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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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662/664

662:

「ハイ!焼けました!食べて下さい!いっぱい食べて下さい!」

「ワシは、食休めにアイスじゃ!アイス沢山じゃ!」

「蝶は モグモグ いっぱい モグモグ 食べます」

「……」

「……」


 休まず食べ続けている3人。

 それとは正反対に、黙り込んでしまった俺と委員長。

 晴明さんの名前が出た途端、先を聞きたくない衝動にかられてしまった。

 とはいえ、委員長が苦労しているのを見て見ぬふりをする気にもなれない。

 協力できるものならしてあげたいし、するべきだと思う。

 委員長が陰陽師になったのって、俺が押し付けた部分が大きいし……。

 なにより、美少女が困っていたら、俺に敵対していない限りは、だけども。

 それが疑われるだけでも、俺の中で優先度はゴリゴリ下がるけれど、委員長はそういう疑いを向けることすら許されないくらいの光の陽キャ感がある。

 美少女なだけではなく、聖羅たちのように幼馴染とかでもない、俺なんかと出会ってすぐ親しげに会話を始めてくれて、それを未だに維持している美少女だぞ?

 特別天然記念物に指定するべきだと思う。

 文化遺産か?

 人間国宝かも?

 そりゃ力くらいいくらでも貸しますよ!


 って気持ちであるにも関わらず、これ以上先を聞きたくないと思ってしまうくらい面倒な相手なのが晴明さんなんだよなぁ……。


「それで、課題ってなんだったんだ?」

「あ、うん……。えっとね、『陰陽師たーるもの、みず〜らの力で金を稼いで見せるのであ〜る!!!』とかいって、この土地で商売するようにって……」

「陰陽師がなんで金儲けすることが絶対みたいな感じで言われてんだ?」

「私もよくわからないけど、晴明さん的には、陰陽師といえばお金と権力らしいよ?」

「えぇ……?」


 俗物すぎんか?


「……っていうのは表向きの理由みたいだけどね」

「表向き?」


 はぁ……と、大きめのため息をつきながら委員長が続ける。


「この前今日といったときに、晴明さんが人間の身体に戻ってたじゃない?」

「あぁ、そういえばあったな。白がめちゃくちゃドン引きしてたけど」

「あの体、流石に常に維持するのは無理みたいなんだけど、ある程度条件が揃えばかなり長時間維持できるらしいんだよね」

「へぇ」

「それで、その条件ってのが、龍脈からのエネルギーとか、陰陽術の基本動力の人の感情を集めまくることらしいの」

「燃費がクソ悪いから、ドバドバ燃料投入しようってはなしか。ラッコみたいな発想だな」

「ラッコ?」

「ラッコ」


 寒い海で生きる他の海棲哺乳類みたいに寒さに耐えられる厚い脂肪とかを獲得できていないからって、とにかく食ってエネルギーを補給し、それを燃焼させて体温を上げているというやばい奴ら。

 海産物食べ放題の状況じゃないと即死ぬという、可愛い見た目とは裏腹に、この店の常連になれそうなスタンスで生きてる生物だ。

 まあ、リアルで見てみると、案外デカくて怖かったりするんだけども……。


「それで、そのためにこの土地を買い上げて、尚且つ人間が強い感情を持ってやってくる場所にしたいってことみたいだね」

「それって、本人が言ってたのか?」

「違うよ。この前、社長室の机の上に出しっぱなしにしてあった『白タンといっしょにクリスマス計画』って題名の計画書に書かれてたの」

「あぁ……」


 あのおっさん、行動原理が単純だなぁ……。

 まあ、娘のために全てをかけてしまうという部分に関して、同じ男としては批判できない部分があるけども。

 狐耳だしな。

 許す。


「ん?社長室?」

「うん、ここの社長は晴明さんだよ。ほら、店名も晴(Sunny)明(Bright)でしょ?」

「あー……」


 もうね、なんかね、あーもう……。


「でも、金儲けとかいうなら、委員長は実家の店で結構頑張ってたなかったか?あれじゃダメだったのか?表向きの理由だったとしてもさ」

「確かに私は、あっちのお店の経営にも携わっていたけれど、アレはあくまで実家の力も使ってだからね。それと比べて、こっちはお店の土地と建物だけは晴明さんに用意してもらったけれど、それ以外は私がプロデュースしてるから、純粋に自分の力で頑張ってるの!だから私も、ここで働くことに利点があるってのもあるかな!こうやって実力をつけて、いつか私の力で商売ができるようになりたいの!」


 真面目というかなんというか、さすが委員長らしいな。


「ん?ということは、その衣装も委員長が?」

「えーと……うん、ちょっと恥ずかしいけど、私が着てみたいなって思ってた制服で……あはは」

「委員長、最高だわ。俺ここのリピーターになる」

「え!?ありがとう……理由に気になるところはあるけれど……」


 いいってことよ!


「あのね、私がこうして将来の商売の事を考えるようになったのって、犀果君のおかげでもあるんだよ?」


 委員長が、はにかみながらおずおずと話し始めた。


「俺の?」

「うん。犀果君って、最近まで王都にすら住んでいなかったのに、こっちに来てすぐどんどんお金儲けしてるでしょ?それが羨ましくて、憧れちゃってさ……」


 なんてことを言ってくれる委員長。

 だけども、委員長はナニカ勘違いをしている。


「委員長」

「うん?」

「俺はな、金儲けの技術に関して、委員長の足元にも及ばないぞ?」

「え?でも……」

「俺は、最初の発想とか、その後の要望を出すことはしているけれど、あとの難しいことは俺の周りの奴らがやってくれてるんだ。だから、俺の商売が成功しているように見えるなら、それは俺の周りがすごいだけで、俺自身が何かすごいわけでもないよ」

「そう……なんだ……成る程……そういうことね……!」


 俺のそんな情けない話を聞いて、逆に何故か逆に感心するような顔になった委員長。

 なんだ?

 光の陽キャらしくナニカ良い方に勘違いしたのか?


「大試くんありがとう!」

「え?何が?」

「私わかった!つまり、商売で成功するためには、仕事を任せられる優秀な人材を集めることが重要なんだね!」

「……うん?まあ、そうだ、ね?」

「私、なんとか自分の力で成功しようとしてたけど、それはきっと間違いだったの!私の周りには、優秀な人材がいっぱいいるし、これから新しく雇ってもいい!そして、仕事をどんどん任せていかないとダメなんだね!」

「お、おう」

「よーし!やるよ私!見ててね大試くん!私、いつか大試くんみたいに成功してみせるから!」

「頑張れ!」

「そうと決まれば、まずは腹ごしらえよ!さぁ、大使くんも一緒におかわりにいこう!」

「おお!?」


 いきなりやる気になった委員長に手を引っ張られ、無理やり食べ物コーナーに連れて行かれる俺と、俺の膝に座っていて、そのまま俺に抱えられて一緒に連れて行かれるモグモグリエラ。

 よくわからんが、委員長が喜んでいるようなのでいいか!

 よし!このまま晴明さんに関わらずに、クリスマスを過ごすぞ!


「やぁ!久しぶりだね大試くん!」


 そんな淡い期待を、晴明さん(イケメンの姿)が砕いてくれたのは、その数分後のことだった。




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