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ああ……むかつくむかつくむかつく……!
大試君が……大試君があっちの世界で楽しそうに、幸せそうにしているのがむかつく!
大試君は!本人は別に悪いことしていないのに、ちょっと引っ込み思案ってだけで、普通の人間が思春期に体験する幸せを殆どできず!
不幸って言う程でもないけど、周りから羨まれる事なんて絶対無いっていう絶妙などうしようもなさが良かったのに!
それをあの女神の小娘のせいで……!
しかも、その女神自身も大試君と恋人どころか婚約者にまでなるだって!?
ああ……むかつくむかつくむかつく……!
よーし、こうなったら邪魔してやろっと!
あの女神の兄貴には、大試君の件で貸しがあるし、何とかなるでしょ!
あの女神の後を引き継いだ女神……リスティだっけ?
あいつも、自分の神格を上げることに大して興味もない変人だし、こっちからの強い要請なら断れないだろうし?
大試君さぁ、そっちの世界で、すごくすごーく幸せだったよね?楽しかったよね?大切な物、いっぱい見つけたんだよね?
だったらさぁ、ここはやっぱりバランスとるために、全部奪われるべきだと思うんだ!
だから、いっぱいいっぱい辛い目に合ってね!
でも、あちしが手を直接出すのは流石に御法度だし、ほっとけば大試君の物を全て奪ってくれそうな奴を送っておこっと!
そうだなぁ……。
条件は、『イケメン』、『勉強が出来た』、『運動が出来た』『彼女が沢山いた』、『友達が沢山いた』『非童貞だった』、『親からの愛情をいっぱい受けていた』、『家がお金持ちだった』、『周りの誰かを虐めていた』、って感じかなぁ?
これくらい大試君と正反対にしておけば、大試君に酷い事してくれそうだし!
あ!そうだ!ついでに、『フェアリーファンタジーのヒロインである聖羅がすごく好き』ってのも追加しておこうかな!
きっと1人くらい該当者いるでしょ!
うん、丁度良く今みつかった!
えーと?
死んだ状況は……ドラッグをやりながらお酒飲んで、更に火遊びまでしてたら、過剰摂取からの虚脱状態になってから火がお家に引火。
そのまま焼け死んだっと……。
なーにこいつ!最高にクズで幸せな人生歩んできてるじゃない!
おまけに、趣味が他人の彼女を寝取る事?
もう最高ね!
あー……楽しみだわ……。
待っててね大試君……。
またすぐに、元のどうしようもないキミに戻してあげるから……。
あちしが絶対に戻してあげるから……。
そうだ!
大試君の心が限界まで擦り切れた辺りで、あちしが優しくしてあげたらどうだろう?
自分の大切な物が全部奪われる原因となったあちしを最後の心の拠り所にしたとき、大試君は本当にバランスの取れたどうしようもなさになるんじゃないかな?
そうしよう!
あちし、現世に顕現したら、人間の尺度だと世界一美少女だし!
大試君もきっと気に入っちゃうよ!
赤ちゃんだって産んであげちゃう!
神気を分けて作る子供じゃなくて、生物としての繁殖なんてしたこと無いけれど、大試君をどうしようもなくできるなら構わない!
そして、あちしが赤ちゃんを産んで、大試君が大喜びで泣きながら「よくやったな!」なんて言ってくれてる時に、あちしが女神様で、前世の世界の世界神で、転生してから大試君が得た物を全て失ったのがあちしのせいだってことまで教えてあげたら、どんな顔してくれるのかな?
バランス!バランスとらないとだもんね!
世界って言うのは、バランスをとることで成り立ってるんだから!
本当は、大試君にそこまで興味無かったんだけどなー。
でも、やっぱり他の女神に盗られちゃうと、なんとなく腹が立つもん。
だーかーらー……。
あの小娘女神が他の男に無理やり犯されている時に、大試君とあちしがチューしている映像でも見せて上げようかな?
どんな顔するかなぁ……。
楽しみだなぁ……。
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見渡す限り真っ白な空間。
どこを見ても光が飛んできているように見えるが、決して眩しいわけではないそんな不思議な場所で、少年は目覚めた。
「…………あ?なんだここ?」
自分の置かれた状況を理解できぬまま、当たりを見回す少年。
その目の前に、突如として人影が現れた。
少年がその事態に驚愕している間に、その人影は話始める。
「目が覚めたか」
「おい!何だお前!?」
「私か?私は、神だ」
「はぁ!?」
少年は、神に対する恐れや敬いなんてものを持ち合わせない存在だった。
だから、目の前の存在が自分を神だと言い出したところで、「何言ってんだコイツ?」程度にしか思わない。
しかし、今自分が居るこの空間と、一瞬で何も無い所に人間のような何かが発生するという状況に、流石にパニック寸前だった。
「人の子よ、お前は、死んだ」
「…………あー、そういや、そうだったような……?」
少年の心の乱れは、神が何かの力を使ったのか、一瞬で沈静化していた。
そして少年は、少し前の状況を思い出す。
親の金と伝手で手に入れたドラッグを手下のように引き連れている友達たちと試し、未成年だというのに酒も飲んでハイになって、その勢いのまま手当たり次第に部屋にあった物を灰皿の上で燃やして遊んでいたら、体に力が入らなくなり、その時に火をつけていたものが床に落ちて火事になって、逃げることもできず焼かれた事を。
「……っち!つまんねー死に方しちまった!」
「本当にな」
自分の無様な死に様に舌打ちした少年だったが、それを他の者に肯定されると腹が立つ。
しかし、少年のその不満は、続いて神が話し始めた内容で忽ち解消されてしまった。
「人の子よ、お前は、ある世界に転生することになった」
「あ?転生?」
「そうだ。フェアリーファンタジーというゲームをモデルにして作成された世界だ」
「フェアリーファンタジー!?マジかよ!何作目だ!?」
「……落ち着け。全作品の要素が混ぜられている。そのため、原作通りというわけではない。生きている人々も、プログラムの類ではなく、自分で考え行動している」
神は、説明を進めるにつれ、目の前の少年の目が爛々と輝いていく事に内心不安を覚えながらも、自らの責務として話を進めた。
「その世界でお前は、将来アメリカ大統領になる予定の男の息子として転生する」
「大統領!?マジかよ!親父がでけー会社の社長ってのもわるかぁなかったが、大統領ってのは最高だ!それにアメリカだって!?ネトゲの方だったら、かなりの安牌スタートじゃねぇか!……ん?将来?予定?」
テンションが上がった少年だったが、気になる言葉のせいで少し冷静になる。
「そうだ。今はまだ、ただの会社役員でしかない男だ」
「なんだよ……まあ、少し待ちゃ大統領になるんなら、別にいいがよ。大統領の息子っつーことは、クスリも女も好き放題できそうだしよぉ!」
「…………」
神は、転生前の少年の所業をすでに調べていた。
それどころか、現世で少年を目撃したこともあった。
それ故に、今回のこの転生に関して、まったく納得していない。
しかし、神は妹女神の所業のせいで、この転生の依頼者に大きな借りがあり、断る事ができなかったのだ。
だからこそ、今こうして嫌々ながらも転生作業を行っているのだが……。
神は、依頼者の望みとは違うが、特に禁止もされていない範囲で妨害することにした。
「人の子よ。お前は、心が醜い」
「……あ?てめぇ、神だかなんだかしらねぇが、誰に口きいて……」
少年は、生前の粋がっていたノリで目の前の存在に威圧しようとしたが、すぐに震えが止まらなくなる。
神が、少し自らの神威を解放しただけだが、それだけで十分少年は委縮してしまったのだ。
「本来、お前の記憶をそのままに転生させるように要請されている。しかし、お前をそのままにしておくと、確実に世界に混乱を齎す。だから、お前が15歳になるまで、お前の前世の記憶を封印しておこう。消去ではない、封印だ。これで、依頼者からの要件に違反せず、尚且つ精神が育つだけの時間を用意できる。本来フェアリーファンタジーの主人公がプレイヤーによって操作できるようになる15歳までに、真面な精神を育むと良い」
「くそ……!」
反論したい少年だったが、どうしても目の前の存在に恐怖を覚え、それができない。
「それと、先に言っておく。お前が転生する世界には、既に数人の転生者がいる。その世界は、その中の1人が神から受けた仕打ちへの賠償で運営されている部分もある。お前が普通の人の子として生きる分には問題が無いが、もし仮に、その世界をゲームと見做し、世界の全てを自分の物であると振舞い始めれば、恐らくそれ相応の報いを受けることになるだろう。ゆめゆめ忘れるな」
神は、そう言って釘をさす。
少年が転生する先は、間違いなく幸福な場所だ。
しかし、少年が今の人格のままでいれば、間違いなく先に転生した者たちに災いを齎す。
転生者の人格を弄る事は、神には認められていない。
だからこそ、15年の間にもう少し正常な倫理観を育み、そして15歳になって、こうして刺した釘を思い出せば、滅多な事はしないのではないだろうか?
そう思いかけた言葉だったが、少年には響かなかった。
「あ!?つまり、フェアリーファンタジーの世界に転生するってのに、俺は主人公じゃないのか!?」
「もちろんだ。主人公など、存在しない。主人公をモデルにした存在ならいるが、あくまでモデルにされているだけだ」
「はっ!なるほどな!アンタの言いたいことは分かったぜ!」
転生が始まった。
神からの説明を受けた以上、ここに少年が留まり続けることはできない。
自動的に、少年の魂は異世界に転生していく。
「つまり、先に転生した奴らも、主人公キャラも、全員ぶっつぶして俺が主人公になれってんだろ!?」
「……なに?」
「俺は!神に選ばれた!やっぱりそうだったんだ!顔も良くて勉強もスポーツもできる!親も金もってた!そして死んでも、もっといい場所に転生できる!ヤベェな!楽しみになって来た!」
「おい、お前」
「じゃあな神様!楽しみにしててくれ!俺が最高のゲームエンディング見せてやるから!」
それを最後に、少年はこの空間から消え去った。
後には、神が一柱残されるのみ。
神は、周りからの目が無くなると同時に、頭を抱えた。
「…………すまん大試、なんか変なのそっちにいっちまったわ……。いや、変なのだって事は先にわかってたんだけどな……」
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