長いせいで重心がブレやすいので、それを意識して体の中心を一本線がが通っているようなイメージをし、それが丁度ブレードの先端に来るように氷上に突き立てることだろうか?
ただ、感覚としては竹馬とかに近い気がする。
あと、多分靴にも体にも悪いので、やらないほうが良いと思う。
なんなら、ウインタースポーツ自体体に悪いと思うからやらないほうが良いと思う。
冬場は、皆で体育館で運動しようぜ教育委員会様!
まあ、前世でどうこうって言うことは言わずに、濁しながら説明してみた。
「そんな感じ?」
「あの……大試様、私とお友達になりますか……?少し可哀想で……」
「いや、まあ、そこまで憐れまれるほど友達がいないことを辛く思ったりはしていなかったけども……。それに、最近は割と友達いるんだぞ?少なくとも、友達って言ったら認めてくれるであろう人間が学園に2人はいるし!」
委員長は多分認めてくれるだろうし、彩音あたりは逆に友達だと言ってやらんと泣くだろう。
他は……婚約者はノーカンとして、マイカはどうかな?
うーむ……あれ?皆女だな?
男友達いないぞ?
強いて言うなら、マッスル部辺りが一番友好を築いている感じか……?
あとは、最初の寮で一緒だった奴らと寮の食事を改善して意気投合したような気も一瞬したけれど、その後すぐに寮を出たしなぁ……。
「ごめん……。やっぱり友達あんまりいなかったわ……。友だちになってくれ……」
「はい……えっと、よろしくお願いします」
スマホの連絡先に12歳女児が追加されました。
「それで、あの自称女神に勝つ作戦を考えたんだけど、聞くか?」
「作戦!?はい!よろしくお願いします!」
「おっけー。俺は、フィギュアスケートを実のところ詳しく知らなかったんだ。だからルールを色々と確認した結果、今回の大会のルールに重大な穴を見つけた」
「穴、ですか?」
この世界のフィギュアスケートは、前世のものと大きく違い、芸術点が物凄く高い。
ジャンプもスピンも、成功時のポイントよりも、それをどれだけ美しく演出できたかが優先される。
そして、その演出に魔術を使うことも許可されており、魔道具であっても、仕様者が競技者本人で、尚且つ魔力源が本人である場合に限り使用することが可能なんだそうだ。
魔石を動力源にしているタイプは禁止な。
つまりは、自身の魔力を使う行為自体は、本人の能力の内という理屈らしく、魔力の割り振りの技術も評価対象なんだ。
アホみたいに一瞬で魔力を使い切ってすぐにガス欠なんて事になったら笑えないので、普通は全体的に程々の魔力を使用して、大技の時に重点的に魔術とかで使用するのがセオリーらしい。
さっきの美玲柚の演技で言えば、空中に氷の道を作り出し、その上を滑走するような幻想的でアクロバティックな部分がそうらしい。
そこで俺だ!
多分常に大技を連発していたとしても、一曲やりきるまで魔力が枯渇することなんて無いだろう魔力を誇る俺であれば、ゲームチェンジャーにでもなれるだろう。
流石に、照明と音楽演奏に関しては、会場に備え付けのものを使えるらしいけれど、他の部分は魔力でどうかしないといけないんだからな。
とはいえ、俺はこの世界のフィギュアスケートに全く馴染みがない。
だから、仮に俺が大会に1人で出た所で練習もなしだと大して活躍もできないだろうなぁ。
なので、ここで美玲柚ちゃんが重要になってくるんだ。
俺のバ火力演出をフィギュアスケートへと修正するキーパーソン。
それが、美玲柚ちゃんに求める技術だ。
まあ、そういう理屈で提案するだけで、実は俺……とイチゴで見つけたルールの穴は、そんな小細工じゃどうにもできない圧倒的なアドバンテージを確保できるものっぽいんだけども……。
「というわけで、美玲柚ちゃん。大会には、俺とペアで出場しよう」
「えっ!?」
感想、評価よろしくお願いします。




