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「はいはい、座って座って!私もお腹すいちゃった!」
「ハイです 蝶は 大試様の 隣 です」
「一番焼いたお肉を配りやすい真ん中にします!」
「ワシは、一番食いモンを取りに行きやすい場所じゃ!」
「席順決めるだけで大騒ぎだな……」
『焼肉バイキング Sunny Bright』に入店すると、何故か委員長がいた。
俺の中の、こう……何かにクリティカルヒットする衣装を着て。
なにかと思ったら、ここでホールスタッフをしているらしい。
実家のやってる酒屋はどうしたのか聞こうとしたけれど、その話も兼ねて一緒に食事をすることになったんだ。
いや、店員が普通に席に座って飯食ってていいのか?って思ったら、
「うちの賄いは、いつもこれなの。その方が、皆真剣にお仕事してくれるから。自分が食べる物に変な事したがる人なんて早々いないでしょ?」
との事。
そうなの?
俺、あんまりその辺りの事情知らないからなぁ……。
「それにしても、いきなり来るからビックリしちゃった」
「いや、こっちこそ驚いたわ。なんか凄い可愛い服着てるし」
「え!?そ……そうかな?これ、うちの店の女性店員用の制服なんだけど……」
「へー。制服目的でここ入りたがる女子高生とか多そうだ」
「あはは、確かに何人かはいたかも」
準備が出来た俺たちは、早速思い思いに食べ物を取りに行くことにした。
すぐさま生の肉の方へと向かったリジェネと、俺が許可を出す前からもう飛び出していたソフィアさんは放っておき、委員長とゆっくり歩きながら向かう俺たち。
因みに俺は、こういうお店の場合、初手はサイドメニューに行く派だ。
どんなメニューがあるのかを偵察するのを兼ねてだが。
「犀果君は、何とるの?」
「から揚げ、油淋鶏、グラタン、カレー」
「さ……最初から結構重いの行くんだね……」
「ヴュッフェ形式の場所だとから揚げが大抵あるから、そのクオリティである程度その店の傾向がわかるんだよ。油淋鶏とグラタンは、今食べたかったから。カレーは、意外とこういうとこだと焼肉用に出来なかった筋の部分とかいっぱい入ってて美味いんだよなーって思って。まあ、いっぺんに大量に摂り過ぎると、確かに一気に満腹感が押し寄せて、損した気分になるかもしれないけどな。確か、食べ始めてから10分後くらいに満腹感が来るんだったかな?それまでが勝負だって聞いた」
「うわ、すごい語るね」
「だって焼肉バイキングだぞ?テンションも上がって口数も増えるのは当然だろ」
「そう?喜んでくれてるなら、私も嬉しいかな」
フフっと笑うその仕草が、衣装と相まって芸術品のようだ。
このまま絵画にしたい。
うーん……今度うちの家族たち用にも買ってみようかな?
とりあえず手始めに、今日も家の居間でゴロゴロとテレビ見てるあの猫耳メイドにでも着せてみるか。
「蝶は この 白いのが 良いです」
「これか?肉じゃないぞ?」
「お肉と 似た 成分です」
「あー……まあ、そうかもな」
リエラが選んだのは、焼肉バイキングにあるイメージがあまり無い物だった。
「へぇ、その娘、冷ややっこ選ぶなんて渋い好みしてるんだね?」
「みたいだなぁ。肉が食べたいって言ってたんだけど、タンパク質ならなんでもいいのかもしれん」
「えぇ……?」
まあそう驚かないでくれ委員長。
昨日まで、ゲームの中の森の中、それもクレーターの真ん中にいたんだ。
碌な料理も無い生活をしていたんだろう。
これから色々美味いもんを覚えさせていくから。
というわけで、リエラ用にソフトクリームを皿にとっておいた。
これだってタンパク質だし、問題なかろう?
あとは、幼女に食べさせて様になるたんぱく質といえば……うーん……ウインナー辺りか!
生まれてからずっと聖羅と生活してたから、幼女の好みもわかるはずなんだけど、アイツの食の好みは、俺が食べている物が基本だったからなぁ……。
俺は、足りない知識をなんとかイメージで補いつつ、リエラの舌を肥えさせようと考えて色々と皿にとってトレーに載せ、委員長たちと席へと戻った。
……既にソフィアさんは、第1陣を食べ終え、再出撃していたが。
「皆準備出来た?じゃあ、せーの!いただきます!」
「いただきます」
「いただき ます」
「いただきます!では焼きます!」
ソフィアさんを除いた皆で挨拶をし、食べ始める。
俺の見よう見まねで手を合わせていたリエラが可愛かった。
とりあえず頭撫でておいた。
「ねぇ、犀果君!その娘、初めて見たんだけど、犀果君の妹さんか何か?」
「ん?いや、血のつながりとかは無い」
「え!?もしかして、誘拐!?」
「そういうのでもない」
「じゃあ……そっか、もう娘さんが……」
「まだ子供ができるような行為をした経験は無い」
「……ごめん、流石にそこまで直接的な告白をさせるつもりは無かったかな……」
委員長が顔を赤くしている。
やはり、その大正ロマンあふれる清楚な美少女が、セクハラに顔を赤くしているのはいいですね。
でも、思春期の男子相手にギリギリのネタは投げない方が良いぞ?
反撃されるからな?
「まあ、話をすると長いようで短いんだけど、この前さ、聖羅から誘われなかったか?あのゲーム」
「ゲーム?えーと、確か……フェアリーファンタジーだっけ?私、あんまりゲームってやったこと無いから詳しくないんだよね」
「そうなんだ?まあ、とにかくそのゲームの中にリアルの魔神が封印されてて、最高位妖精がやらかして、それを倒さないと現実世界に解放される事態になったわけ」
「え?それって、冗談なんだよね?」
「冗談だと思う?」
「思いたいかな?」
「わかるよその気持ち」
「犀果君って、よく死んでないよね……」
ははは、俺はこの世界に転生した原因は、道を歩いている時に、兄妹げんかに巻き込まれた結果爆死したっていう、かなりしょうもない死に方をしたからなんだぜ?
そこらのモブでも中々体験できない瞬殺だったわ!
「ってことは、そのリエラちゃん……だったっけ?その娘は、妖精さんなの?」
「成程、確かにそう見えるかもしれないな。でも、外れだ」
「……待って。リエラちゃんの説明で今の話をしたんだよね?あと残ってるのって……」
「ハイです 蝶は 魔神モンシロチョウ です」
「そっかー……」
気を落とすな委員長。
妖精なんて、基本碌なもんじゃないんだからさ。
下手したら、こっちの魔神の方が素直で可愛いぞ?
「焼けました!さぁどうぞ!」
「あ、ありがとう!」
そして委員長、今お前に肉をくれた相手が、世界に破壊と混沌をもたらしかけた最高位妖精だ。
「大試よ!ケーキを大皿ごと持ってくるのはルール違反じゃろうか!?」
「ルールは知りませんが、マナー的にアウトでしょうね」
「やっぱりそうじゃろうなぁ……。半分くらいにしておくしかないか……」
「あはは……。ケーキ系は、結構コスト掛かってるから、程々にしてくれると嬉しいですね……」
燃費の悪いエルフの胃を満たすため、ピストン輸送の如く料理を持って来ているソフィアさん。
流石の委員長も苦笑いだ。
「じゃあ次は委員長の番だな。何でここで働いてたんだ?酒屋は?」
「あー……。えっとね、酒屋でも働いてるよ?1日おきにこっちと酒屋を行ったり来たりしてるんだよね」
どう説明した物かを考えているのか、天井を見上げながらリジェネが焼いた肉をモグモグと食べている委員長。
真面目な委員長が可愛い衣装を着るような仕事をする理由といえば……まさか、アレか?
男か!?
変な男に捕まり、貢ぐために金を稼いで……。
まあ、侯爵令嬢の委員長がそんな事する訳ないか……。
「実は……晴明さんに課題を出されて……」
変な男に捕まってたわ。
しかも、俺も一緒に捕まってたわ。
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