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歓迎のパーティーは、滞りなく終了した。
途中ちょっとしたトラブルはあったけれど、周りのオッサン共は、ザワザワしながらもワイングラスを持ったままだったし、うちの王子様は、敢えて見て見ぬふりして談笑し続けてくれていたし、王女様は、俺にあーんするための料理をモリモリ取りに行っていたし、起きた事態のヤバさと比べて本当に滞りなくパーティーは終了した。
可哀想なのは、ボンボンだろうか?
ボボンによって魅了か何かされた奴らが、政府高官だらけだったもんだから、周りの指揮をとれる者が軒並み俺へと挑みかかって返り討ちにあい床とキスしていたせいで、仕方なくボンボンが外の警備を呼んだりボボン一味を運び出したり、パーティーの進行を止めないように必死に立ち回ったりしてたしなぁ。
王子は、
「あの状況で言われっぱなしというのも問題だが、だからといってすぐさま殴るのも問題だぞ?まあ、私たち、国の代表のトップ陣は、直接見ていないからそこまで問題を大きくするつもりも無いがな?」
なんて言っていたし、特にお咎めは無さそう。
王女は、
「私ももっとあーんしたいです!同じ部屋で寝たいです!」
と珍しくほっぺを膨らませてぷんすこ怒っていた。
可愛かったのでその膨らんだほっぺたを突っついてみたら怒って胸をポカポカと叩かれた。
因みに、有栖が怒ってポカポカしてくると、俺のように身体能力が上がっていない場合は命にかかわるので注意が必要です。
そんなこんなで、パーティーの翌日となりました。
俺が今どこにいるかといえば、床が氷で覆われたドーム状の建物の中だ。
何故こんな所にいるのかって?
そりゃ当然あれよ!
「はぁ……スケートかぁ……憂鬱だ……」
「大試様は、スケートは苦手なのですか?」
「苦手……うーん……滑ることはできるけれど、嫌な思い出が多すぎて、苦手意識があるんだよな」
「では、最初は私の滑りを見てください。それで、あの女に勝つために修正すべき所が無いか、意見を頂ければと」
「ああ、分かった。じゃあそうしよう」
というわけで美玲柚ちゃんオンアイスを見ていた訳だけれど……。
「どうしよう……俺の知ってるフィギュアスケートじゃねぇわ……」
「ほう?大試の知っとるフィギュアスケートとはどんなんなんじゃ?」
「いや……俺が知ってるのだと、あんな風に魔術の演出は入りませんよ……」
「それじゃと地味なんじゃ無いかのう?」
「その中で競っていたので……。4回転ジャンプとかが成功すると、結構な盛り上がりでしたけど……」
「じゃが、これと比べると地味じゃろ?」
「地味というか……違う競技ですね……」
目の前で繰り広げられるスペクタクル。
美玲柚ちゃんは、氷上を美しく滑っていた。
フィギュアスケートは、男子も女子も年齢がある程度低い方が美しく滑れるらしいけれど、12歳の美玲柚ちゃんの姿は、身長もそこそこ高いとはいえ、手足がかなりすらっと長く、それでいて折れてしまいそうな華奢な肉体は、まるで妖精のようで……。
しかし、その美玲柚ちゃんが滑っている氷が、床にある訳じゃ無いという一点だけで、この滑りが俺の知っているフィギュアスケートでは無い事が確定してしまった。
だって、空飛んでるように滑ってるもん。
そして、その他の幻想的な演出まで、セルフ魔術で行っているようだ。
舞台装置のように展開される高度っぽい魔術の連続に、素人の俺でも拍手を送ってしまった。
一曲滑り終え、肩で息をする美玲柚ちゃんが、リンクの外で待機していた俺の元へとやってきた。
「どうでしたか?お気に召して頂けましたか?」
「うん、ちゃんとフィギュアスケートを見たのは初めてだったけれど、すごく奇麗でカッコよかったよ」
「きれ……!?そ、そうですか……ありがとうございます……」
照れているのかモジモジする美玲柚ちゃん。
言われ慣れているのかとも思ったけれど、案外そうでも無いらしい。
「……あの、大試様」
「ん?」
「何故、あの場で決着をつけてしまわれなかったのですか?態々こうして再戦の舞台を用意してまで……」
あのパーティで美玲柚ちゃんは、相当ブチ切れていた。
泣きながら父親の卜部侯爵に縋りついていたし。
侯爵は、現在薬で寝かされて病院のベッドに縛り付けられている。
起きると、ボボンちゃんの所に行こうとしてしまうので、仕方なく薬を打たれているって訳だ。
目を覚ました際に、近くに実の娘である美玲柚ちゃんがいたとしても反応せずにボボンの所へ行こうとするその姿は、とても分かりやすく洗脳を疑わせる状態だったなぁ……。
だから、ボボンちゃんと直接戦える今回の機会に喜んではいるみたいだけれど、何故俺がそんな機会を作ったのかはわからないらしい。
まあ、難しい事じゃないんだけども……。
「アイツに勝つと、魅了だの洗脳だのを無効化できるかもしれないんだ」
「そうなんですか!?」
まあ、ランダムだけどな。
「だから、卜部侯爵を回復させて連れ帰る事が出来るかもしれない。だったら、敗北感を味合わせるためにも、あっちが用意する土俵で戦ってやって、その上で勝つのが一番良いと思ったんだよね」
「ですが……」
「何よりさ、どうせなら美玲柚が笑顔になれる結末が良いだろ?」
「私が……笑顔……?」
「そうそう。やっぱり少しでも仲良くなったら、その娘にはハッピーな未来が待っていてほしいってのが俺の希望だから。何より、そうやって女の子を幸せにすると、俺の婚約者たちが割と褒めてくれるんだ。それが結構嬉しい。少なくとも、世界中を敵に回してでも褒めてもらいたいくらいにな」
「ハッピーな未来……」
少し顔を赤くしながらも、ここからどうやったら幸せをつかむことができるのか悩んでいるように俯く美玲柚ちゃん。
まあ、それはこれから考えるから、今度は俺も滑って確かめてみるか!
完全勝利の為にもな!
俺は、美玲柚ちゃんがリンクから出てきたのを見届けると、その出入り口から逆にリンクの上へと乗ってみた。
「え?あの、大試様?何を……?」
「いやぁ、久しぶりに滑ってみようかなってさ」
「滑ってみようかな……って……、どうしてスピードスケートのシューズを履いているのですか……?」
だって、俺がまともに扱えるスケート靴って、これだけなんだもん……。
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