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「もう一度言いますが、死にます」
「なんで?」
「そう設定されてしまっていますので。ゲームの評判が落ちてきたら作動させてみようかなと考えこっそり実装していたデスゲーム機能が、大試様だけ適用されてしまいました。これは、運営スタッフの中で最上位の権限を持つ私たち最上位妖精たちですら、一度適用されると変更する事の出来ない設定なのです」
「なんでそんな厄介なもん作ってんだよ……。人気落ちてきたら、素直にサービス終了すりゃいいじゃん……」
「悪ふざけ……ですかね?」
「やべぇな……」
この世界の妖精とは、精霊と妖怪の中間くらいの性質を持つ厄介な存在だと聞いている。
フェアリーファンタジーなんてタイトルからもわかる通り、シリーズ内でもそこそこ重要な要素だったはずだけれど、作品ごとに設定も違うため、この世界の妖精がどんな存在なのかは、女神でないと持つことが許されない記憶を没収されてしまっているとはいえ、作ったリンゼですらそこまで詳しくないらしいと聞いた。
ざっくりいうと、真面目なのもいれば悪戯好きなのもいるし、倫理観も人間とは異なる物をお持ちらしいので、俺としてはあまり関わり合いに成りたくない存在だ。
リリアさんなら、妖精姫のギフトでどうとでもなるんだろうけれども、俺にそんな便利なもんは無い。
最悪、即死させるくらいしか対応手段は無いな……。
と、そんな相手なので、リジェネとヴェロニカという最上位妖精のトンデモ発言も、さもありなんって所だろうか。
「オブジェクト情報を書き換えて対応するとか言ってたのに、まさかそんな直接的な手段を取るとはなぁ」
「あぁ、それは、私がアドバイスしたからですね。あの子は最初本当に、、ダンジョンの壁の破壊条件に『素手での破壊は不可』とつけようとしていたのですが、それでは効率が悪いので、直接本人を死なせる機能を実装した方が良いのではないでしょうかと教えて上げたんです」
「何してくれてんだ?」
「変な事を勝手にやられるよりは、わかる範囲で悪い事をされる方が安全ですからね。オブジェクト情報の書き換えなんてされたら、バグが発生した時の修正箇所がどれだけ増えるかを考えると、とても自由にさせる気にもならず」
「だからって俺の命を生贄の如く差し出すなよ」
このヴェロニカって妖精、随分良い性格しているじゃないか?
見た目が幼女とは言え、中身はやっぱりフェアリーなんだなぁ……。
「にしたって、運営スタッフが近くに居る状態じゃないと死ぬって、具体的にはどういうことなんだ?今この状況はセーフなんだろうけどさ」
「運営スタッフが操作するNPCがゲーム内で目視確認できるくらいの距離にいない状態でしばらくプレイをすると、大試様の脳がパーン!ってします」
「パーン!ってするのか……」
「ハイです」
ハイじゃねぇよ。
「となると、今後プレイするのは無理かなぁ……。常にヴェロニカに来てもらう訳にもいかないし……」
流石の俺も、プレイするだけで簡単に死ぬゲームなんて続けるのはなぁ……。
「そこで提案なのですが、大試様。貴方がプレイ中は、今の私たちのように、ニパとして大精霊が1体着き従って、常にセイフティとして機能するようにしたいのですが、如何でしょうか?」
「いや、だからそれは難しいだろ?俺とリンゼがプレイする時間だけ付き合ってもらうとしても、結構な拘束時間になるぞ?」
「それはそうなのですが、自分で蒔いた種ですので、リジェネに優先的にその役目を担ってもらいます。文句は受け付けません」
「えぇ……?いや、そっちがそれでいいなら、こっちもそれでいけどさ……」
「私としては、折角リンゼ様が楽しんでいただける作品を作ったというのに、リジェネ個人の勝手な行動で瑕疵がつくのは納得がいきませんので、むしろこちらからお願いしたいくらいなんですよ。大試様には、是非、リンゼ様と一緒に遊んでいただけると有難いのです」
「そこまでしないとリンゼがボッチプレイになるって判断か……」
「酷くない!?」
リンゼが反論しようとしたけれど、軽くスルーする。
お前は、そういうボッチプレイする奴だよ多分。
「それに、恐らくリジェネも最初こそ文句タラタラで強制労働状態みたいになるでしょうが、その内自分から積極的に大試様たちと行動したがると思いますので、大試様が責任を感じる必要はまったく御座いません。『なんか可愛い幼女のサポートキャラが手に入ったわラッキー』くらいに思って頂ければ」
「そんな軽いノリでいいのか……?」
「良いのです。なんでしたら、大試様にだけ、ニパへのアダルト接触制限を解除してもよろしいですよ?」
「なんだそれ?」
「エッチな事ができるようにする設定です。この制限をつけたままだと、エッチな事をしようとしても弾かれるだけなんです」
あぁ……。
そういえば、股間に包丁隠しているんじゃないかと確認しようとしたら弾かれたな……。
「でも、その要素に関しては、別にいらんよ……」
「左様でございますか。でしたら、リンゼ様……✞黒猫天使✞と大試様のキャラの間でのみ、アダルト接触制限を解除しておきますね」
「は?いや、だからそう言うのはべつに……」
「では、早速今からリジェネに交代いたしますので、お好きなように命令を下してください。大試様には、逆らえないように設定しておきますので。それでは」
「え!?おいいきなりだな!?」
そして、ヴェロニカが操作していたニパがシュパッと消えてしまった。
その直後、またニパが目の前に現れた。
……亀甲縛りを課された状態で。
「屈辱です!解け!」
「……リンゼ、これが妖精流のおもてなしなのか?」
「知らないわよ……。アンタは、嬉しいの?」
「いやぁ……。厄介な事になったなぁって印象しかない」
とりあえず相手が反撃できない状態になっているようなので、ダンジョンの壁が素手で破壊できないようになっているかのチェックだけしてみるか。
あ、壊れたわ。
本当に俺を死なせる系の設定だけしたんだなコイツ。
笑うわ。
笑えんけど。
「あああああ!また壊したあああああ!えええええええんえんえん!」
「アンタ……」
リンゼからジト目で睨まれたので、この辺で許してやるか……。
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