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「スケート?」
「おう!スケートだ!知ってるよな!?」
「いや、知ってますけど……何でスケート?」
王様に呼び出されて、謁見の間までやってきた俺。
私室ではなく、わざわざこの色んな目のある所に呼び出してのお願いって事は、これが公的なものであり、どこに隠す物でもない仕事ってことだ。
意外とないんだよなぁこの手の待遇……。
内緒でアレしてコレしてみたいなのばっかで……。
そこで頼まれたのが、スケートに関する事らしい。
「今度アメリカ主催で世界中の国々との初の会合が企画された!」
「へぇ、それは凄いですね」
この魔獣だらけの世界で、世界中から人を集めて何かを行うってなると、それはもう大変な手間がかかる。
海には、魔皇クジラみたいなのがウヨウヨいるし、空は空でドラゴンだのなんだのがビュンビュンしている。
魔境の空なんて、もう地獄だ。
アメリカは、空を飛ぶ魔物とか、対空攻撃ができる魔物は、発生したらすぐに殲滅することで、自国領土内の飛行機での移動を可能にしているらしいけれど、それを外国との間でもやってのけるのなんて不可能だろう。
となれば、襲われても撃退できるだけの航空戦力で護衛しながら、各国のお偉いさんを自国まで運んでこないといけない訳で。
うん、イチゴエア無しだったら絶対俺にはできないわ。
やりたくもないし。
「それはわかりましたけど、それがどうスケートと結びつくんですか?」
「日本では、そこまで一般的ではないがな!外国の上流階級がやるスポーツといえばスケートだぞ!だから今回、各国の首脳陣、もしくはそれに近い政府高官の子女でスケート大会を開こうという話になってな!」
あのクソスポーツがステイタスな世界だと!?
聞いたこと無いんだが!?
寒いわリンクに金かかるわで、人間と自然に全く優しくないスポーツの代表選手じゃん!
「理解できない……」
「スケート靴は必要だが、後は氷魔法を使える魔術師さえいればリンクを作ることができる!逆に言えば、それだけ広範囲を凍らせられる実力を持った魔術師を擁する家であるとアピールできるわけだな!まあ、日本にそんな文化は無かったが!それでも西洋文化を真似て自分の子供にスケートをやらせている貴族は日本にもいるぞ!」
西洋かぶれって、この外国との繋がりがあまり強くない日本にもいるのか……。
いや、インターネットでは繋がっているから、現地に実際に行けないからこその憧れみたいなもんはあるのかも?
過去にはリンゼの先祖みたいに、海を渡ってくる根性据わった方々もいたらしいし。
だとしても!だとしてもだ!俺にはわからない事がある!
「で、何で俺にその話を持ってきたんですか?うちは、そんな西洋かぶれのスケーター一家じゃありませんよ?大体、貴族としても駆け出しの木っ端ですし、管理しているのは、未開拓の森と山ですよ?」
貴族の子女にさせているスケート競技って事はアレだろ?
フィギュアスケートだろ?
そんなもんを俺がやってる訳がないじゃないか。
今世どころか前世でも縁が無かったわ。
強いて言うなら、近くにスケートリンクがあったから、そこを学校の遠足か何かで見学に行った時に、フィギュアスケーターが練習してるのを見たことがあるくらいか?
テレビでスケートが映ってると、つまんねーから即チャンネル変える程度には興味が無い。
「いや!お前の両親から聞いているぞ!『大試はスケートが得意』だとな!』
「あんのあんぽんたんたち……」
確かに、俺はスケート自体はできる。
開拓村の近くに湖があって、冬になるとガッチリ凍り、水面が凍っている間は近くに魔獣も現れないからと冬場の遊び場になってたんだ。
そこで、母さんと父さんが自作したスケート靴で滑っていた事はある。
あるが……。
恐らく、王様がイメージするスケートと、俺が実際にやっていたスケートは、全く異なる物なんだよなぁ……。
「それに、何も大試にスケート大会に出ろと言う訳ではない!お前は、あくまで護衛兼話し相手だ!アメリカまで連れて行ける人数があまり多くないのでな!個人で頼りになる戦力を配置したい!ついでにスケートに理解があるものであるなら尚いいと言う事だ!」
「あぁ……」
流石のアメリカも、制限なく大量の人間を護衛して送り届けるのは難しいってことか。
それにしたってなぁ……。
「因みに、行くのが決定しているのって誰なんですか?」
「王族からは、宏崇と有栖だな!」
「……宏崇王子は、国の代表代理って事ですよね?じゃあ、スケートやるのは、誰なんです?有栖もスケートしているイメージ無いんですけど」
「過去に有栖にスケートをさせてみたこともあるがな!踏み込んだ時にリンクが横にズレて以来禁止している!卜部侯爵家第1令嬢、卜部美玲柚嬢だ!12歳とまだ幼く、同級生の顔すら満足に覚えていないお前は、恐らく知らないだろう!」
ですね。
知らないです。
ウラベって、なんか前世で聞いたことある気がするけれど、どんな字を書くのかすらわからんもん。
「まあ、有栖が行くって言うなら、護衛としてついて行くのは構いませんよ」
「おお!そうか!助かる!」
王様だけではなく、他の貴族たちもホッとしている雰囲気がする。
俺が何かの理由でこの頼みを断った場合、自分たちにお鉢が回ってくるかもしれないんだからそりゃ嫌だよなぁ。
『個人で強力な戦力』って、それはつまり、『万が一外国の勢力が揃って敵に回ったとしても、少数の護衛だけで逃げ帰ってこれるだけの戦力』って事だもんなぁ。
「因みにだが!聖女である聖羅も是非呼びたいという話も来ているぞ!」
「絶対にダメです。名指しで聖羅を呼ぶなんて絶対に悪いこと考えてますもん。俺にはわかる」
「過保護なお前の事だから全力で断るか、むしろ婚約者たちとの旅行だと張り切るかのどちらかだとは思っていたが、断られたか!まあいい!」
聖羅は、俺と一緒に行きたいって言うだろうけれど、聖羅を名指しで相手が呼ぼうとしている場合、今の所碌な事が起きてないんだよなぁ
というわけで、今回はお留守番だ。
また、毎日夜に長時間のテレビ通話が必要だろうが、それは仕方がない。
そうして、その後も2~3話をした後に謁見の間を後にした俺は、王都の街中に用意した犀果家の別荘……というか、テレポートゲートを隠すためのタウンハウスに向かった。
王城に近い所なので、利用頻度は高いけれど、俺が寄る所が入口からテレポートゲートの間の通路だけなので、殆ど未使用状態の部屋だらけだったりする悲しい建物だ。
その中に入って直ぐ、時計からソフィアさんがドロンと出てきた。
今までにゅるっと出て来てたのに、出てくる時のエフェクトを変えれるようになったのか……。
変なとこ拘るなぁ……。
「のう大試よ、何故スケートと聞いた時にあんなに嫌そうな顔しとったんじゃ?」
ソフィアさんが、心底不思議そうに聞いてくる。
まあ、俺はソフィアさんの前で、スケートについて語った事今まで無かったしな……。
「スケートが嫌いだからです」
「じゃが、昔はよく湖でやっとったんじゃろ?」
「あれは、母さんと父さんが俺に合わせて作ってくれたスケートシューズで、俺がやりたいと思った時だけやらせてくれていたから喜べたんですよ」
「む?では、他にスケートが嫌いになる経験でもあるのかの?」
「えぇ、まあ…………」
俺の目線が遠くなった。
ああ、思い出されるあの悪夢……。
「前世の話なんですけど……」
「おお!前世のう!おヌシ、あまり前世の話をせんから、興味あるんじゃよな!」
「楽しくないですよこれは……」
嫌そうな顔のまま、俺は説明を始めた。
「俺が前世で住んでた地域は、小学校の校庭に、冬場スケートリンクが作られるんですよ」
「おお!それは凄いのう!」
「そこで、とにかくスケートが嫌いになる程スケートさせられるんです」
「……お、おう?」
「しかもですよ……」
俺は、目線をソフィアさんに戻す。
これは、非常に重要な事だからだ。
「王様の話から察するに、今回のスケート大会で行われるのは、フィギュアスケートなんですよ」
「あの踊るような奴じゃな?エルフの集落じゃと、カーリングばっかりでスケートはよくわからないんじゃよなー」
「エルフの皆さんなら、フィギュアスケートが似合いそうですね……。いや、話し戻しますけど、俺がやってたスケートって、フィギュアスケートじゃなくてですね……」
「ゴリゴリのスピードスケートなんです……」
「スケートはスケートなんじゃろ?何が違うんじゃ?」
「全く違います!」
「ぬお!?」
ソフィアさんが仰け反る程の勢いで言ってしまって少しだけ後悔したけれど、だって違う物は違うんだもん!
俺は、ソフィアさんにそれを説明することにした。
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