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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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648:

 蝶は、芋虫だった。


 芋虫は、大して感情が無い。

 大した思考もしない。

 それでも、本能から来る欲求として、食欲は存在していたし、成長して、子孫を残そうという目的の為に生きていた。

 脱皮を繰り返し、新しい殻に液体を送り込み、そうして大きくなっていく。


 蝶は、人間に完全変態と呼ばれる、子供の時と全く違う姿へと変じる生き物だ。

 蝶も、他の蝶と同じく、大人へと変じるための儀式を行った。

 即ち、蛹化だ。


 蝶にとって、この蛹化というのは、とても危険な行為でもある。

 芋虫の時よりは、外皮が硬くなり、目立たない色となる事で、外敵から見つかりにくくなる。

 そのため、一見安全性が上がるように思われるが、実際にはそうでもない。

 蛹になるために脱皮するのだが、その脱皮自体に失敗し、そのまま死ぬ蝶も多いし。

 実の所、天敵である鳥の目であれば、蝶の蛹の擬態など有って無いようなもの。

 更に、蝶の天敵は、他にも大勢いる。

 自分より何倍も大きい肉食性の生き物たちは、当然恐ろしい存在である。

 だが、蝶が最も警戒するのは、むしろ蝶より小さな生き物だ。

 寄生バチや寄生バエ、一部の蜘蛛等は、蝶の芋虫や蛹の体を食い荒らし、蝶の外皮を突き破って出ていくという、身の毛もよだつ行動をする。

 そんな天敵ばかりのこの世界で、動くこともできなくなくなる蛹という状態は、恐怖を感じる心があるなら、気が狂いかねない程のものであるだろう。


 それでも、蝶は、蛹へと変じた。

 それが、蝶の生きる理由だから。

 体の中をドロドロに溶かし、全く新しい生命体へと変わるために。



 1年後、蝶は、蛹のままだった。

 何故か、本来起きるべき変化が起きず、蝶へとなることが出来ずにいた。

 不思議なのは、それがおかしい事だと、蝶自身が感じている事だった。

 蝶は、それまでそんな事を考えられる程の知能を持っていなかった。

 それが、蛹になり、ドロドロに溶け、蝶でも芋虫でも無い状態になってから、霊長たる人間にも匹敵する知能を獲得していた。


 とはいえ、その知能を活かす機会は、一向に訪れなかったが。


 蝶は、考えた。

 何故、蝶はこうなのか。

 どうすれば、蝶は蝶へとなれるのか。

 考えに考え、そして最後は、願うようになった。


 蝶は、成長し、蝶へとなるために生きてきた。

 しかし、蝶は、蝶という物が何なのか、実の所わかっていない。

 多分、蝶になれば、自分の子孫を残す何かになれるのだが、そもそも子孫という物すらよくわからない。


 蛹という世界に閉じ込められてから発達した知能を得た蝶には、どれだけ思考しても、答えに辿り着けるほどの情報すら無く、それでも思考をしない事すらできず、只々時を過ごした。


 2年。

 3年。

 5年。


 蝶は、何でもない、ただのドロドロである体で感じる暖かさで、季節の移り変わりを知った。

 何時か蝶も、その季節の中で、子孫を残せる蝶になる事を夢見て。

 しかし、蝶は蝶になれない。


 ある時、蝶は、蝶という存在が、根本から変わっていくのを感じた。

 最初は、これが蝶になる事かとも思ったが、その割に、蝶の体が蝶になる様子はない。

 ドロドロが、ドロドロしたまま、サラサラしてもいる物になっていく。

 蝶は、知識は無かったが、それでも、蝶が上位の存在へと変じている事が分かった。

 蝶ではない何かに。

 悍ましい何かに。

 その変化は、蝶には止められない。

 ただただ、蝶は変わっていく。


 どれだけそうしていたのか。

 とても長かった気もするし、一瞬だったようにも感じる。

 気がつけば、蝶の中に、とても強い力のようなものが溢れていた。

 今にもその力が、蝶の外皮を突き破り、外に飛び出すほどの圧力。

 蝶は、蝶の存在を保つために、なんとか力を抑えようとした。


 抑えて、抑えて、もう死んでしまうのかと思った時に、蝶の外皮から、焼けるような痛みが奔った。

 それが暫く続くと、蝶の中の力が少し弱まった。

 何が起きたのか、蝶にはまったくわからない。

 それでも、痛い事が起きたおかげで、自分の命を長らえることが出来たようだと言う事だけはわかった。

 蝶は、痛いのは嫌だったが、死ぬのはもっと嫌だったので、なんとかその痛いの事がまた起きてほしいと願った。


 だが、蝶のその願いは、やっぱり叶わない。

 何が起きたのか、蝶は、何かに吸い込まれたような気がした。

 そうして気がつけば、蛹の中とは別の、よくわからない場所にいる。

 体は、依然としてドロドロのまま。

 しかし、蛹の中と違って、移動することは可能なようだ。

 当然、蝶になった訳では無いのだろうが。

 相変わらず、体内側から強い力を感じているし、これが本来の成長の仕方ではないと言う事は、本能で分かっていた。


「成功しました!」

「本当に成功するなんてビックリですね」

「ごっつぁんです!」


 蝶の意識に、初めて『他者』の声が聞こえた。

 それが、蝶の仲間なのか、それとも天敵なのか、蝶にはわからない。

 だけど、少なくとも、発達した知能を手にしてから初めて得た『他者』という存在に、蝶は、我慢できず話しかけた。


『あなたは ちょう?』

「会話ができるなんて、当たり個体かもです!」

「当たりとかあるんですか?」

「ごっつぁんです!」


 会話が成り立っているのか、蝶にはわからない。

 しかし、とりあえず、攻撃はしてこないようなので、蝶は会話を続けた。


「お前は、100レベル以上のプレイヤーじゃないと、即死するフィールをが作れるようになりなさい!」

『100れべる?』

「お前は、100レベル以上のプレイヤーじゃないと、真面に戦えないスペックになりなさい!」

『すぺっく?』

「お前は、死んでも1時間で復活するようになりなさい!」

『え しぬ?』

「お前は、この姿になりなさい!ニパです!ニパ!あと、服装は、これです!」

『にぱ? ふく?』


 蝶は、その『他者』の言葉を聞き続けた。

 蝶は、『他者』の言葉に素直に従った。

 蝶は、蝶には成れなかったが、全く新しい生命体へと変じる事には成功した。


 そう、蝶は、完全変態して、魔神となった。


 魔神となった蝶は、痛いのが好きになった。

 だって痛いと生きていられるから。

 



感想、評価よろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
確かに完全(に)変態だな
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