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「た……大試くん……?何考えてるの……かなぁ?こんなに大勢の前で、小さい女の子を殴り飛ばすなんて……犯罪だよ……?」
「こっちは、特使を洗脳されてんだ。その時点で戦争になってもおかしくない状態だぞ?」
「あ……あはは……!そんなの!他の人達にはわからないし!どこにあちしがそんなコトしたって証拠が……」
「関係ないな。周りの奴らが見ていたのは、護衛は1人しか認めないと言っておきながら、自分たちは数十人の男たちを引き連れてガキが威圧してきたもんだから、それで小さい女の子が泣かされて、その反撃として実力を行使した、ってところかな?」
「じ……実力って……あはは……!血!口から血出ちゃってる!これ見てどっちが悪役かなんて、誰から見ても明らかでしょ!」
「その割には、誰も助けに来てくれないな?」
「えっ……」
本人の言うように、10歳そこそこの女の子が殴り倒されて口から血を流し、高校生男子がその女の子に悪い顔で詰め寄って睨みつけている光景は、確かに第三者視点だと警察通報不可避な状況だろうさ。
だけど片方は、その通報すべき警察に当たるアメリカのお偉いさんたちと警備をしていた者たち。
もう片方は、事前にそいつらに詰め寄られていただけの他国の人間。
ここが、外交上の重要なイベント会場であり、出席しているのが外交関係の人間ばかりなこの状況。
そうなれば、周りにいる奴らなんて、狸と狐ばかりなわけで。
「なんで、皆見てるだけなの……?」
「どっちの味方になるか考えてるんだろ。あと、自分たちに矛先が向けられないかも不安なんじゃないか?」
「だったらお前を倒せばいいでしょ!?」
「いや、発端はお前らなんだから、自分たちが俺と同じ立場になりかねないって不安なんだろ。自業自得だって。おまけに、いま自分たちについてる護衛は1人だけで、全員合わせても大した戦力にはならない。状況の見極めに慎重になるのは当然だなぁ?」
俺みたいに、もう最初から碌な事にならねぇだろうなって確信して脱出手段を用意してきた俺達みたいな奴らばかりって事はないだろう。
俺だって、ファムとかイチゴがいるんじゃなければ軽はずみな行動しようとは思わんもん。
かといって、そんな状況で行動を起こす俺と敵対するのも恐ろしいだろうし……。
「どう……するつもり?あちしを殺すの?あはは!大試くんに人が殺せるの?それともエッチなことでもしちゃう!?」
「うーん……。お前みたいなやつ、よくいるよなぁ。自分が優位に立っていると思ってるときには、ドヤ顔でイキリまくるし、逆に窮地に追いやられると、更にペラペラ喋り始めるの。余裕が無いことがバレたくないからか態度こそ偉そうだけど、随分俺のことが怖いみたいだな?キョロキョロと辺りを見回して、起死回生の何かが無いか探してるのか?なぁ、女神様……」
「ぶっちゃけお前、人間だろ?」
ある程度確信が持てたので、勝ちを取りに行くか。
何をもって勝ったことになるかはわからないけれど、多分できるだけ精神的な部分で屈服させないといけないだろうし。
しかも、3回も……。
めんどくせぇ。
「……何を根拠に言っているのかな?」
「人間として生まれて、今まで育ってきたんだろ?だから、とんでもないギフトもっていても、こうやって俺にぶちのめされてんだ。そこまでしてでもわざわざ俺に嫌がらせしに来た理由はわからんが、このまま俺がお前の頭なり心臓なりを破壊してしまえば、それでもう終わり。これで神様だったら、逆に赤っ恥も良いところだよなぁ?……おーい?返事は?」
「ふっ……ぐっ!!!」
調子こいた表情は鳴りを潜め、怒りに染まった顔でこちらを睨みつけるボボン。
マジでなんでそこまでしてこの世界でちょっかいを掛けてきたのか知らんが、こっちとしてはいい迷惑だ。
それだけならまだしも、俺の庇護下にある女の子をコイツは泣かせた。
その状況で何もしないなんて、それだけは無理なんだよ。
だって、俺がそんなしょっぱい事をしたら、聖羅たちががっかりすると思うし。
仮に世界中から「DV野郎!」とか、「女の敵!」とか言われたとしても、俺の大切な人たちから嫌われるのだけは我慢できない!
そのためなら、女の子だろうと殴るし泣かせます!
『お?我が使用者!勝利回数が1になりやがりました!あと2回わからせやがりませ!』
「…………」
正直この剣、絶対本気出せば今の時点でランダム変換できるだろ?って気はするけれども、もうそれを指摘するのも面倒だし、仮に指摘しても素直にやってくれる気がしないのでねぇ……。
まあ、なんとかしてあと2回勝ってみるか……。
「チャンスをやるよ」
「……チャンス?」
まな板の上のコイ状態だった所に、俺から救いの手を伸ばされた事に訝しげな表情になりながらも、無視することもできない様子のボボンちゃん。
そうだそうだ、ここで諦められちゃ、お前のギフトをランダム変換の対象にできないんだよ。
さぁ、もうちょっと頑張ってみよう!
頑張れ頑張れ!
「俺達はさぁ、スケート大会をしようって話でここまで来てんだよ。だから、そこでリベンジマッチをさせてやる。俺だけで決着をつけちゃうのが一番スムーズなんだろうけどさ、俺よりももっとお前をぶちのめしたいって目してる子がいるからさ」
「はぁ……?」
俺が親指で背後を指し、ボボンちゃんがそちらを見る。
「パパ!パパ!」
そこには、気絶して倒れている自分の父親にすがりつく美玲柚ちゃんがいた。
何度かこちらを確認し、ボボンちゃんにさっきのこもった視線を向けている。
もっとも、そのおっさんをぶん殴って気絶させたの俺なんだけどな!
でも襲いかかられたことへの正当防衛だから仕方ない!
「……あ、あははは!いいよ!そのお誘いに乗ってあげる!絶対に後悔させてあげるから!あちしが、絶対に大試くんの大切なもの全てを奪って、キミのバランスを取ってあげるねぇ!」
地獄におりてきた蜘蛛の糸をひったくるように、またもイキリモードへと移行したボボン。
いいぞいいぞぉ!
これであと2回、ぶちのめしてやることができる!
あれ?
俺って、悪役じゃないよな?
まあいいや……。
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